大規模DCの課題を解決するネットワーク最新技術【第1回】
【技術解説】ファブリックから仮想化対応まで、ネットワーク構築/運用技術5選
大規模データセンターにおけるネットワークにはどういった課題があるのだろうか。その解決策の現状と今後の方向性は。本稿は、大規模データセンターを取り巻く最新技術を示す。
ビジネスの戦略拠点として期待される大規模データセンター。プライベートクラウドの導入を検討するユーザー企業から、クラウドサービス事業者まで、より高度なサービスの提供に当たって大規模データセンターの重要性は高まるばかりだ。その一方で、データセンターの足回りを支えるネットワークにもさまざまな課題が生じつつある。
本連載は、大規模データセンターのネットワークを取り巻く課題と、それを解決する最新技術を紹介する。第1回目となる本記事では、「インフラ」「仮想ネットワーク」「管理」の3つの視点から、現在生じている課題と、その解決策となる最新技術を紹介する。各技術の詳細な解説は、第2回から順次掲載していく予定だ。
連載:大規模DCの課題を解決するネットワーク最新技術
インフラ関連技術(1):ネットワーク設計の複雑さやパスの利用効率を改善
課題:STPではパスの利用効率などに限界
データセンターにおけるレイヤー2の冗長化技術として現在主流なのは、スイッチのポートをブロックすることで、冗長化時のループ発生を防ぐ「スパニングツリープロトコル(STP)」である。STPは企業内LAN(キャンパスLAN)でも広く利用される一般的な冗長化技術だ。
ただし、STPはスケーラビリティや構築面などでさまざまな課題を抱える。例えば、ループ防止のためにブロックしたポート(ブロッキングポート)は利用できないため、パス(ネットワーク経路)の利用効率がよくない。
さらに、STPでは単純にスイッチ間の接続(リンク)を増やしても、新たなブロッキングポートができるだけで、帯域や経路を増やすことができない。ブロッキングポートの発生を最小限に抑えながら拡張性のあるネットワークを構成するには、コアスイッチとアグリゲーションスイッチ、アクセススイッチからなる階層型など、ある程度決められたルールに基づいて設計する必要がある。そのため、トポロジーの柔軟性がないのが課題だ。
解決策:「MLAG」「イーサネットファブリック」などのレイヤー2冗長化手法
こうした課題を解決すべく、STPの代替となるレイヤー2の冗長化技術が登場している。その1つが、サーバやスイッチなどを結ぶ複数のリンク(回線)を束ねて冗長化する「リンクアグリゲーション(LAG)」を拡張した技術だ。ベンダーによって技術名は異なるが、「MLAG(Multi Chassis Link Aggregation)」と呼ばれることが多い。
通常のLAGは、1対1で接続されたスイッチ同士のリンクを束ねる。一方、MLAGを利用すると、1対2や2対2で接続されたスイッチ同士のリンクを束ねることができる。これにより、STPのブロッキングポートが発生する原因である三角形や四角形のレイヤー2トポロジーをなくすことが可能だ。
また、現在標準化が進められている「TRILL(Transparent Interconnection of Lots of Links)」や「SPB(Shortest Path Bridging)」といった新しい冗長化技術も有力な候補だ。TRILLやSPBは、レイヤー2の通信転送にレイヤー3のルーティングで使われている仕組みを取り入れることによって、通信先に到達するための最短経路を自動的に選択したり、複数の経路を同時かつ効率的に利用することができる。TRILLをベースとした技術として、米Brocade Communications Systemsが提唱する「イーサネットファブリック」、米Cisco Systemsの「Cisco FabricPath」などがある。
インフラ関連技術(2):セグメントを複数DC間に引き延ばす
課題:複数DCへの仮想マシン配置やライブマイグレーションの実現
災害や電力供給の不足によるシステム停止のリスクを回避するため、仮想化技術を使って複数のデータセンターに仮想マシンを配置してワークロードの分散を図る動きが、サービス事業者を中心に広がりつつある。仮想マシンを稼働中に移動させる「ライブマイグレーション」の利用などで、これを実現する。
データセンター間で仮想マシンのライブマイグレーションを実現するには、仮想マシンの移動の前後でIPアドレスを維持する必要がある。そのためには、レイヤー2ネットワークのセグメントをデータセンター間に延伸することが不可欠だ。だがデータセンター間におけるレイヤー2ネットワークの延伸は、ループなどによるネットワーク障害の波及範囲を大きく広げるリスクもはらむ。更に、ネットワークだけでなく、ハイパーバイザーが規定する帯域や遅延の要件をクリアし、データセンター間でストレージが同期している必要があるなど、インフラ全体の工夫が求められる。
解決策:「L2 DCI」などのL2ネットワーク延伸技術
複数データセンターをまたがったレイヤー2ネットワークを最適に構築できる技術が「レイヤー2 データセンターインターコネクト(L2 DCI)」である。複数のデータセンター間にレイヤー2ネットワークを引き延ばすことで、物理的な場所にとらわれずに仮想マシンを配置することが可能になる。
仮想ネットワーク関連技術(1):仮想スイッチの問題点を克服
課題:仮想スイッチのCPU負荷が増大、ネットワーク/サーバの管理境界が複雑化
サーバ仮想化を導入する際にネットワーク管理者が意識しなければならない要素として、仮想マシンのトラフィックを処理する仮想的なネットワーク機器「仮想スイッチ」がある。仮想スイッチの実態は、物理サーバのCPUを利用して動作するソフトウェアスイッチだ。
仮想マシンのトラフィックが多くなればなるほど、仮想スイッチの処理のためにCPUの使用率が高まる。稼働可能な仮想マシンの数を増やして多くの仮想マシンを物理サーバに集約するには、こうしたCPU処理のオーバーヘッドを可能な限り小さくする必要がある。
また、ネットワーク設計においては、仮想スイッチと物理スイッチの接続方式の検討やVLANの設計、仮想マシン向けのポート設定(ポートプロファイル)などが新たに必要となる。物理スイッチと仮想スイッチの双方を管理しなければならないため、サーバ管理者が物理スイッチにまで踏み込んで管理をするのか、ネットワーク管理者が仮想スイッチまで管理をするのかなど、管理境界を明確化することが不可欠となる。
解決策:「EVB」「BPE」などのオフロード技術
こうした背景を受け、仮想マシンのトラフィック処理を物理NICや物理スイッチへオフロードする取り組みが進んでいる。具体的な技術として、標準化が進む「EVB(Edge Virtual Bridging)」「BPE(Bridge Port Extension)」などがある。
EVBやBPEは、仮想スイッチの役割を物理スイッチに押し出すことで、物理サーバのCPU処理をオフロードする。さらに、管理対象を物理スイッチに集約することができるため、仮想スイッチの管理境界も明確化できる。
仮想ネットワーク関連技術(2):VLANが持つ「4096個」の制限を打破
課題:VLANではスケーラビリティに限界
大規模データセンターネットワークが抱える課題の1つに、マルチテナント環境におけるトラフィック分離の論理的なスケーラビリティの確保がある。
共通のネットワーク基盤を複数のグループ企業や部門などが共同利用する際、それぞれの通信を論理的に分離する仕組みとして広く利用されているのが「VLAN」である。VLANはIEEE 802.1Q規格で定められたヘッダのビット数の制限上、定義できる論理LANの数が4096個に制限される。
ほとんどのエンタープライズクラスのデータセンターにとって、4096個の論理LANを定義することができれば、テナント(ユーザー企業)を分離したり収容するのに必要十分だ。だが最近、VLANで定義可能な4096個という論理LAN数が課題となる場合が目立ってきた。パブリッククラウドなどのサービス基盤である超大規模データセンターは、高いスケーラビリティを生かしたサービス提供コストの低減を競争力の源泉とする。4000テナント程度しか収容できないような仕組みでは、スケールメリットを十分に生かすことができないのだ。
解決策:論理LAN数を約1677万個に拡大する「VXLAN」「NVGRE」
こうした背景を受け、VLANよりも高いスケーラビリティを実現する「VXLAN(Virtual Extensible Local Area Network)」「NVGRE(Network Virtualization using Generic Routing Encapsulation)」といった標準規格が注目を集めつつある。VXLANやNVGREは、ヘッダの工夫により、定義可能な論理LANの数を約1677万個に拡大できる。
管理技術:増大するネットワーク機器の管理や更新を効率化
課題:大規模化に伴う管理負荷の増大、短時間での機器設定変更
ネットワークの運用管理コストもデータセンターにとっての課題の1つである。管理すべきネットワーク機器が増えれば増えるほど多くのスタッフが必要になり、各スタッフに求められるスキルもますます高度になる。ドキュメント作成やオペレーションの確立など、ネットワークを維持運用するための労力とコストは増加する一方だ。
ネットワーク機器のメンテナンスにも課題がある。常時稼働を前提としたシステムの増加に伴い、システムの連続稼働時間は長くなる傾向にある。わずかなメンテナンス時間でネットワーク機器の設定変更やOSのパッチ適用をしなければならないが、設定のミスや漏れは許されない。ネットワーク管理者のプレッシャーは非常に大きいのが現状だ。
解決策:複数機器を1つに束ねる「仮想シャーシ」や無停止更新
こうした課題を解決すべく、大規模データセンター向けのネットワーク機器は、複数のネットワーク機器の一元管理を可能にする機能を備えつつある。複数のネットワーク機器で仮想的なシャーシを形成し、1台のスイッチのように管理可能にする技術が登場している。こうした機能は「仮想シャーシ」「クラスタスイッチ」などと呼ばれる。
さらに、無停止バージョンアップ(ISSU:In Service Software Upgrade)を実現する機能の搭載も進む。こうした技術や機能を有効活用することで、運用負荷の軽減やメンテナンス時間の短縮、管理ミスの低減などが実現できる。
最新技術は導入面で課題も
以上、大規模データセンターネットワークにおける新旧の課題に対する解決策として、ネットワークベンダーなどが開発を進める主要な技術を示した。ただし、共通の課題に対して複数の技術が推進されていたり、新技術だけに導入の具体的なメリットを把握するのが難しいといった課題はある。また、導入時の注意点に関するノウハウが十分に蓄積されていないなど、ユーザー側も最新技術にどう対処すべきか理解できていないのが実情だ。
本連載では今後、本稿で紹介した最新技術について、導入のメリットや従来技術との違い、導入に際しての課題や注意点、実際のデータセンターネットワークへの導入状況などを詳しく解説する。なお、大規模データセンターのネットワークにおけるもう1つの注目技術として「Software Defined Network(SDN)」がある。SDNと、その具体的実装である「OpenFlow」については、別途詳細に解説する予定だ。
著者紹介
大高智也(おおたか ともや) ネットワンシステムズ株式会社
1997年から約10年間、国内大手金融業や製造業などのデータセンターネットワークや企業ネットワーク全体(LAN/WAN)の構築において、最先端技術の安定導入を実現しながらプロジェクトを遂行してきた。現在はネットワンシステムズでマルチベンダーのデータセンターネットワーク製品の技術サポートを行っている。2005年、Cisco CCIE Routing and Switching取得。
中前 航(なかまえ わたる) ネットワンシステムズ株式会社
2005年から、企業ネットワークにおける先進技術導入の提案や構築に関わる。テクニカルプレセールスとして、多くの企業の現状や課題を見てきた。現在はネットワンシステムズでDCネットワーク製品/技術の比較検討と提案を担当。2009年、Cisco CCIE Routing and Switching取得。
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