教育とITの融合を進める米教科書出版大手
元オバマ政権CIO、次は教育を“チェンジ”
米教科書出版大手がITを使った教育変革に向けて動き出した。取り組みを主導する米大統領行政府の元CIOがまず着手したのは、保守的な内部組織の変革だった。その手法とは?
ブルック・コランジェロ氏は、既にデジタルの分野で名を成している。同氏はかつて米オバマ政権の大統領行政府(EOP)で最高情報責任者(CIO)を務め、オープンソースソフトウェア(OSS)を利用した連邦政府の公式Webサイト「whitehouse.gov」の開発プロジェクトを遂行した。さらにモバイル端末の導入を進めつつ、フロッピーディスクドライブを搭載した旧型のデスクトップPCの排除に取り組み、オンライン請願システム「We the People」などのクラウドソーシングプロジェクトも実施した。
コランジェロ氏は、大統領行政府の組織文化を大きく変えるのにも一役買った。一連の変革を迅速に進められるよう、アジャイル開発手法を取り入れたのだ。同氏がCIOとしての力量を(少なくとも政治の世界において)高く評価されているのには、こうしたいきさつがある。
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コランジェロ氏は近い将来、さらなる称賛を浴びることになりそうだ。2013年1月、同氏は米教科書出版大手Houghton Mifflin Harcourt(HMH)のCIOに就任した。政治の世界と同様、出版業界もデジタル変革が求められている部門の1つだ。
今回、コランジェロ氏に求められているのは、「教科書と学術教材の出版を主力事業とする保守的な出版会社が、テクノロジーを使って教育方法を変革するためにはどのようにすればいいか」を考え出すことだ。
2007年にHoughton MifflinとHarcourtが合併して誕生したHMHは、破産法に基づく再建手続きを終えてから、まだ1年も経過していない。「教科書やiPadだけをどうにかすれば済む問題ではない。評価や学習管理のプラットフォームも関係する。質の高いコンテンツを中心に、関連する全ての要素を連携させる能力も必要だ。教育を提供し、改善する促進要因として、新しいテクノロジーを活用する能力も関係する」とコランジェロ氏は語る。
HMHのCEOであるリンダ・ゼヒャー氏の直属の部下となるコランジェロ氏は、教育へのテクノロジーの活用が大事業であることを認める。コランジェロ氏の社内での立ち位置はまだ流動的だが、同氏は「会社が本気で人々の学習方法を変えたいと望んでいるのなら、IT部門が支援する必要がある」ことは既に理解している。
HMHの顧客は近年、教科書を含むさまざまな情報をますますデジタルで利用するようになってきている。今後、こうした顧客向けにプラットフォームにとらわれないコンテンツを開発したり、新しいユーザー体験を設計したりする上で中心的な役割を果たすのは、IT部門だと同氏は考えている。
「当社は、利用者が希望する場所にコンテンツを置く必要がある。それが今の消費者経済の力学だ。学生や保護者、教育者など、顧客が当社のコンテンツを見たり、読んだり、調べたり、やりとりしたいと希望する場所へ、われわれの方から向かっていく。それが家庭であれ、教室であれ、移動中であれだ」と同氏は語る。
アジャイル手法をIT部門に浸透させる
HMHの組織改革を支援する方法としてコランジェロ氏が考えている手法の1つは、「ITプロジェクトやIT部門と、ビジネス部門との間の連携にアジャイル手法を適用する」ことだ。アジャイル手法は、反復(イテレーション)的で漸進的(インクリメンタル)な開発手法に基づき、ソリューションのプロトタイプ化やレビュー、提供を迅速にすることを目指す。変革の真っただ中にある業界では、変化に適応しやすい方法でテクノロジーを取り入れることが極めて重要となる。
「モバイル分野では現在、AndroidとiOSが主力のテクノロジーになっている。だが状況は変わっていくはずだ。われわれが目下構築しているのは、フレキシブルかつスケーラブルな方法で、この新しいデジタルエコシステムに追加できるシステムである。当社のユーザーが、どの端末からでも自由に当社のコンテンツへアクセスできるようにしたい」とコランジェロ氏は語る。
コランジェロ氏は、EOPでCIOを務めていた際、アジャイル手法のメリットを直接学んだ。「アジャイル手法を最初に採用したのは、サマープログラムの際に、コンピュータサイエンス専攻の学生を集めて結成した開発チームにおいてだ。この試みが非常にうまくいった」と同氏。わずか8週間で、このグループは実に40種ものアプリケーションを開発したという。
「これらの数字は判断基準にできる。もっとも、アジャイル手法の取り組みでさらに素晴らしかったのは、全体的なユーザー体験だ」とコランジェロ氏は語る。学生たちは、ホワイトハウスやEOPのさまざまな部署の声を聞き、それぞれの部署が抱える仕事上の問題を理解した。その上でアジャイル手法を使うことで、時間を食う仕事を軽減または排除するアプリケーションを開発できた。
コランジェロ氏によれば、アジャイル手法のメリットは製品を迅速に提供することだけにとどまらないという。「チームに連帯感のようなものを生み出す。結果は顕著だ。チームのモチベーションと意欲が非常に高まる」と同氏は語る。
HMHにとって、アジャイル手法は全くの新しい試みではなかった。コランジェロ氏は、社内の声を聞くためにリスニングツアーを実施した際、その事実を知ってうれしく思ったという。ただし、アジャイル手法が導入されているのはごく一部だけだ。同氏は、アジャイル手法の哲学をIT部門全体に広めようと計画している。
さらにコランジェロ氏は、データセンターの新設にもアジャイル手法を導入することを検討中だ。主要メンバーを集めて丸一日の会議を開催し、進捗状況を評価したり、次のステップを計画するといった手法を取り入れる考えだという。
大切なのはコラボレーション
IT戦略を策定する上でコランジェロ氏が重視しているのは、コラボレーションだ。「テクノロジーのアイデアは、IT部門だけから出されるわけではない。そのことを私は前職ですぐに学んだ。CIOはリーダーとして、こうしたアイデアの優先順位を検討し、出てきたアイデアをどのように引き受けるか、そのアイデアを必要としているユーザーへどのようにして提供するかを検討しなければならない」と同氏は語る。
実際、リスニングツアーと一緒に開かれる集会では、コランジェロ氏が話をするのは10分程度。残りの50分間は、同氏が人の話を聞きながらメモを取るといったケースが少なくない。ただし同氏によれば、話を聞くだけでは不十分だという。大切なのは、偏見なく聞くことだ。目の前にある課題は、切実に新しいアイデアを必要としているからだ。
HMHが目標を達成するための方法について、コランジェロ氏は広く意見を求めているという。目標達成のためには恐らく、クラウドベースのアプローチが必要となる他、連邦政府機関に勤務していたときのように、オープンソースのプラットフォームやクラウドソーシングを利用する必要があるかもしれない。
HMHは、数カ月後に新しいWebサイトを開設する計画だ。このWebサイトは、顧客によるコンテンツの利用方法を根本から変えるものとなる。いつでもどこでも顧客が自由に学べるようにするためのシステムを全て構築するためには、まだ時間がかかりそうだ。だが、コランジェロ氏はその覚悟ができているという。
「変革を推進することにかけては、私は信じられないほど執拗で根気強い」とコランジェロ氏は語る。この性格は、両親が経営するレストランで働いた経験から得たものだという。
同氏の両親は、レストランを40年以上にわたって経営している。ここまで来るには、優れた顧客サービスを提供することだけでなく、そのために必要な変化であれば、どんな変化にでも進んで対応することが求められたはずだ。「私はそう信じている。大切なのは、顧客にとってベストなものを提供することだ。私はこれまで、常にそのことを信条に仕事に取り組んできた」(同氏)
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