2012年米大統領選からCIOが得られる教訓(前編)
日本で解禁されるネット選挙運動、米国から学べることは?
インターネットを使った選挙運動が日本で解禁される。2012年の米大統領選では、有権者とSNSでつながり、効果的にデータを分析したオバマ氏が再選を果たした。その戦略には日本でも応用できるノウハウが詰まっている。
2012年の米大統領選においてITがいかに活用されたかについては、既に多くの記事が書かれており、この先も長きにわたり政治史学者による分析がなされていくだろう。だがこの選挙戦には、企業のCIOも学ぶところがありそうだ。CIOには、企業にとってお金の次に最も価値ある資産である「データ」をフルに活用することが求められている。2012年の米大統領選では、「ビッグデータ」と「データ分析」の活用が、一方の勝利を確実にし、もう一方の敗北を裏付ける上で重要な要素となった。大方の見方では、後者にとって敗北は思いも寄らないことだったようだ。
CIOがまず選挙戦から得られる教訓の1つは、「どんなに優れたデータ分析プログラムであれ、過去の成功の上にあぐらをかくわけにはいかない」ということだ。2008年の米大統領選のオバマ・バイデン陣営は、「米大統領選の歴史上、技術的に最も進んだ選挙運動を展開した」と評価されていた。とりわけ称賛されたのが、ソーシャルメディアを使って有権者とつながり、データ分析を活用して有権者の投票行動を予測するという手法だ。
それからわずか2年後となる2010年の中間選挙での民主党の大敗は、このご自慢の「有権者とのつながり」に既にほころびが生じていたことを露呈した。オバマ政権はそのことに気付いていなかったか、その変化に対応する準備ができていなかったか、あるいはその両方だったのだろう(関連記事:CIOが想定すべき「ソーシャルメディア3つのリスク」)。
民主党陣営はデータ分析の専門家を中心に据えてIT戦略の強化を図り、有権者感情を追跡するための従来手法からの脱却を果たした。ジャーナリストのサーシャ・アイゼンバーグ氏は「How Obama's team used big data to rally voters(オバマ陣営はビッグデータをどのように活用して有権者を結集させたか)」と題した記事で、その詳細を解説している。オバマ大統領とバイデン副大統領の陣営は再選をかけた2012年の大統領選において、データを収集し分析するための新しいツールを開発しただけでなく、有権者1人1人の投票行動を変える立場にあった運動員ら(および大統領)の手にそうした重要データを委ねるための方法を編み出した。同陣営は、大量かつ多様なデータを活用して有権者に関わるさまざまな情報をリアルタイムにデータマイニングする「マイクロターゲティング」という戦略を考案したのだ。同陣営は、常時接続の時代において世論がいかに急速に変化し得るかを理解していた。「想定を検証するためにデータを収集するのではなく、進むべき道をデータが指し示した」とアイゼンバーグ氏は指摘する。
IT業界団体CompTIAの代表兼CEOを務めるトッド・ティボドー氏はオバマ氏とロムニー氏の両陣営に言及し、次のように語る。「一方が、データを使って何か事を起こそうとしていたのに対し、もう一方は、過去の出来事に基づき、やるべきことを判断しようとしていたようなものだ。こうした選挙戦の一部においては、過去のデータはかつてほど有益ではなくなっているのだろう」
アイゼンバーグ氏の記事によると、ビッグデータとデータ分析を用いて有権者のマインドを変えるという取り組みは主に、2008年の大統領選でも活発に行われ、2012年の再選運動で「最高分析責任者」に任命されたダン・ワグナー氏の功績によるものだという。「ワグナー氏の手腕によって、新しい考え方が確立された。結実までに10年を要したこの新しい考え方においては、有権者はもはや古い政治地理学にとらわれることはなく、性別などの人口統計学的属性に縛られることもなくなった。調査員がどの属性について質問したかや、商用目的の消費者分類に左右されることなく、有権者を国民1人1人の集合として捉え、1人1人を個別に判断し、評価できる」とアイゼンバーグ氏は書いている。
マイクロターゲティングとパーソナライゼーション
CompTIAのティボドー氏は、有権者をマイクロターゲティングというこの新しい手法の概略を把握していたという。同氏の助手のパティ・ハンセン氏がボランティア運動員として、投票しそうな有権者からデータを収集し、集めたデータをカスタムビルドの顧客関係管理(CRM)システム(この場合は“有権者関係管理”システムだが)に入力する作業に参加していたのだ。
ハンセン氏がかけた電話の中には、既にオバマ支持を決めていると思われる人たちに「気合いを入れるため」のものもあった。だが初期には、ほとんどの通話は、相手が投票に行きそうな人であれ、行かなそうな人であれ、民主党員であれ、共和党員であれ、とにかくその人に関する情報を収集するための「飛び込みの電話」だったという。運動員は電話の向こうの相手について、「読んでいる本」から「友人とどのくらいの頻度で政治について話すか」まで、ありとあらゆる情報を集めた。「運動員は人々に関してここまで細かい情報を集め、全てをデータセットに格納しようとしていた」とティボドー氏は語る(関連記事:「モノポリー」のソーシャルメディアキャンペーンが成功した秘密)。
有権者のプロファイルは常に更新された。ボランティア運動員はそれぞれ、システムに入力された前回の通話内容を引き継ぎ、データセットの拡充と改良を重ねた。こうしたダイナミックなプロファイルのおかげで、オバマ・バイデン陣営は個々の有権者へのメッセージに常に手を入れることができた。従来手法からの脱却は、収集する情報の種類にとどまらず、収集の方法にまで及んだ。ボランティアには、一部のフィールドを空のまま残すことも許されたのだ。
「従来型のデータベース構造にデータを入力する場合は、顧客を画一的に捉えるために、全員に関して全てのフィールドを埋めたいと思いがちだ。そのため、多くの場合、最大公約数的なアプローチになる。新しい考え方では、全ての人について同量の情報を得ることは求められなかった。その代わり、1人1人について最も重要な情報を必ず入手することが求められた。非構造化データに近い」とティボドー氏は語る。
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