IaaS業界の再編が注目される
GoogleのIaaS参入でクラウド価格が上がる説と下がる説
既に飽和状態のIaaS市場に新たに参入してきた「Google Compute Engine」(GCE)。このビッグプレーヤーの参入によって、利益を出せるのはどのIaaS事業者になるのだろうか。
2013年3月初めに米カリフォルニア州で開催されたカンファレンス「Cloud Connect」において、「米Googleは大手クラウドサービス事業者の英雄と呼ぶのにふさわしい企業か」という質問が出たとき、参加していたパネリストの専門家たちは、「Google自身がそう呼ばれることを望んでいればだが、Googleは間違いなくクラウドのビッグプレーヤーである」という点で全員意見が一致した。しかしそもそも、Googleがクラウドサービス事業に乗り出すことは、市場にとってどのような意味があるのか。さらに重要なのは、クラウドのユーザーにとってのGoogle参入の意義だ。
Googleが提供するIaaS(Infrastructure as a Service)に注目すると、このインターネット界の巨人は確かに大規模なデータセンターを所有し、その豊富なキャパシティーをGoogle Compute Engine(GCE)のために割いている。ただし、Googleがこの事業に参入するとすれば、大きな課題に直面する可能性が高い。アーキテクチャに関して公開されている情報からは、データセンターはもともとの主力事業であるインターネット検索を目的として構築されていることが分かる。Googleはこのデータセンターのキャパシティーを拡大して、インフラを活用してGmailなどのアプリケーションの提供にも参入してきた。
クラウド業界でのGoogle IaaSの意味とは
GCEの現在のプレビュー版は2つの特徴を備えている。1つは、Windows Serverのサポートについて言及していないことだ。これは問題になるかもしれない。クラウド市場で現時点では先行しているAmazon Web Services(AWS)を追撃するならば、一般的なIaaSとしてOSイメージをサポートする技量が必要になるからだ。また、Googleの自動化インフラが、IaaSとしてのより一般的な要件をどこまでサポートしているのかも明らかになっていない。PaaS(Platform as a Service)であるWindows Azureの場合、サービス拡大に向けてローカルのDNSなど必要な機能をフルセットで提供できるようになるまで、かなりの変更が必要だった。
米Microsoftは、現在ブランドとして提供しているWindows Azureインフラストラクチャサービスを8カ月でサービス正式公開(GA:General Availability)という強気の目標を立てていたが、達成できなかったことを公表している。クラウドのサービスモデルを組み替えるには、それほどの工数が必要だったということだ。クラウドサービスを切り離された層ではなく1つの連続体として考えたとき、Googleが提供しているGCEはPaaSの比較的上位にあり、むしろSaaS(Software as a Service)の領域にある。GCEとは対照的に、Windows AzureはPaaSと言ってもIaaSとの境界に近いところに位置しており、Microsoftが提供しているサービスはPaaSとIaaSの両方の役割をカバーしやすいということを意味する。少なくとも技術的な課題をクリアすることが関門となっているとすれば、GCEはそう遠くない将来に正式公開を迎えそうだ。
ではここで、GoogleのIaaSクラウド参入について、テーマを料金に移そう。先行して事業を展開している企業がユニット当たりの価格競争でしのぎを削っており、クラウド市場は既に飽和状態ともいえるが、さらなるビッグプレーヤーの参入により、利益を出せるのはどの企業なのか。
通常、価格競争は市場にとって悪いことではない。何にせよ商品がコモディティ化することで、消費者は低価格化という利益が得られる。商品のコモディティ化には、サプライヤーが変わっても商品ではその差が問題にならない、という側面がある。だから顧客は、別のサプライヤーの商品がもっと安くなっていれば、そちらに簡単に移ることができる。
しかし現時点では、IaaSはコモディティ化の基準を満たしているとはいえない。従って消費者はクラウド業界の現状を、本来付加価値で勝負すべき商品を提供しているはずのベンダーが、業界での生き残りを賭けて市場シェアの獲得のために価格破壊を起こしている、と見ている。少数のプレーヤーだけが競争の場に残る大詰めの段階に来たと分析する向きもある。だが、競合していた企業同士が合併して市場を独占した前例もあり、もしそれが実現すると、市場にとってはあまり歓迎できない事態だ。競争がなくなることで価格は上昇するからだ。また、過去の一連の実例から、1社が暴利をむさぼるほどに商品価格が高騰することを防ぐ法律や規制機関が作られてきた。しかし、これによって、ある1社だけが常に「赤字」の状態から抜け出せなくなることもある。
現在の主要プレーヤーである米Amazon、Microsoft、Googleの3社はそれぞれに、いわゆる「ドル箱」事業を確保しているので、クラウド部門でかなりの赤字を出したところで、当面は穴埋めできる財力がある。この業界の現状を分析した結果、価格競争がある時点で落ち着いてしまった後は、サービスのレベルが落ち始めるだろうと主張する者もいる。
しかし、他にも可能性の高いシナリオは幾つもある。
現在挙げられている3社によるベンダーロックインを避けたいと願う市場関係者も一部にはいる。仮に閉塞的な状況となった場合には、IaaSがその突破口となるだろう。ただし3社による市場独占は、現時点ではあまり現実的なシナリオではない。前述の大手3社は、パブリックIaaSベンダーとしては競争状態にあるとはいえないからだ。消費者はいったんベンダーを選択すると、そのベンダーに巧妙に囲い込まれてしまう。すると(ベンダーの観点からは)流動的な価格設定が可能になる。
そしてベンダーは、コモディティの部分を越えた付加価値サービスを適用するように消費者を誘導しようと、さまざまな勧誘策を打ち出す。こうした付加価値サービスの利益率は高く、消費者の囲い込みがさらに進むと、結果として、ベンダーにとっての価格設定の自由度がますます高くなる。
ここまでに挙げた施策が全て失敗に終わった場は、どの企業も利益を上げる見通しが立てられなくなり、競争を続けることができなくなる。仮に1社だけが生き残ると、その勝ち残った企業は価格を好きなだけつり上げてもいい状態になる。既存ベンダーの以前からの顧客は、価格体系が劇的に変化するのを目撃することになるだろう。
価格競争は顧客の立場からすると初めのうちは多少興奮もするが、競争が激化し過ぎると、市場にひずみが生じる場合もある。企業間の競争を顧客があおるべきではないとはいわないが、節度をわきまえる必要がある。クラウドコンピューティングが本来備えているはずの価値から、コスト削減以外にも、持続可能な経済的利益をどのようにして生み出すかについて、市場の議論に耳を傾けることがさらに重要だ。
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