ビッグデータはビッグミステークの元?
SFの世界に近づいているビッグデータ活用
希望には恐怖が伴う。ビッグデータ活用の可能性には、プライバシーの侵害や、解釈ミスによるビッグミステークという恐怖が付いて回っている。
「人類は新たな技術を開発したが、やがてその技術の進歩に人類の管理能力が追い付かず、大混乱に陥る」――このような状況を前提としたSF小説は多い。ビッグデータがSF映画に登場するかどうかは定かではないが、企業の意思決定がビッグデータの進歩に追い付いていけるのかという疑問を投げ掛ける人もいる。
だが、ビッグデータを否定的に捉える必要はない。ビッグデータは希望をもたらす技術だ。単に収益拡大につながるというだけでなく、社会制度の改革、医療技術の改善など、さまざまな分野に貢献する可能性を秘めている。しかし、希望には恐怖が伴うこともある。膨大な情報があふれる新世界ではプライバシーの担保が最大の社会的懸念となるが、問題はそれだけではない。ビッグデータの解釈ミスによって誤った判断が下される可能性があるということもその1つだ。
2013年5月下旬に米マサチューセッツ州ケンブリッジで開催された「MIT Sloan CIO Symposium」のパネルディスカッションでは、ビッグデータが誤った判断につながる可能性が議題に上った。座長を務めたマサチューセッツ工科大学(以下、MIT)教授 エリック・ブリンジョルフソン氏によると、「勘や本能的直感に頼って意思決定をしている企業が多い」という。しかし「ビッグデータ活用環境がある企業では、データと意思決定に対する新たな考え方が生まれている」という点ではパネリストの意見が一致した。「経営者は勘ではなく、『事実とデータ』に頼る必要がある」とブリンジョルフソン氏はアドバイスした。
このパネルディスカッションで私が思い出したのは、米Gartnerが2012年に開催した「MDM Summit」におけるライター&ブロガーのネイト・シルバー氏のコメントだ。データ管理者、経営リーダーおよび両者の中間に位置する幹部にとって、「データ主導型の意思決定を支えるものは何か」という問題に関するシルバー氏の見解は大いに参考になるはずだ。非凡な才能に恵まれた同氏は数年前、オランダに本社を置くKPMGのコンサルタントという職を捨て、以前から興味を抱いていた野球データの統計分析に取り組んだ。これを足掛かりに、同氏は米国におけるデータ分析の第一人者としての地位にまで上り詰めた。
原始人でもあるデータサイエンティスト
Gartnerのカンファレンスでシルバー氏は、MITのパネラーたちが指摘したこととは異なる問題に注意を喚起した。同氏が指摘したのは、「収集したデータに基づく決定を行う際には勇み足にならないように注意する必要がある」ということだ。
「人間の心は今でも狩猟民族だった祖先の意思に影響を与えたのと同じ衝動に動かされている。獲物あるいは捕食者が近くにいれば、跳び掛かるか逃げるかを瞬時に判断しなければならない。われわれの脳は多くの点で原始人の脳と同じだ」と同氏は述べた。
同氏によると、「意思決定プロセスには、その人が本来持っているバイアス(言い換えれば“観点”)が伴うことを認識しておくことも、正しい選択を行うために不可欠だ」という。これは常識といえるかもしれないが、大失敗に至った原因が常識の欠如であるケースも少なくない。
確率論は常識とは大きく懸け離れているように思えるかもしれないが、ポーカーから金融市場、マーケティング、気象に至る広範な分野における予測の基礎となるのが確率論である。「さまざまな結果が起きる確率という視点で考えるようにすることも、ビッグデータでビッグミステーク(大きな間違い)を犯すことを避ける上で重要なポイントだ」とシルバー氏は語る。
シルバー氏の著書「The Signal and The Noise」(信号とノイズ)にもあるように、同氏は予測能力を着実に高めている組織の例として米国立気象局を挙げた。「彼らは自分たちが間違う可能性があることを知っているので、細かい部分で進歩を積み重ねているのだ。将来は、気象予測のような確率論的手法に基づく意思決定が主流になるだろう」と同氏は語る。
優れた意思決定のためのインフラ
ビッグデータ時代における企業の意思決定について異なる視点を持っているのが、米Decision Management SolutionsでCEO兼主席コンサルタントを務めるジェイムズ・テイラー氏だ。同氏は以前、ビジネスプロセス管理とその関連分野から意思決定管理の分野へ研究の中心をシフトした。
テイラー氏の話を聞くと、ビッグデータアナリティクスプロジェクトに資金を注ぎ込めば、自動的に正しい判断が下せるようになるという淡い期待を抱いている企業が多すぎるように思われる。「彼らは意思決定を改善するためにビッグデータとアナリティクスに資金を投入しているというが、どのような意思決定を改善したのかと聞くと、明確な答えが返ってこないことに驚かされる」と同氏は話す。
テイラー氏によると、意思決定プロセスに予測的アナリティクスの要素を取り入れるのは重要なステップだという。「だが他の手法にも目を向ける必要がある」と同氏は付け加える。これは、データと密接な関係にある現場に意思決定プロセスを近づけたり、ビッグデータに基づく意思決定を業務システムの一部として自動化したりすることを意味しているものと思われる。
職業としてのデータ管理はこれまで、データの品質に主眼を置いてきた。高品質のデータを収集することは容易ではなく、データ量が増えてもそれが簡単になるわけではない。「CDO」(最高データ責任者)と肩書きは大げさに聞こえるかもしれないが、社内のデータの強みと弱点を知り尽くしているデータプロフェッショナルの役割が今後重要になる可能性がある。その役割とは、ビッグデータプロジェクトがSFの領域に陥ることのないようにすることだ。
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