人と人とをつなぐ技術を重視する時代に
“世界に1つだけのスマートフォン”を提供、「未来の工場」がやって来る
生産現場のグローバル化が進み、製造業界に変化が表れ始めた。特定の消費者が求めるオーダーメイド型の商品を生産できる未来型工場への転換が進んでいる。“世界に1つだけのスマートフォン”は生まれるか。
今、消費者の間ではカスタマイズが大はやりだ。携帯電話アプリのカスタマイズからオーダーメイドの服に至るまで、消費者は買ったものを「世界に1つだけのもの」にすることが当たり前になりつつある。そこでメーカーは、これまでの見込み生産体制から、規模を縮小して受注生産ベースへと方針転換を図りつつあると、米調査会社IDCの「Manufacturing Insights」(製造業の深層)は伝えている。
IDCはこの傾向を分析し、「The journey toward the factory of the future」(未来の工場への旅)と題したビデオリポートにまとめて、先日同社のWebサイト上に公開した。
このビデオリポートは、欧米諸国の部品メーカーおよび加工業者90社(大手から中小企業まで満遍なく含まれる)に対してインタビューを行って集めた情報をまとめたものだと、IDCのアナリスト、ピアフランチェスコ・マネンティ氏は語る。同氏はヨーロッパ、中近東、アフリカを担当する同社支社の代表で、ビデオリポートでも主に発言している。
「『未来の工場』に照準を絞って分析することに決めた理由の1つは、最近の数年で製造業の重要性が増してきたことに気付いたからだ」とマネンティ氏は説明する。「最近5年間の(経済)危機が転換の契機となった」(同氏)
未来の工場の扉を開くのはイノベーション
ほんの10年前、大半の先進国では、製造業は投資に値する業界だと考える者はほとんどいなかったと同氏は言う。今や、サービス業のみに頼る経済体制では、長い目で見ると国家が立ち行かなくなると政府も認識し始めている。その結果、メーカーは原点に立ち返り、サプライチェーンに力を注ぐ代わりに製造の知識を磨くことをあらためて重視するようになっていると同氏は指摘する。
「現在、競争力で他社に差をつけるために最も重要な要因は何だと思うか」という問いに対して、「製品の優位性とイノベーション」を選んだ回答者が最も多く、58%を占めた。次いで多かったのは「顧客サービスで業界の先頭に立つこと」で46%だった。この2つの要因を選ぶメーカー数の差は今後5年間で縮まるだろうと、マネンティ氏は予測する。「今回の調査結果からみて、5年後には、価格で業界をリードすることと競争力のある価格設定も、他社との差別化を図る重要な要因となるだろう」とも同氏は指摘している。
IDCは回答者に対して、未来の自社工場の完成に向けて、会社が現在どの段階にいると考えているかという問いも投げかけた。「この設問の趣旨は『未来の自社工場のイメージを持っていますか』ということで、大多数は『はい』と答えた」と同氏は語る。「43%以上の企業が、『経営陣の後押し、関与および資金提供を受けて、正式な分析と計画戦略を進めている』と回答した」(マネンティ氏)
「生産モデルが変化しつつあることも、今回の調査で得た重要な発見の1つだ」とマネンティ氏は指摘する。現在、見込み生産(MTS:Make-to-Stock)モデルを採用している企業は21%にすぎず、大多数は、受注生産(MTO:Make-to-Order)や受注開発(ETO:Engineer to Order)、受注加工組立(BTO:Build to Order)の方式を取っている。5年後の生産モデルについてたずねたところ、依然として見込み生産モデルに従っているだと答えたのは、わずか9%だった。
「これはわれわれが『個人ベースの生産(Make-to-Individual)』と名付けた方向に向かう流れだ」と同氏は説明する。「製造業者は、他社との差別化の手段として、特定の顧客の要求に個別に応えようとしている」(マネンティ氏)
グローバル化する未来の工場
さらに同氏は「生産現場のグローバル化がトレンドとなっていることも、今回の調査で分かった。製造業の変化の1つだ」と付け加えた。国をまたいでサプライチェーンを展開するメーカーが増えている。つまり、1カ所で大規模なプラントを展開するのではなく、需要の高い場所を世界各地で複数選んで小規模な拠点を置く例が多い。「そのような形で小規模な拠点を展開すると、顧客のより近くで製造できるだけでなく、カスタマイズ品の生産が容易になり、その地域固有の消費者のニーズに応えやすくなる」とマネンティ氏は説明する(関連記事:製造業グローバル展開の鍵は「在庫管理」、ITシステムができることは)。
「メーカー側とサプライヤー側の製造オペレーションの間で、実行系業務を協調、管理、調整する能力が求められている。こうすることでリアルタイムでの透明性が高められる」と同氏は話す。「この変革を実現するには、オペレーションエクセレンスと製造現場のITを中央で管理することが不可欠だ」(同氏)
会社の未来の工場の成功を判断するための指標として、最も重要なものは何だと考えているかという問いに対して、最も多かった回答は「完全オーダーでオンタイムに空白を置かずに顧客に納品すること」と、「製品の性能を確実にするよりも、顧客のニーズに応える柔軟性と能力を備えること」だった。
「新しい指針の中心はフルフィルメントであると考える製造業者が今では増えてきた」とマネンティ氏は語る。「もちろん効率、品質管理、生産量は今も重視されている。しかし最も重要というわけではない」(同氏)
未来の工場では、人材を集中投入するモデルを採用するメーカーが増えるだろうと同氏は話す。社内の従業員でも社外の顧客であっても、人と人とをつなぐテクノロジーが重視されるだろうという意味だ。そんなテクノロジーには、クラウドプラットフォーム、モバイルコンピューティング、ソーシャルネットワーク、ビッグデータ解析ツール、マルチプラントの製造オペレーション管理、エンタープライズ製造インテリジェンス(EMI)、オートメーション技術、3Dプリンティング、仮想現実(VR)デバイスなどが含まれる。
「未来の工場は、(そのメーカーが)どれほど顧客の役に立てるかで評価されるようになるだろう」とマネンティ氏は語る。「製造現場と顧客はいずれ直接つながるようになる」(同氏)
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