McKinseyが太鼓判
科学オタク納得の“未来を変える12の技術”
McKinsey & Companyの調査部門が、100種類のテクノロジーの中から今後の世界を大きく塗り替える可能性を秘めた12のテクノロジーを選出。環境に対する影響度の大きい順にランク付けした結果、1位に選ばれたのは?
ITアナリストとコンサルタントの予測の方向は、その時点の流行の風潮や資金の提供先の意向に、明らかに左右されることが往々にしてある。アナリストやコンサルタントが画期的な提案をしたり論争を巻き起こしたりすることはめったにない。そんな中、老舗のコンサルタント会社である米McKinseyの精鋭が、現存のテクノロジーが秘めている力を極限まで発揮したとすると、世界はどう変わるのか、包括的で信頼性の高い展望の概略を発表した。
経営コンサルタント会社、McKinsey & Companyの調査部門であるMcKinsey Global Instituteが最近発表したリポートが評判になっている。「Disruptive technologies:Advances that will transform life, business and the global economy」(未来を変えるテクノロジー:生活、仕事、世界経済を変える先駆け)と題して、同社は「現在から2025年までの間に、経済価値を根底から覆すほどの圧倒的に大きな影響力を持つ」と予測されるテクノロジーを特定するリポートをまとめた。
ITベースのテクノロジー、または安価なマイクロプロセッサの通信機能や演算能力が現状ほどに進化しなければ存在しなかったテクノロジー全体の中で、リストの筆頭に挙げられたのが“インターネットのモバイル化”である。世界を揺るがす12のテクノロジーとして“ロボット工学”“再生可能エネルギー”“ゲノム配列”なども選ばれた。これらのテクノロジーをさしおいて、インターネットのモバイル化が最も注目度の高いテクノロジーとして選ばれたのは、クラウド、モバイルアナリティクス、コンシューマライゼーションなど、企業幹部やITの専門家が現在直面している大きな問題に対する関連性が深く、これらを解決するカギとなる可能性を秘めていると期待されていることが一因となっていると考えられる。
このリポートは162ページにもわたるが、よくまとまっていて、科学オタクにとっては読み物としても楽しめるほどの完成度だ。しかし同時にこのリポートは、100種類の候補から厳選したテクノロジーをさらに徹底的に調査する、McKinseyの厳格なプロセスを経て作成されたものだけに、深刻な論争のきっかけにもなっている。
リポートで選ばれたテクノロジーの条件としては、まず急速に進歩する価格と性能などの変化の速さが、類似技術に比べて突出していること。次の条件としては、多くの業界や企業に対して、または広範囲の製品やサービスに対して影響を及ぼす潜在力を持つこと。さらに「既存権益」を破壊して、国家のGDP(国内総生産)を増やすか、あるいは既存の資産に対する投資が無効になるほどの顕著な経済価値を生み出すテクノロジーでなければならない、という条件もある。McKinseyは売上予測を行わず、代わりに「消費者余剰」などの経済学の指標を使用している。消費者余剰とは、商品やサービスに対して、消費者が支払っても良いと考える額と、実際に支払った価格との差額を指す。
そして最後の条件は、相当な将来性があることだ。どの程度かというと、経済上顕著な影響があり、人々の生活や労働のスタイルを変え、かつ、特定業界でかつて優位にあった複数の国家が方向転換を迫られるほどの将来性である。
インターネットのモバイル化に関する印象深い数字
未来を変えるテクノロジーの最有力候補として“インターネットのモバイル化”を挙げるという結論に達するまでに、McKinseyの調査スタッフは膨大な統計データを収集した。スマートフォンとタブレットのユーザーを合計すると、既に11億人を超える。2012年、スマートフォンの利用台数は50%増加し、アプリケーションのダウンロード回数は1.5倍になった。2013年になって、スマートフォンとタブレットの出荷台数の合計はPCを抜き去った。2025年までには、インターネットへの接続の8割がモバイル端末からのアクセスになるだろうという予測もある。
McKinseyは、インターネットのモバイル化の影響を最高10兆8000億ドルと見積もっている。これは、それに次ぐ上位である2~4位のテクノロジー(知識労働、クラウド、「モノのインターネット(IoT)」)と比べてちょうど3兆ドルの差をつけており、リストの最下位(12位)の“再生可能エネルギー”が与える影響の36倍ということだ。アメリカの上院議員であった、故エヴェレット・ダークセン氏の言葉を借りると、「1兆ドル、という単位をあちらこちらで聞くようになった。近いうちにそんな大金が動くようになるんだろう」ということである。
同社の調査スタッフは、「経済効果は主に、サービスの改善、特定業務での生産性の向上、そして最初からモバイルデバイス経由でしかインターネットにアクセスしたことがないユーザーが出現することによって生まれる価値、の3点からもたらされる」と話す。例えば、慢性疾患の治療の効率が向上することによって、2兆ドルを超える費用が削減できる。患者が飲み込んで体内に設置する心拍計で、患者や介護人は通知を受け取ることができる。
クラウドベースのサービスとモバイルインターネットの融合によって、機会均等が実現し、中小企業や開発途上国でもITを活用する場面が増える。また、教育、医療、公共サービスの分野で生産性と質を向上させることもできる。ただし、どちらの場面にもプライバシーとセキュリティのリスクが伴う。
McKinseyが挙げるその他の特筆すべき一部の技術分野と同様に、“インターネットのモバイル化”は、従来とは大幅に異なる効果をもたらし、今までとは違う地域で活用される可能性を秘めている。ヨーロッパや北米などの経済先進国の人々は「素晴らしい新機能」を享受するだろうが、発展途上の地域では、インターネットのモバイル化は、そこに住む30億人の人々がデジタル経済に触れるための手段となる。インターネットのモバイル化によって、発展途上国の人々は、固定電話やケーブルテレビなど今では古臭くなってきたテクノロジーを飛び越して最新技術を使い始めることになるだろう。
発展途上国から、30億人の消費者が将来市場に参入する。現時点では、そのうち64%の人々はまだインターネットに触れたことがない。この状況では、現地の起業家はその地で初の事業を立ち上げることにしのぎを削り、グローバル企業にとっては、世界で最も急速に成長できる可能性があり、新たなチャネルを築くことになる。ユニセフ(UNICEF:国連児童基金)の予測では、学校に通っていない100万人の子どものうち一部は、オンラインで授業が受けられるようになる可能性があるという。しかしMcKinseyは、電源容量が実績ベースからみるとわずかしか拡大しないこと、そして電気の普及に地域差があることがインターネットのモバイル化普及の障害となりかねないと警告している。また、既に逼迫している無線帯域幅については、インフラ整備に3000億ドル必要だ。
興味深いことに、“インターネットのモバイル化”は、先進国で発展途上国でも一様に普及するテクノロジーの中で、経済に影響を与える唯一のテクノロジーであると、McKinseyは予測している。ただ、“クラウド”と“再生可能エネルギー”は例外で、クラウドは70%、再生可能エネルギーは80%、それぞれ発展途上国に影響を及ぼすと予測されているが、今回選ばれた「未来を変える技術」の中でそれ以外のものは、多少なりとも経済先進国に偏ったテクノロジーである。
現在のように圧倒的な勢いでインターネットプラットフォームがモバイルに移行すると、新たな顧客を開拓するために、企業は斬新なアプローチを採用する必要があると、リポートは主張している。ほとんどの場合、第三世界の消費者がテクノロジーに割く予算は比較的少額なので、嗜好もスタイルも、先進国の消費者のそれとは本質的に異なる。「モバイルプラットフォーム上で従業員がより効果的により効率よく実績を上げるためには、ビジネスリーダーは従業員の役割を特定する必要もあるだろう」とリポートには記されている。先進国がかつて経験した、製造業からインターネット関連事業への労働市場の転換が、新興市場で起こる可能性がある。そんな中、明るい見通しもある。消えていく職種と新たに生まれる職種の数を比べたときに、新しい職種の数は失われる職種の3.2倍になるだろうと、McKinseyは見積もっている。
リポートの作成者たちは優秀で、自分たちが選んだテクノロジー同士の依存関係を図示しているが、これが非常に素晴らしい。リポートには「インターネットのモバイル化は、将来性があまりにも莫大なために、アプリケーションを実現するためのクラウドコンピューティングの進化という重要な要素や、モバイルデバイス上で知識労働を自動化するツールが実現しない限りは、本来備わっている価値を極限まで実現することはないのかもしれない」という記述もある。米Appleが開発した音声認識機能「Siri」は、処理エンジンをクラウドに移行させているが、これは顕著な例だといえる。リポートの作成者らは、「次の動きとしては、デバイスが小型化し、本質的にはシンクライアントになる。そしてアプリはクライアントにダウンロードすることなく、ブラウザ上で実行できるようになる」と示唆している。
未来を変えるテクノロジー? それともただの煽り?
最後に、興味深い測定値を挙げておく。McKinsey Global Instituteは、主な一般出版物やビジネス向け出版物に掲載された記事数を数え、潜在的な経済上の影響の軸と対比させることで、「煽り」(誇張されているレベル)を評価した。ランキング入りしているテクノロジーだけでも、両方の軸の変動が大きく、McKinseyは対数目盛を使わざるを得なかった。つまり、上に行けば行くほど数字は加速度的に増えていく。
“再生可能エネルギー”はリストに挙げられている中で最も派手に煽られている。掲載されている記事の数は1万弱に上るのに対し、経済上の影響は3000億ドルである。はした金とはとても呼べないが、世界を変える要因の最有力候補に比べると見劣りする。“石油とガスの備蓄の高度な運用”は、わずかにそれを上回っている。
煽りと将来性の乖離があまりみられないと、McKinseyが認めたテクノロジーは1つだけだった。それはどれなのか、読者には見当がつくだろうか。
答えは読者の想像通り、“インターネットのモバイル化”である。
未来を変える12のテクノロジー
McKinsey Global Instituteは最近注目されているテクノロジーを100種類選び出し、その中からさらに、今後の世界を大きく塗り替える可能性を秘めた12のテクノロジーを選び、環境に対する影響度の大きい順に、以下の通りランク付けした。
- インターネットのモバイル化
- 知識労働の自動化
- モノのインターネット(IoT)
- クラウドテクノロジー
- 高度なロボット工学
- 自動運転および半自動運転の自動車
- 次世代ゲノム
- エネルギーの備蓄
- 3Dプリンティング
- 先端材料
- 石油とガスの先進的な探索と回収
- 再生可能エネルギー
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