増えてきた活用事例
もはやバズワードではない、「モノのインターネット(Internet of Things)」とは?
各種計測機器やセンサーをインターネットに接続する「Internet of Things」。インターネットを介してあらゆる場所で情報伝達が可能になる未来は近づいているが、物事はそう簡単にはいかないようだ。
「モノのインターネット」(IoT:Internet of Things)が現実になりつつある。しかし、世界中に広がる埋め込みセンサーのネットワークに備わっているはずの能力を存分に発揮するには「国境の問題をクリアした無線ネットワーク」と「利益を生むソフトウェアのエコシステム」をまず確立する必要がある。2013年5月中旬に米国フロリダ州で開かれた独SAPのカンファレンス、SAP SAPPHIRE NOWにおいて、パネリストはそう指摘した。
“The Internet of Things is Now”(今こそモノのインターネット)と題したディスカッションで、SAPはこのテクノロジーを実用化している顧客を紹介しようとしていた。IoTは、マシン・ツー・マシン(M2M)と同じ次元で語られることも多い。通常はM2Mにはマシンとセンサーに固有の識別子を割り振る作業が含まれる。人間が介入することなくマシン同士が通信を行って処理を自動化し、同時にP(ペタ)バイト級のビッグデータを生成する。そのデータは管理システムが利用したり、アナリティクスソフトウェアが超高速で処理したりする。
「これまでは、石油やガスのような高価値の資産を扱う特定の分野に制限されてきた」と、モデレーターを務めたスハス・ウリヤ氏は言う。同氏は、SAPの副社長でIoT/M2M部門の責任者である。「それが、今や転換点に達しつつある。ムーアの法則によって、センサーや通信のコストが下がる一方で、電気通信事業者はIoTに必要な無線ネットワークの構築に力を入れ始めている」と報告した。
そんな通信事業者の一例が、スウェーデンに本社を置くEricssonだ。「バラバラに散らばっていたパズルのピースが、今どんどんつながってきている感覚がある」と、同社の新事業開拓とイノベーションの責任者であるヨナス・ベントション氏は言う。同氏によれば、全世界で500億個のデバイスが接続されるとEricssonは数年前に予測していた。デバイスの数がこの1年から1年半の間に目覚ましい勢いで増えていることから、この目標値は現実味を帯びてきた。「M2Mは私たちが“つながりの第三の波”と呼んでいるものの象徴だ」と同氏は言う。第一の波は「場所」のつながり、第二の波は「人間同士」のつながりである。
2人のパネリストが共に指摘したのは、センサーが装着されている機器は増えてきているものの、具体的なアイデアがなかなか見つからずに苦しんでいるのが現状だということだ。例えば、センサーによって収集されたデータを分析するために、そして結果的に利益を生むためにはどんなソフトウェアを搭載すればいいのか、またどのようなビジネスプロセスが必要なのか、などが挙げられる。
かたや「われわれは、さほど込み入っていない方法を見つけた。データの管理は可能だ」と語るのは、米業務用清掃用品メーカーTennantのIT部門責任者(CIO)、ポール・ウェルマン氏だ。
Tennant社は、温度や使用量など刻々と変動するデータを収集する「ブラックボックス」を、全米とカナダの合計約300カ所にある自社の装置に取り付けた。「M2Mソリューションのインフラとエンジニアリングには、既に実績がある。現在の問題はもはや、それに基づくビジネスインテリジェンス(BI)とアナリティクスだ」。ウェルマン氏によれば、同社で収集したデータの活用を推進しているのは、マーケティング部門だという。最優先課題が、設備への投資を戦略的な価値と価格に適切に反映させる方法を決定することにあるからだ。
デンマークのポンプ製造会社Grundfosで、ポンプコネクタ開発部門を率いるミケル・ソレンセン氏は「当社製品に設置したセンサーを活用するソフトウェアのエコシステムの必要性はGrundfos社もよく認識している」と話した。
「大切なのは、点と点を結び付けることだ。当社はセンサーのデータを活用するシステムを構築したことによって、競争力のあるブランドを確立し、それが新たなビジネスチャンスの発掘にもつながった。価値観が180度変わった」と同氏は語った。
Ericsson社のベントション氏は、IoTを推進する上での困難の一因は、ソフトウェアにもあると注意を促した。「電気通信事業の免許は基本的に国ごとに取得する必要がある。アメリカでは州ごとに免許が必要な場合もある。当社は現在その問題に取り組んでいるところだ」と同氏は話す。これについてSAPのウリヤ氏に再び尋ねたところ、国や地域ごとに基準が異なるので、国境を越えた相互運用性を実現する部分はSAPが支援を始めたと言う。
物事はそう簡単にはいかない
IoTが将来悪影響を及ぼす潜在的な要因はあるかどうか、ウリヤ氏はパネリストたちに尋ねた。ソレンセン氏は、複数の機器から入ってくるデータを接続することで、セキュリティとプライバシーの問題が発生するだろうと警告した。例えば、管理上の理由で、ある住宅への水道の供給を止めた場合、ハッカーにはそのタイミングが把握でき、その家には誰もいないことが推測されてしまう。「コカコーラの工場で使用する水量データを監視すれば、生産量が実際に予測できることもある」とソレンセン氏は言う。そのデータから財政状況も、恐らく推測できる。
そのとき聴衆の1人が、Grundfosがポンプに設置したセンサーから収集されたデータによって、自分がコントロールされる可能性が増すことに不快感を示す顧客がいるのではないかと指摘した。ソレンセン氏は「そのデータ測定機能があるからこそ、当社はネットワークサービスプロバイダーと同様に、顧客にサービス内容合意書(SLA)を提供することができる」と答えた。
パネルディスカッション終了後のインタビューで、Tennantのウェルマン氏は「センサーのデータを、保守作業でよく利用しているSAPのEnterprise Asset Management(EAM)モジュールに統合できるかどうか、SAPに問い合わせているところだ。当社はSAP ECC(ERP Central Component)のサービスオーダー管理を利用している」と語った。
米調査会社IDCで、世界中のソフトウェアおよびサービスの調査を担当する上級副社長、ヘンリー・モリス氏はこう話す。「機器のデータをEAMシステムからアクセスできるようにするのが通常のシナリオだ。EAMシステムがハブとなって、顧客の固定資産の活用方法が集約されていくだろう。その部分こそ、SAPが関与しなければならない」
パネルディスカッションでは聴衆として参加していたモリス氏は、こんな話もしてくれた。「IDCの調査結果を見ると、クレジットカードやソーシャルメディアから収集される個人情報よりも、センサーから得られるデータを活用するビッグデータの分野に、より大きな可能性があるという認識が企業にあることが分かる。当社は、そうしたテクノロジーの実際の用途についても調査を始めている。企業が予測しているのは、人間の振る舞いではなく、オブジェクト(対象)がどう機能するかだ」
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