徹底入門:財務諸表分析(1)
今から役立つ「財務諸表」の基礎と活用法
企業の財務データが書かれている財務諸表を使えば企業のさまざまな姿を分析できる。本連載では競合分析、転職など用途別に財務諸表の分析方法を解説する。第1回は財務諸表の基礎知識について。
はじめに
ビジネスパーソンの新たな三種の神器と呼ばれる「英語」「会計」「IT」。特に会計はグローバル経済が発達した現代においては、仕事の基本となる必須スキルとしてこれまでにも増して注目が高まっています。
事業活動においては、決算書の読み方の基本が分かっていないといろいろ困ったことになります。この事情はエンジニアにとっても同じ。コードだけでなく数字が読めることもこれからは求められてくるでしょう。といっても、財務経理の実務が分からなくても問題ありません。財務諸表から情報を読み取ることができればよいのです。この連載を通じて、財務情報を読み取る訓練を始めるきっかけになれば幸いです。
なぜ財務諸表を作るのか
まず、なぜ「財務諸表」が作られるのかを理解しましょう。
「会社」は誰のものでしょうか? 「株主」「債権者」「経営者」「従業員」といったさまざまな答えが考えられますが、法律や制度の枠組みにおいては、会社は一義的には株主つまりその会社に財産を出資している者(個人や法人)に帰属するとされます。
株主から財産の出資を受けた会社の経営者は、株主から預かった財産(受託財産)を事業に投入し、利益を最大化してその持ち主である株主に対してリターンを還元する、という義務を負っています(「受託義務」といいます)。この受託義務に関連して、会社の業績の良しあしを説明するための情報を作成し、適切なタイミングで株主に公表する責任が発生します。このような責任のことを「説明責任」または「アカウンタビリティー」と言い、会社の経営者はこのような株主に対する説明責任を果たす役割を持っているのです。
「決算書」や「財務諸表」と呼ばれる書類は、この説明責任を果たすために経営者が作成する報告書のことです。主に数字情報を使って経営者が株主に会社の業績を説明するためのツールが財務諸表です。株主は財務諸表の情報を利用して、その会社に引き続き投資を行うのか、追加投資する、またはしないかという「投資意思決定」の材料にします。会社から株主に対するこのような情報提供が行われることで、株主の投資意思決定に貢献することが財務諸表の役割として位置付けられています。
財務諸表とは何か
さて、財務諸表とは具体的には以下の書類(群)のことを指します。
- (1)貸借対照表(財政状態計算書) Balance Sheet(B/S)
- (2)損益計算書(包括利益計算書) Profit and Loss Statements(P/L)
- (3)キャッシュ・フロー計算書 Cash Flow Statements(C/F)
- (4)株主資本等変動計算書(持分変動計算書) Statements of Shareholders’equity
- (5)さまざまな注記情報 Footnotes
カッコ内の名称は、国際財務報告基準(IFRS、国際会計基準)で定められている書類の名称です。せっかくなので両方の名称を知っておきましょう。
これらのうち(1)(2)(3)は「財務三表」とも呼ばれ、財務諸表の中でも中心的な役割を持っています。ここでは財務三表の相互の構造について理解しましょう。
損益計算書(P/L)は、一定期間における会社の「経営成績」、つまり「一年の間に稼いだ利益の内訳」を通貨で表現します。通常は一年を通じて「獲得した資金」(収益)を計算し、それを獲得するために「投じた資金」(費用)を差し引いて「利益」を計算します。この計算式を覚えておきましょう。
貸借対照表(B/S)は、一定時点における会社の「財政状態」、つまり「今持っている全ての財産」を貨幣で表現します。計算式は以下です。
「資産」とは「持っている財産」のことを、「負債」とは「資産を獲得するために調達した資金の源泉」をそれぞれ表します。
「純資産」は、「資産」と「負債」の差額を計算した結果としての「会社の正味の価値」を表します。これらは会計ルールに基づいて計算された数字にすぎませんのでそのまま会社の価値とするわけではないですが、会社の価値を表現する目安になります。
損益計算書と貸借対照表は、「利益」を通じてつながっています。つまり、損益計算書で計算された「利益」が貸借対照表の「純資産」に組み込まれることで、株主が会社に最初に出資した財産(資本金など)以外に、会社自身で獲得した「利益」が「純資産」の中に蓄積されていきます。
おわびと訂正(2014年2月19日0:15)
初出時に上記2点の図版「損益計算書」に誤りがありました。おわびして訂正いたします(編集部)。
【修正前】損益計算書の左側「負債」
【修正後】損益計算書の左側「費用」
こうしたサイクルを通じて、会社が利益を上げ続けていれば会社の正味の財産(純資産)は拡大し続け、その結果会社の価値も増加していくのです。
財務三表の中で、キャッシュ・フロー計算書は特異な位置付けを持っています。損益計算書で表現される収益や費用は会計上の取引を記録した結果ですが、そのまま「キャッシュ」(つまり現金や預金)の動きを表現するとは限らないのです。
- 信用取引(売掛金や買掛金など、現金の入出金を伴わない)
- 在庫(現金の入出金を伴わない生産活動)
- 減価償却費(現金の入出金を伴わないが費用を計上する)
などの取引があると、収益や費用の動きがキャッシュの動きと一致しません。
会社の状況を把握したい株主にとっては、これは困ったことになります。計算上の収益や費用と、それを使って計算された利益がプラスになっていたとしても、キャッシュが同じだけ実際に存在するとは限らないからです。最悪の場合、利益を大きく出しているのにキャッシュが枯渇して会社が倒産してしまう、いわゆる「黒字倒産」という事態が起こります。
このような事態に陥って株主が損を被ることを防ぐため、利益とは別にキャッシュの1年間の動きについても継続的に公表する仕組みがあり、そこで作成される書類がキャッシュ・フロー計算書なのです。ここでは「利益とキャッシュは違う」ということを念頭に置きましょう。
財務諸表から何が分かるのか、どんな局面で分析するのか
財務三表に代表される財務書類から読み取った情報は、さまざまな判断材料にすることができます。具体的には、次のような情報を知ることができます。
貸借対照表からは、ある時点における財産の内訳を元にした会社の「静的な情報」が分かります。
- 資金面での体力(すぐに倒産しない資金余力があるか)
- 投資と調達源泉のバランス(身の丈に合った投資をしているか)
また、損益計算書からは、1年間の資金の使途の推移を元にした会社の「動的な情報」が分かります。
- 事業の規模(売り上げの大きさ)
- もうけの構造(売り上げと費用のバランス)
- 費用構造(経費や人件費のかけ方)
そして、財務三表に代表される財務諸表から読み取った情報は、さまざまな判断材料にすることができます。例えば以下のようなケースがあります。
競合他社の状況を理解する
競争市場においては他社に先んじて次の打ち手を考える必要があります。他社の強みや弱みを知ることで、効果的な次の一手を検討する材料になります。
提携先・投資対象をリサーチする
財務諸表を通じて、業務提携や買収の対象とする会社について財務面の強みや弱みを知ることができます。
転職先を探す
これから転職しようとしている会社が安定経営なのかどうか、安心して行けるかどうかを知ることができます。
以上それぞれの局面について、本連載の中で詳細に説明していきたいと思います。
原 幹(はら かん)
株式会社クレタ・アソシエイツ 代表取締役
公認会計士・公認情報システム監査人(CISA)
大手監査法人にて会計監査や連結会計業務のコンサルティングに従事。ITコンサルティング会社を経て、2007年に会計/ITコンサルティング会社のクレタ・アソシエイツを設立。「経営に貢献するITとは?」というテーマをそのキャリアの中で一貫して追求し、公認会計士としての専門的知識と会計/IT領域の豊富な経験を生かしたコンサルティングに多数従事する。
著書に「図解IFRSのきほんがわかる本」をはじめ、翻訳書やメディア連載実績多数。
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徹底入門:財務諸表分析
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