新製品合同レビュー
会計のプロが見た、クラウド会計ソフト「freee」の評価と課題
クラウドベース、銀行口座の入出金情報を自動取得などこれまでの会計ソフトにはない先進的な機能を盛り込んだクラウド会計ソフト「freee」が注目されている。公認会計士など会計のプロはfreeeをどう評価するのか。
これまでパッケージソフトでの提供が多かった会計ソフト。しかし、「freee」はクラウド上にプログラムを置き、Webブラウザから利用する新しい会計ソフトだ。しかも銀行口座の入出金情報やクレジットカードの取引情報を自動で取得し、複式簿記を知らなくても経理処理を行うことができる(詳しい機能については以下の記事を参照「Macでも使える「freee」は「会計ソフト難民」を救うか」)。会計のプロはこのfreeeをどう見るのか。以下の3人が集まり、freeeを開発したCFOの代表取締役 佐々木 大輔氏の話を聞いた。
レビュワー
- 公認会計士A。個人の会計事務所を持ち、多くの中小企業を顧問先として持つ。ITベンダーやコンサルティングファームにも過去に所属し、ITシステムにも詳しい
- 公認会計士B。大手監査法人に所属し、大企業を中心に監査業務に取り組む。経理処理のプロセスに詳しい
- ITコンサルタント。会計パッケージの開発元に所属した経験を持ち、ITシステムや経理業務全般に詳しい
freeeへの評価
freeeへの評価は総じて高かった。現時点での機能だけではなく、これまでの会計ソフトにはないクラウド展開や銀行口座の自動取得の機能を評価する声がレビュワーからは聞こえた。Webブラウザで稼働するソフトながらスムーズで直感的なユーザーインタフェース(UI)を備えていることも評価が高く、「処理をすると順に項目が消えていく。全部消えると終わり。それが気持ちいい」(公認会計士B)との声が聞こえた。中小企業の顧問先を多く抱える公認会計士Aは「経理業務はつまらない業務なので、動きで退屈させないのは新しい」と評価した。使いやすいインタフェースは経理処理のスピードアップにもつながる。
中小企業向けの会計ソフトの多くは、まだクラウド進出に様子見だ。銀行口座の入出金情報の自動取得でも個人向けの家計管理ソフトでは導入が進んでいるが、会計ソフトでは珍しい。ITコンサルタントからはfreeeについて「既存の会計ソフトの発展ではなく、Webをベースに考えられた会計ソフト」との評価が聞かれた。佐々木氏は「従来の会計ソフトに慣れた人から見ると、手軽に使える点で“ずぼらな人”向けのソフトと見えるかもしれない。しかし会計帳簿を自動作成できることで、経営者がより創造的な活動に注力できる」と狙いを説明した。
freeeが備えるべき機能とは
だが、どれだけ目指す理想が高くても経理処理に必要な機能が欠けていると実務では使い物にならない。レビュワーの質問が集中したのはその機能についてだった。他社の会計ソフトが備えているものの、freeeはまだ実装していない機能は幾つかある。
ワークフロー機能
レビュワーの多くが「この機能はあった方がいい」と指摘したのはワークフロー機能だ。多くの会計ソフトでは振替の入力など定型的な業務を行うためのワークフロー機能が用意されている。ユーザーは画面の案内に沿って順に作業を行っていくだけで業務を完了させることができる。自分がどこまで作業を行ったかどうかも随時確認可能だ。公認会計士Aは「ワークフロー機能は既存会計ソフトの便利な機能だ。それをいいとこ取りしてもいい」と話した。
テンプレート機能
ワークフロー機能と同様に多くの会計ソフトが備えるのが、共通の仕訳パターンを登録できるテンプレート機能だ。典型的な処理をテンプレートとして登録しておけば、次にその処理を行う際にテンプレートを基に作業ができる。テンプレートによって、使えば使うほどその会計ソフトが利用しやすくなる。経理処理のスピードアップを目指すfreeeであれば、実装が望ましい機能だ。
対応する銀行
入出金情報を取得できる銀行が限られる点もユーザーによっては不便だ。freeeはメガバンクの個人口座の他、りそな銀行や楽天銀行、ゆうちょ銀行など9行の個人口座に対応する。対応銀行数は今後も増やす予定だ。問題は法人口座である。法人口座に対応するのは9行のうち5行にとどまり、メガバンクでは現在、対応銀行はない。未対応の銀行の場合、ユーザーが銀行のオンライン取引画面から入出金明細をダウンロードして、freeeにアップロードして登録する必要がある。だが、これではfreeeの特徴である自動処理に反する。
メガバンクの法人口座への対応が難しいのは、それぞれの銀行システムが独自仕様だからだ。自動取得するには電子証明書の用意など難しい面がある。freeeではユーザーに対してネット銀行の法人口座を使うことを勧めているという。既に自動取得に対応ができている上に「明細が2年でも3年でも残る。利便性は圧倒的に高い」(佐々木氏)からだ。
他社会計ソフトからの移行をどう促すか
freeeに対しては、1つひとつの機能ではなく、既存の会計ソフトを使うユーザーをどうfreeeに移行させるかというビジネス戦略についても指摘が多かった。freeeは複式簿記を知らずに利用できる、Webブラウザだけで使えるなど経理処理に対するハードルを下げることで2013年3月の発表以降、注目を集めてきた。freeeのメインターゲットは、個人のソフトウェア開発者やWebでサービスを提供する中小規模の法人だ。ただ、実際はリアルのショップを運営している経営者の利用も多いという。これらの経営者は何らかの経理処理を行っていて、会計事務所や税理士に経理処理を依頼することも多い。freeeはこれらのユーザーを対象に、別の会計ソフトからの移行を促す必要がある。
ユーザーの移行を促す上で重要になるのは、「クラウドのイメージ」「移行タイミング」「会計事務所」の3点だ。
クラウドのイメージについて公認会計士Aは「ユーザーの中にはインターネット=データ流出というイメージを抱く向きもある。こうしたイメージを払拭できるとハードルが下がる」と指摘する。個人で既にクラウドのアプリケーションを使っているユーザーなら理解は早いが、これまでパッケージの会計ソフトしか使ってこなかったユーザーにとっては、自社の経理データが社外に保存されることに抵抗を覚えるかもしれない。
またインタフェースについても、既存の会計ソフトのUIのイメージを強く持っているユーザーの場合、WebベースのfreeeのUIに違和感を覚える可能性がある。freeeにとってはこれらの移行の障害を1つひとつ取り除くと同時に、心理的な抵抗を乗り越えてもらえるだけのメリットを提示する必要がある。
もう1つのポイントは移行のタイミングだ。「年度の途中で会計ソフトを乗り換えることは少ない」(公認会計士B)といい、実際にfreeeが採用されるのは決算報告や申告書の提出が終わる時期に限られる可能性がある。そのタイミングでキャンペーンを行うことなどが考えられるだろう。移行を支援するため、freeeは弥生会計の仕訳日記帳データをインポートする機能を備える。データを修正すれば、他の会計ソフトからもデータをインポート可能だ。
会計事務所の攻略もfreeeが大きく飛躍するためには必須だ。中小企業の場合、会計ソフトの選択に会計事務所が関与するケースは意外に多い。会計事務所が経理処理を請け負うため、特定の会計ソフトの利用を企業に求めるからだ。そのためITコンサルタントは「ユーザーをまずは味方にして、freeeの利用を会計事務所に認めさせる方法もある。エンドから普及を促していくのが正しい戦略だ」と述べる。
レビュワーの反応を見ると、freeeはひとまず順調なスタートを切ったといえるだろう。機能も順次拡充しているし、何よりもその先進的な提供形態や機能が支持されている。freeeは7月末で無償期間が終わり、ユーザーへの課金が始まる。課金ユーザーの今後の評価が興味深い。
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