人事システム「COMPANY」をAWSで運用
【事例】ミサワホームはなぜ人事システムをクラウドに移したのか
システムを徐々に拡張し、最終的に1万人規模の人事情報を管理する。ミサワホームが考えるこのようなシステム構築にはクラウドの柔軟性が必須だった。注目を集める「ERP on AWS」の事例を紹介する。
住宅メーカー大手のミサワホームは現在、全国に40社以上あるグループ企業のシステムを一元化するプロジェクトに取り組んでいる。その一環として、グループ内の人事システムをワークスアプリケーションズの「COMPANY 人事シリーズ」に統合、さらにはその稼働基盤としてアマゾン ウェブ サービスが提供するクラウドサービス「Amazon Web Services」(以下、AWS)を採用した(参考記事:【事例】「SAP on AWS」のメリットは? ケンコーコムの取り組みを見る)。
大手グループ企業の基幹システムをクラウド基盤上で本格運用する事例は国内ではまだ数が少なく、今回のミサワホームの試みは各方面から高い注目を集めている。ミサワホームでは今回、何を目的に基幹システム基盤にAWSを採用し、どのようなビジネス効果を狙っているのか。同社 企画管理本部 情報システム部長の宮本眞一氏に話を聞いた。
人事システム一元化の基盤にクラウドを採用
ミサワホームのビジネスモデルは、全国に40数社ある販売会社を通じた間接販売方式だ。自ずと各販売会社の経営の独立性が強く、業務システムも各社ばらばらに構築されていた。同社では2010年から、こうした状況を是正し、人事システムを皮切りにグループ全体で業務システムを一元化するためのプロジェクトを進めている。このプロジェクトを発足させた背景には、過去の経営危機があったと宮本氏は言う。
「弊社は経営難から2004年に産業再生機構の支援を受けたが、2000年あたりからコストカットのために新規のシステム投資を凍結していた。その後、経営再建が順調に進む中で、投資をストップしていたシステムが一斉に更新時期を迎えることになった。これらをまた一から作り直すとなると、重複開発などで無駄なコストが掛かってしまう上、各社のシステムを連携させることも困難になる。そこでシステム更新を機に、ミサワホームグループ全体でシステムを極力一元化する方針を定め、本社でプロジェクトを発足させた」
その際、真っ先にニーズとして挙がったのが、グループ内でのID管理の一元化だったという。従来はシステムごとにIDがばらばらに管理されていたが、システムを一元化するに当たっては、まずはIDをグループ内で一元管理する仕組みが必要だった。同社は、人事システムの統合によってこれを実現しようと考えたのだ。
「異動情報や給与計算といった人事情報をベースにすれば、IDを確実に一元管理できると考えた。そこで、人事システムを本社に一元化し、その機能をシェアードサービスとして各販売会社に提供する形態を取ることにした」(宮本氏)
ミサワホームの本社および総合研究所では、2002年からワークスアプリケーションズの人事パッケージ製品「COMPANY 人事シリーズ」を利用しており、約1000人の従業員の人事情報を管理していた。そこで、このシステムに各販売会社の人事情報を移管していき、徐々にシステム規模を拡張しながら、最終的にはグループ内約1万人の従業員の人事情報を集約する計画を立てた。
しかし、従来通り自社でサーバを立てて運用するオンプレミス方式では、投資効率の面で問題があったという。
「システムを一斉に1万人規模に拡張するのではなく、何段階かに分けて販売会社の人事情報を移管し、徐々にシステム規模を拡張していく必要があった。また、移管するペースや順番が将来変わる可能性も考えられた。こうした事情を考慮した結果、オンプレミス方式よりもシステム基盤をはるかに柔軟に拡張できるクラウドのメリットが生きるのではないかと考えた」(宮本氏)
AWS上でのCOMPANYの構築・運用サービスを活用
数あるクラウドサービスの中から、同社がAWSを選んだ理由はどこにあったのだろうか。宮本氏によれば、さまざまなクラウドサービスを比較検討した結果、特に「料金の柔軟性」の面でAWSにメリットを見いだしたという。
「システムを一元化するタイミングで、SLA(サービスレベル契約)も併せて見直す計画を立てた。それまでは、特に根拠もなくシステムを24時間稼働させており、またサポート窓口の受付時間も厳密には定めていなかった。そこで、人事システムのシェアードサービス化と同時にSLAをきちんと定め、システム稼働率が低い深夜にはサービスを停止したり、あるいは処理量が少ない期間にはサーバリソースを減らすといった運用を実現したいと考えた。このように、リソースの稼働率を動的に変更していく運用形態を前提に考えると、AWSが最もコストメリットが高いと判断した」
そしてもう1つ、AWSを選んだ大きな決め手となったのが、ワークスアプリケーションズが提供するクラウド運用サービス「COMPANY on Cloud Managed Service」(以下、CCMS)の存在だった。CCMSは、AWS上でCOMPANYを稼働させるための環境構築と運用の作業を、ワークスアプリケーションズが一括して請け負うサービスだ。
ワークスアプリケーションズでは、Amazon EC2のサービス開始当初から社内でその利用と研究を続けており、2010年には早くもAmazon EC2上でCOMPANYを利用できるサービスを提供開始している。CCMSは、同社がこうして長年にわたって培ってきたAWSの構築・運用ノウハウの集大成として2012年9月に開始されたサービスで、今回のミサワホームのプロジェクトが初の導入事例となった。
宮本氏によれば、CCMSの利用は、プロジェクトをスムーズに運営する上で極めて効果的だったという。
「本来であれば、SIerやベンダーとクラウド事業者、そしてユーザー部門との間の調整役をわれわれ情報システム部門が担わなければいけないのだが、まだAWSのノウハウが乏しいだけに、不安な面もあった。その点CCMSでは、ワークスアプリケーションズの技術者にアプリケーションからクラウドのインフラまで一気通貫で見てもらえたので、非常に心強かった」
実際のプロジェクトにおいては、ワークスアプリケーションズの技術者に、アマゾン データ サービス ジャパンの技術者も加わり、ミサワホーム側と密接に情報を共有しながら作業が進められたという。
「今後、人事システム以外の業務システムも順次AWS上に移管していく計画があり、われわれ情報システム部自身がAWSのノウハウを吸収するためにも、ワークスアプリケーションズとアマゾン データ サービス ジャパンと共同でプロジェクトを進める体制を取った。しかし、もしこの部分を割り切ってしまえば、恐らくわれわれが必要以上に介在する必要もなく、人事部門とワークスアプリケーションズだけでほとんどの作業が完結していただろう」(宮本氏)
AWSの適用範囲を徐々に拡大していく予定
こうしてAWSのクラウド基盤上に移管されたミサワホームの人事システムは、2012年2月に最初のカットオーバーを迎えた。当初は、販売会社4社を含む従業員約2000人分の人事情報を管理したが、2013年4月には早くもこれを約4500人規模に拡張。さらに2014年中にはグループ全社、約1万1000人分の人事情報を管理できるまでにシステム規模を拡大していく予定だという。
まだ本格運用は始まったばかりだが、宮本氏はCCMSが提供するシステム運用のワンストップサービスに大いに期待していると述べる。
「クラウド上のシステムで問題が発生した際には、アプリケーション側に問題があるのか、あるいはクラウドインフラ側に問題があるのかを切り分ける必要があるが、CCMSのサービスを活用すれば、ワークスアプリケーションズ側で一括して問題解決に当たってくれる。そのため、かなり運用が楽になるのではないかと期待している」
ミサワホームでは現在、人事システム以外の業務システムに関しても順次クラウド基盤上への移管を計画しており、直近ではSFAシステム、会計システム、受発注システムをAWS上で構築することを予定しているという。
「全社規模のSFAの仕組みは今回初めて導入することになるが、全国の営業担当者全員がすぐに使いこなせるようになるとは思っていない。やはり利用が徐々に広がっていく状況を見ながら、それに合わせてシステム規模を段階的に拡張していくことになると思う。このようなケースにおいてこそ、柔軟なスケール性を備えるクラウドのメリットが生きてくる。一度オンプレミスでシステムを構築して固定費を抱えてしまうと、どうしても計画を途中で修正しづらくなるが、その点クラウドは状況に応じて柔軟に方向転換できるのが最大のメリットだと思う」(宮本氏)
同時に、クラウドのメリットを享受するためには、使う側にもそれ相応のスキルが必要になるだろうとも同氏は述べる。
「クラウド上にシステムを持って行けば、全てが解決するとは思っていない。クラウドベンダーによるロックインのリスクもあるし、異なるクラウドサービス間でシステムを移管する方法についてもこれから議論する必要がある。またAWSのような海外のサービスを使いこなすためには、自ら進んで情報を収集し、新たな動向に常にキャッチアップしていく必要がある。これまでは、AWSを使いこなしている会社というと『エッジの効いた新興ネット企業』というイメージが強かったが、今後はわれわれのような企業の情報システム部門も積極的に勉強するスタンスを持たないと、クラウドのメリットを享受し損ねるのではないだろうか」
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