クラウドERP製品カタログ【第8回】ワークスアプリケーションズ
「COMPANYシリーズ」をAmazon EC2で運用、パブリッククラウド選択の背景は
ERPパッケージ「COMPANYシリーズ」がAmazon EC2に対応した。企業はハードウェアコストを負担することなく人事システムなどを構築できる。プラットフォームにAmazon EC2を選んだ理由は「進化スピードの速さ」だ。
ワークスアプリケーションズが提供する「COMPANYシリーズ」は、大手企業向けの国産ERPパッケージとして長く高シェアを保ち続けている製品だ。COMPANYシリーズの製品ラインアップは、対象業務別に「COMPANY人事シリーズ」「COMPANY会計シリーズ」などと分かれており、特に人事シリーズは大手企業向け人事システムの市場で長くトップシェアを誇っている(参考記事:「COMPANYシリーズ」を貫く“本来のパッケージ”という開発思想)。
またCOMPANYシリーズは、他社製ERPパッケージ製品にはあまり見られない独自の製品コンセプトを持つことでも知られる。その最大の特徴は、カスタマイズやアドオン開発がほぼ不要なこと。あらゆるユーザーニーズに応えられるだけの豊富な機能をあらかじめ実装しているためノンカスタマイズで導入できるという。また、定額の保守料だけで無償バージョンアップを提供する独自のバージョンアップポリシーも持つ。こうしたことから、他社製品と比較して導入・運用コストを大幅に削減できるというのが同製品の主なセールスポイントになっている。
ワークスアプリケーションズは2011年3月、このCOMPANYシリーズの主力製品であるCOMPANY人事シリーズを、Amazon EC2のパブリッククラウド環境に対応させたと発表した(参考記事:ワークスアプリケーションズ、「COMPANY」をAmazon EC2で提供)。現在、さまざまなERPベンダーが自社製品のクラウド対応を進めているが、その多くは財務・会計分野の製品であり、本格的な人事システムのクラウド対応はCOMPANY人事シリーズの他には、まだあまり例がない。しかも、プライベートクラウドではなくAmazon EC2のようなパブリッククラウドでとなると、なおさらだ。
パブリッククラウドを用いた製品、サービスは一般ユーザー向けアプリケーションというイメージもあるが、ワークスアプリケーションズ プロダクションソリューション事業本部 ソリューションプランニンググループ マネジャー 安部孝之氏は、むしろ業務アプリケーションこそクラウドでの利用に適しているという。
「クラウドの最大のメリットの1つは、トランザクションのピーク時に合わせてITリソースを確保しておく必要がない点。これは、ECサイトやキャンペーンサイト、携帯アプリなどの運用において有利だとされるが、人事システムをはじめとした業務アプリケーションも週次、月次、年次それぞれの締めのタイミングでまとまったバッチ処理を行う必要がある。クラウドなら、そのタイミングで一時的にITリソースを増強できるため、普段は少ないリソースで効率良く運用できる」
このハードウェアリソースの保有コストを大幅に削減できる点が、クラウドを使う最大のメリットだといえよう。ワークスアプリケーションズでも、このメリットを顧客に享受してもらうことが、ひいてはCOMPANYシリーズの成長につながると判断し、自社製品のクラウド対応に乗り出したという。
「COMPANYシリーズは、ノンカスタマイズでの導入と無償バージョンアップによって、導入コストと運用コストを大幅に節減できるのが大きな特徴。クラウド版ではこれに加え、ハードウェア保有コストの削減で、さらなるコストメリットをユーザーに提供することを目指した」(安部氏)
逆にいえば、クラウド版と従来のオンプレミス版の違いは、ハードウェア保有コストだけということもできる。事実、COMPANY人事シリーズのライセンス体系は、クラウド版もオンプレミス版も同じ一括買い取り方式が採用される。
「クラウド版は製品の提供形態が変わっただけで、ビジネスモデルとしては従来のものと全く変わっていない」(安部氏)
AWSの徹底研究で製品のクラウド化を実現
人事システムで管理されるデータは、企業が扱うデータの中でもかなり厳密な扱いが求められる。そのため、パブリッククラウド上に人事データを預けることに抵抗感を覚える企業も少なくない。こうした不安感を解消するため、COMPANY人事シリーズのクラウド版では、次のようなシステム構成を取ることができる。
まず、全従業員が共通して利用する勤怠管理やプロジェクト管理などのモジュールは、Amazon EC2上に配置する。しかし、重要データを管理する人事・給与モジュールは従来の自社システム内で稼働させる。そして、この両者を連携させることで、クラウドとオンプレミスのハイブリッド構成による人事システムを実現するのである。
また、まずは勤怠管理やプロジェクト管理などのモジュールからクラウドへ移行させることで、最小限のリスクで最大のコストメリットを引き出せるという。ワークスアプリケーションズ アドバンスト・テクノロジー&エンジニアリング本部 技術基盤開発グループ マネジャー 遠藤博樹氏は、次のように説明する。
「人事・給与モジュールは、もともと人事部門の一部の従業員が使うシステムなので、クラウドのスケールメリットを生かしにくい。一方、勤怠管理などは全従業員が使うものなので、システムが必要とするサーバの台数も多くなり、クラウドのスケールメリットが生きてくる」
ワークスアプリケーションズでは、勤怠管理やプロジェクト管理以外の人事・給与モジュールに関しても、技術的にはAmazon EC2上で問題なく稼働することを確認しているという。セキュリティに関する懸念も、近年のAmazon Web Services(AWS)ではほとんど気にならないレベルにまで払拭されていると遠藤氏は述べる。
「かつては、パブリッククラウドに対してセキュリティ上の不安を抱くユーザーが多かったが、最近ではAWSにも認証サービスや『Amazon Virtual Private Cloud』(Amazon VPC)、専用線接続サービスなどが用意されており、かなりハードルは低くなってきている」
ワークスアプリケーションズでは現在、製品の開発・検証作業のほとんどをAmazon EC2の環境上で行っている。それも、Amazon EC2のサービスが開始されて間もないころからのヘビーユーザーだという。
「2008年末から、クラウドをはじめとする先端技術の研究部門を社内に設置し、AWSのクラウド技術をいかに自社ソリューションへ取り込めるかの研究を続けてきた。研究を始めた当初は、まだAWSにも安定性やパフォーマンス、セキュリティ上の問題点があり、これを製品側でカバーするための機能強化を重ねてきた。こうした積み重ねの結果、現在では顧客に直接クラウドソリューションを提案できるレベルにまでになった」(安部氏)
例えば、初期のAWSではデータセンターのロケーションとして米国しか選択肢がなかったため、日本から利用する場合には高いパフォーマンスが出せなかった。そのため同社では、製品のパフォーマンスチューニングを徹底的に行い、Amazon EC2上で稼働させた場合でもオンプレミスにも劣らないほどのパフォーマンスを達成したという。
その後、米国以外のリージョンが選択可能になった際には、リージョン間でシステムを移動させたり、あるいはデータを別リージョンに複製してシステムの可用性を高める方法も独自に研究してきたという。また、Amazon VPCのサービス提供前から、Amazon EC2環境内にセキュアなネットワーク環境を構成する方法まで独自に編み出していた。
「AWSの変遷を追いながら、試行錯誤しつつ研究を続けてきたおかげで、さまざまなノウハウを吸収できた。このノウハウを製品開発にフルに生かしていることが、われわれの最大の強みだといえる」(遠藤氏)
パブリッククラウドへの対応で技術力を強化
セキュリティやパフォーマンスに配慮するのであれば、同じクラウドであってもパブリッククラウドよりプライベートクラウドの方が有利なはずだ。事実、現在多くのベンダーが、大手企業向け業務アプリケーションの提供形態としてプライベートクラウドを選択している。そんな中、なぜワークスアプリケーションズは自社製品の提供形態としてパブリッククラウドを選択したのだろうか。
理由の1つは、パブリッククラウドが持つスケールメリットにあるという。基本的にクラウド基盤のスケールが大きければ大きいほど、ITリソース当たりの単価は低くなる。そのため、プライベートクラウドに比べ圧倒的に大きなスケールを持つパブリッククラウドの方が、ユーザーにより多くのコストメリットを提供できるという判断だ。
そしてもう1つの理由は、あえて技術的なハードルを自分たちに課すためだったと遠藤氏は述べる。
「確かにパブリッククラウドよりプライベートクラウドの方が、セキュリティや可用性、パフォーマンスなどを管理しやすい。しかし逆にいえば、技術的な課題の多いパブリッククラウドを前提に製品を強化していけば、よりハードルの低いプライベートクラウドでは何の問題もなく稼働するはずだ。そのような考えから、あえてハードルの高いパブリッククラウドにチャレンジしている」
先に紹介したように、同社では現在、COMPANYシリーズの全ての製品の開発・検証をAmazon EC2上で行っており、人事シリーズ以外の製品もほぼAmazon EC2上での正常稼働を確認しているという。事実、既にECパッケージ製品「COMPANY ECシリーズ」をパブリッククラウド環境上で運用しているユーザーも存在するという。
「パブリッククラウド、特にAWSの進化のスピードは本当に速い。だからこそ研究に値するし、その進化とともに歩んでいけばわれわれも一緒に成長していける。近い将来には、大手企業の基幹システムにもパブリッククラウドの技術がごく当たり前のように使われる時代が来ると予想している」(遠藤氏)
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