独自の製品コンセプトを武器に、国内ERPパッケージ市場でシェアを伸ばしつつあるワークスアプリケーションズ。特に、人事・給与分野のパッケージ製品は国内でトップシェアを誇る(矢野経済研究所調べ、2002〜2008年 ライセンス売上高シェア)。また、2005年から提供を開始した会計パッケージも、その製品コンセプトに多くの企業が導入メリットを見いだし、順調にシェアを伸ばしつつあるという。
ERPパッケージの世界では昨今、「IFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)対応」が花盛りだが、これに対しても同社は独自の方針とメッセージを打ち出している。本稿では、同社製品の特徴とIFRSへの対応について、その概要を紹介する。
ワークスアプリケーションズは、自社製品を「COMPANYシリーズ」というブランドに統一している。COMPANYシリーズは、分野別に「COMPANY 人事給与シリーズ」「COMPANY 会計シリーズ」などに分かれており、さらにその下に業務別の個々のパッケージ製品が位置付けられている。

個々のパッケージ製品は、それぞれ単体で動作する独立したソフトウェアだが、製品コンセプトや基本アーキテクチャは共通している。その最も大きな特徴は、カスタマイズやアドオン開発が不要であることだ。この点について、同社 営業本部 セールス&マーケティンググループ マネジャー 桐原理有氏は次のように説明する。
「一般的にERPパッケージというと、カスタマイズとアドオンによって顧客のニーズに合わせるものだと考えられている。しかし、本来“パッケージソフトウェア”とは、標準機能だけで顧客のニーズを極力満たせるものであるべき。COMPANYシリーズは、そうしたコンセプトに基づいて作られている」
あらゆる顧客の要件に、パッケージ製品の標準機能だけで対応する。一見矛盾するようにも聞こえる製品コンセプトだが、COMPANYシリーズでは、想定し得るさまざまなユーザー要件に対応できる機能を、すべてあらかじめ製品に内包するという方法で、これを実現している。
分かりやすく説明すると、こういうことだ。ある業務に対応する機能をあらかじめ複数パターン、製品の中に実装しておく。ユーザーは、それらの中から自社の業務に最もマッチするものを選択して、利用する。「WindowsやOfficeアプリケーションを使うことをイメージしてもらえばいい」。こう説明するのは、同社 製品開発本部 COMPANY 会計シリーズ開発グループ ゼネラルマネジャーの廣原亜樹氏だ。
「例えばMicrosoft Office Excelなども、実装されている機能をすべて使う人はいない。目的に応じて、必要な機能だけを呼び出して、その設定を変更した上で利用する。それと同じで、COMPANYシリーズでは、あらかじめ多くの機能を多くのパターンで使えるようにそろえてあるので、その中から必要なものをチョイスできるようになっている。また同時に、その使い方も、パラメータの設定変更でユーザーが使いやすい形に合わせられるような仕組みになっている」(廣原氏)
簡単な操作で機能の選択、パラメータの設定変更、帳票の設計、ワークフローの定義などを行うことができるツールが、あらかじめパッケージ製品の中に含まれている。ユーザーは、これを操作することで自社のニーズにマッチしたシステムを構築する。こうした方法であれば、基本的にカスタマイズやアドオン開発は不要になる。
ERPパッケージのカスタマイズは、今さら言うまでもなく、大きなリスクを伴う。初期導入時に多大な開発コストを要するだけでなく、バージョンアップのたびにカスタマイズ機能の検証を行う必要があるため、後々まで大きな負担を背負い込む可能性がある。COMPANYシリーズはERPパッケージ製品としては後発だが、その分、従来の製品が抱えるこうした課題を十分意識した作りになっている。
COMPANYシリーズのもう1つの大きな特徴は、バージョンアップを無償(年間保守料の範囲内)で行っている点だ。ERPパッケージは一度導入したら終わり、というわけにはいかない。経営環境の変化が激しい昨今では、企業合併、組織改変、業務プロセスの改善など、さまざまな場面で基幹業務に変更が生じる。そうなると当然、基幹システムもそれに応じた改変が必要になる。
前述したように、COMPANYシリーズはあらかじめ機能を複数パターン実装しているため、大抵の場合は別パターンの機能に入れ替えることで業務の変更にも対応可能だという。しかし、それだけでは各企業の個別ケースに十分対応できない場合もある。
そうしたケースに対応するため、ワークスアプリケーションズではユーザー企業から製品の機能強化のリクエストを随時受け付けている。ユーザーは同社のWebサイトや、製品ユーザー会などを通じて、同社に機能強化の要望を提出することができる。同社はこうした要望の中から、特に要請が強いものや、トレンド動向にマッチしたものを選び、随時製品の新バージョンに反映させていく。
ユーザーは、こうして機能が強化された新バージョンを追加料金なしで導入し、利用することができる。そして新バージョンを実際に使ってみた結果を、再度同社にフィードバックする。同社ではそれをさらに次期バージョンに反映させていく……。こうしたサイクルを回していくことによって、同社はCOMPANYシリーズの機能の汎用性を高めてきたのだという。
従来のERPパッケージがバージョンアップのたびにコスト負担をユーザーに強いてきたことを考えれば、こうした仕組みはユーザーにとってもメリットが大きいといえよう。桐原氏によると、特に会計パッケージではこのバージョンアップの仕組みが非常に効果的だという。
「会計システムは、社内の事情だけでなく、法律や制度の変更といった外部要因によっても絶えず改変を余儀なくされる。これをすべてカスタマイズで対応すると、多大なコストと時間がかかる。かといって、これを人手によるプロセスで補完しようとしても、今度は内部統制上のリスクが発生してしまう。こうしたジレンマに悩む企業が、COMPANYシリーズのバージョンアップポリシーに共感し、導入するケースが増えてきている」(桐原氏)
特に上場企業の会計業務は今後、IFRSへの対応を行っていく必要があるため、さらに変化の頻度が多くなる。IFRSについては、日本の会計基準をIFRSに近づけていく「コンバージェンス」と、IFRSをそのまま受け入れる「アドプション」の2つがある。日本では既にコンバージェンスが進行中。そして2015年、または2016年にはアドプションが想定されている。
ERPパッケージの分野では、既にIFRSが強制適用されている欧州で実績のある外資系パッケージベンダーを中心に、アドプションによるIFRS対応がアピールされている。既にIFRSに完全対応している製品を導入すれば、容易にIFRSへ移行できるという内容だ。また、金融庁が2009年6月に「2012年にIFRSを強制適用するかどうかを判断し、強制適用する場合は2015年または2016年」というロードマップを発表したことも、こうした論調に拍車を掛けている。
しかし廣原氏は、こうしたメッセージはユーザーをミスリードする危険性があると警鐘を鳴らす。
「アドプションは金融商品取引法が求める『開示』に主眼を置いているが、会計にはそれとは別に、税法に基づき課税所得を決めるという機能もある。こちらはたとえIFRSが強制適用されても、やることに変わりはない。これに主眼を置いたものがコンバージェンスだといえる。この2つは法律も管轄も違うため、決して交じり合うことはない。従って、本来はアドプションだけでなく、コンバージェンスとアドプションの両面で対応を進めていかなくてはいけないはずだ」(廣原氏)
こうした考えに基づき、同社は現在、コンバージェンス項目を中心にCOMPANY 会計シリーズのIFRS対応機能の強化を進めている。既に主要なコンバージェンス項目の1つである「資産除去債務」に関しては対応を終え、今後も動向を見定めながら随時、コンバージェンス項目に対応したバージョンアップを続けていくという。また前述した通り、ユーザーはこうしたバージョンアップの恩恵を追加料金なしで受けることができる。IFRS対応においては、こうしたバージョンアップ方式のメリットは特に大きいと桐原氏は言う。
「IFRS対応というと、2015年の強制適用に向けてウォーターフォール型でシステムを構築していくというイメージを持つユーザーが多い。事実、『そのためには、もう要件定義を始めなくてはいけない』と提唱するベンダーもいる。しかし、IFRSの制度化はいまだ検討中の段階で、強制適用時のIFRSの姿を今の時点で正確に予測するのは不可能だ。今から長時間をかけて一からシステムを構築していっても、強制適用の直前までさまざまな制度改変が行われるので、結局は直前になって大掛かりな仕様変更やバージョンアップが発生するだろう。その点、COMPANY 会計シリーズは年数回のバージョンアップによってIFRS対応機能を段階的に導入していくことができるため、コストもリスクも抑えることができる」(桐原氏)
また、多くのユーザーが見逃していることとして、IFRSは強制適用後も引き続き改定される点を桐原氏は指摘する。そうしたことを考慮しても、COMPANYシリーズのバージョンアップポリシーはIFRS対応を行う企業にとってメリットが大きいと同氏は力説する。
さらに、バージョンアップを繰り返していくことで、最終的にはアドプションにも容易に対応できるようにするための製品ロードマップを計画しているという。既に総勘定元帳データベースはIFRSに準拠した連結決算に対応できるようになっており、単体の元帳を日本基準で持つのか、IFRSで持つのか、あるいは両方をパラレルで持つか、複数のパターンの中から選べるようになっている。
ほかのERPパッケージベンダーと同様、積極的に自社製品のIFRS対応を進めるワークスアプリケーションズだが、同社はIFRSを、本稿で紹介したような製品コンセプトの強みをあらためてユーザーにアピールできるチャンスだととらえている。桐原氏は次のように述べる。
「これまでERPパッケージの費用対効果というものは、あまりきちんと考えられてこなかった。しかし、IFRS対応のためにERPシステムを大きく変えざるを得なくなったことで、今後は各ユーザー企業でしっかりとした判断がなされるようになるのではないか。そのとき、われわれの製品が持つさまざまなメリットが生きてくる。従ってIFRSは、われわれにとって大きなビジネスチャンスだと考えている」