CIOが退職する理由、退職をとどまる理由も明らかに
若手エンジニアが辞めない企業に共通する仕掛けとは
情シス部門のトップに立つCIOの理想像は常に変化している。ビジネスへの貢献、業務部門とのやりとり、顧客サービスの改善に加えて、価値観が異なる若手社員の早期離職を防ぐリーダーシップも求められている。
米TechTargetが毎年実施しているIT給与調査「IT Salary and Careers Survey」の2013年度の結果が出そろった。調査には、システム管理者から最高情報責任者(CIO)まで、多岐にわたる職種のITプロフェッショナル計1711人が回答している。今後、TechTargetの系列サイトはこの調査結果を共有し、IT従事者の年収や仕事の満足度、キャリアパスなどに関する傾向を考察していく計画だ。
本稿では上級IT幹部の年収、IT戦略、キャリアに対する意欲などを考察する。調査では、CIO、最高技術責任者(CTO)、IT責任者、IT担当上級副社長などを上級IT幹部として定義している。本シリーズでは他に、高所得層と低所得層にみられる違い、IT部門の予算と雇用、2014年に優先的に取り組むITプロジェクトなどを取り上げる。
最も年収が高い役職はCIO、給与総額は2014年も5%増加
今回の調査に参加した上級IT幹部の中で年収が最も高かったのは、2013年に148万ドル(賞与を含む)を稼いだCIOだった。466人の上級IT幹部の年収は平均で16万4000ドル、「2014年には給与総額が5%増える」と予想する上級IT幹部が50%を占めた。この回答者群の2013年の実際の昇給率も5%だった。
この先1年の報酬について、なぜこれほど楽天的なのか? 「そのくらい報酬は受けて当然だからだ」と、数名の上級IT幹部は語る。上級IT幹部に課された責任は「事業の目標や成果の達成に寄与すること」であって、単に「事業を継続させること」ではない。つまり、投資対効果(ROI)が重要となる。ITは「ビジネスプロセスを最適化するだけでなく、ビジネスモデルを変革する手段」であり、「顧客サービスを改善するだけでなく、これまでにない新しい方法を顧客に提供する手段」だというのだ。そしてITは、IT部門の従来顧客(つまり従業員)の役に立つだけでなく、最高経営責任者(CEO)やあらゆる事業部門が仕えるべき相手(つまり社外の顧客)の役に立たなければならない。
確かに、「自身のポジションの主な成功基準」を尋ねた質問では、54%の上級IT幹部が「ITサービスの信頼性を確保すること」(当然のことながら)を挙げる一方で、「期待されている事業目標や成果の達成に貢献すること」を挙げた回答者も47%にのぼった。
グローバル製造企業のIT責任者を務めるマーク・ランデス氏は、次のように語る。「私の役割は、事業部門が何を望んでいるかを解釈することであり、他と違うだけでなくより良い方法で物事を進めるためのツールを見つけることだ」
ランデス氏は18種類のシステムを1つのERPシステムに統合する取り組みも進めている。ビジネス上の決定を下すのに使用されるリポート向けに、社内のビジネスインテリジェンス(BI)システムから「真のデータ」を1つだけ取り出せるようにすることが目標だ。さらにランデス氏は、よく知られているがコストが掛かるSaaS(Software as a Service)型CRMシステムの利用を打ち切り、新しいERPシステムと接続しやすくビジネスパートナーにも対応できるシステムに置き換える計画という。
データ管理とスピードが重要に
「会社が2014年にITプロジェクトの成果として期待しているビジネス価値」を尋ねた質問では、「業務効率化」を挙げた上級IT幹部が58%と最も多く、「従業員の生産性向上」(43%)と「顧客サービスの改善」(36%)がそれに続いた。
こうしたビジネス価値については、大手金融サービス企業の上級IT責任者を務めるナイミッシュ・シャー氏もよく理解している。シャー氏の2014年の任務は何よりもまず、「従業員が仕事に用いるデータの質を高めること」と「会社の収益アップに役立つビジネスプラットフォームを構築し、その上で顧客に新規のサービスを生み出すこと」だという。
シャー氏は、2014年に優先的に取り組むプロジェクトとして以下の項目を挙げる。
- プラットフォームを整理統合し、プラットフォームの管理を外部の専門業者に委託するなどして、データを整理する
- システムの整理統合とデータクレンジングによって、新製品や新サービスをより速やかに投入する
- 複雑さを減らし、システムに柔軟性を持たせる。
「システムの複雑さを軽減すれば、提供する製品やサービスにより速やかに微調整を加えられる。変更管理の要求があれば、その都度、敏速に対応できる。こうしたプロジェクトのおかげで、統合すべきシステムが減り、合併吸収への対応も強化できる」と、シャー氏は語る。
ジム・コール氏は2年前、IT責任者としてITサービスプロバイダーに入社し、金融サービス業界の顧客を持つ800人のITプロフェッショナルを統括する立場に就いた。かつて同氏は、BIからモバイルまで各種のITプロジェクトでプログラミングに携わっていた。新しいポジションの職務は、それまでのプログラマーの仕事とは懸け離れている。コール氏はどのようにして、指示を受ける立場から与える立場へと飛躍できたのだろうか。
「まず、実際の開発よりも、事業目標の達成への貢献に注力し、ITサービスで確実にビジネスをサポートすることに集中した。IT管理の観点からすれば、主導権を握っているのは事業部門の方だ」と、コール氏は語る。
「事業部門の人間は、ITに多くのコストが費やされていると考えており、ITによるビジネス価値がもっと速やかに実現されることを望んでいる。どのベンダーの技術を使うにせよ、技術は既にそこにある。今重要なのは、より速やかにその技術を強化することだ」と、コール氏は語る。
コール氏をはじめ、肩書に“C”が付くレベルの幹部らが共通して口にしているのは、「機敏性と反復」というキーワードだ。必要なものを事業部門に大まかに定義してもらい、IT部門がプロジェクトの各種の要素を週1回のペースで提供するといったやり方だ。「事業部門と何度も意見をやりとりした上で変更を繰り返していく。大切なのは、大規模な長期プロジェクトにおいて全てを一度に完璧するのではなく、プロジェクトの要素の1つ1つをより速やかに完璧にすることだ」と、コール氏は語る。
グローバル製造企業でIT責任者を務める前出ランデス氏も、新しいERPシステムの展開にアジャイル開発の手法を用いている。ランデス氏は現在の勤務先企業がとあるプロジェクトのために雇った戦略的コンサルティング会社の出身だけあって、ビジネス手法に詳しい。また同氏は、事業支援に必要な技術について、独断にとらわれない興味深い見解を持っている。
「特定の技術に執着しているIT従事者を大勢知っているが、私は特定のシステムに対するこだわりはない。市場やビジネスの要因が変化し、業務ニーズにより良く合致するものが出てきたのなら、業務改善のために実装から半年でシステムを切り替えることになったとしても、私は何とも思わない」と、ランデス氏は語る。
ランデス氏は2014年、ERPシステムの実装に向けて、8週間で展開する反復的なスケジュールを開始する。「完璧である必要はない。いずれにせよ、幾つかやり直す必要が出てくるケースがほとんどだからだ。途中で修正を加えながら、より小さなマイルストーンの達成を積み重ねていくという考え方だ」と、同氏は語る。
人を動かせるリーダーになる
前出のランデス氏とコール氏、シャー氏の年収(給与+賞与)はそれぞれ、同業他社のIT幹部の平均年収と一致している。調査では、「非IT製造業」の上級IT幹部の平均年収は15万ドル、「ITコンサルティング業」は16万2000ドル、「金融サービス」も約15万ドルとなっている。IT幹部の年収が最も高い業界は、平均が19万7000ドルの「法律/保険/不動産」セクタだった。
調査では、上級IT幹部の「仕事の満足度」や「キャリアパス」とお金の関係も確認できた。キャリアと昇給には、IT幹部自らの行動だけでなく、部下の行動(あるいは怠慢)にも影響していることが示された。
コール氏は、ワークライフバランスと柔軟な勤務形態が従業員にとってモチベーションとなることに気付いている。「残業した翌日は遅くに出社できたり、在宅勤務を選べたりといったことだ」と、同氏は語る。
柔軟な勤務形態は、最近の大卒者も重視している。だがコール氏によれば、若い世代の離職を回避する確実な方法はなかなかないという。「若い世代は仕事にやりがいを求めている。以前、“人々からお金を取る大手銀行のためのプログラムは作りたくない”と言ってきた大卒者がいたが、この若者は結局、牧師になると言って会社を辞めていった。これは極端な例だが、この世代の若者の多くにとって、“お金”は“やりがいのある仕事”ほど大きな動機付けにはならないようだ」と、コール氏は語る。
さらにこの世代は、評価をありがたがる。「うまくいった仕事に対し、表彰したり壁に写真を掲示したりして評価するのは非常に効果的だ」と、コール氏は語る。「若い世代にとっては、周囲に認められることが動機付けになる。われわれはこうしたこと全てのバランスを取ろうと努力している。ただし市場の競争は過熱しており、全てのニーズにバランスよく対応するのはますます難しくなっている」と、同氏は続ける。
前出ランデス氏は、若手ITスタッフのワークライフを改善するための策を幾つか講じている。「私が加わる以前は、IT部門の従業員は皆、自分のことを“与えられた仕事をこなすだけの存在”と感じていた。選択したり提案したりする権限は誰にも与えられていなかった」と、ランデス氏は語る。同氏がまず実行したのは、「IT部門の人間は会社のためのソリューションを構築している」という意識を広めるために、IT部門のメンバーを「ITスタッフ」ではなく「ソリューションエンジニア」と呼ぶようにしたことだ。次に同氏は、その役割を遂行するための手段を与えた。「今では各自が社内のいろいろな人間と話をして、新製品や新機能がどのように役立つかを説明するようになった。スタッフには意思決定の権限を与える必要がある。間違った選択をしたときには、それが学習体験になる」と、ランデス氏は語る。
では、上級IT幹部が現在の勤務先にとどまる動機付けとなっているものは何か? 上位3つに挙がったのは、「技術革新が奨励されているから」「事業が上向きだから」「経営陣が優秀だから」という理由だ。逆に「昇進が限定されている」「経営陣が無能」「IT予算の削減が続いている」といった場合に、上級IT幹部は退職を考え始めるようだ。
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