「地域医療再生シンポジウム」リポート(2)
ICT活用で復興と地域医療の活性化を目指す「釜石二次医療圏」
東日本大震災で大きな被害を受けた地域の1つである釜石市。震災からの復興と医療資源の有効活用を目的としてICT活用を進めている。同地域の基幹病院である岩手県立釜石病院の院長の声を紹介する。
前回記事の「被災地・岩手県から提言、日本の医療崩壊を回避する「地域医療基本法」とは?」に続き、岩手県が2014年2月15日に開催した「地域医療再生シンポジウム ~岩手の今、日本の明日~」の講演内容を紹介する。今回は、岩手県立釜石病院の遠藤秀彦院長の講演「被災地における医療の現状と課題、今後の取り組み」で語られた被災地の医療機関の活動状況、地域医療の課題に向けた提言などを取り上げる。
2011年4月に耐震補強工事を行う予定だった県立釜石病院
東日本大震災で大きな被害を受けた地域の1つである釜石市。岩手県の南東部に位置する同市は、1858年に日本初となる商用高炉を建設するなど「近代製鉄発祥の地」といわれる。製鉄業を中心に繁栄して最盛期(1950年代)には人口が約10万人となったが、高炉休止に伴い人口が減少し続けている。東日本大震災の影響もあり、人口は約3万6000人、65歳以上の高齢者が占める割合(高齢化率)は34%となっている(2013年12月時点)。「釜石地域は全国に先駆けて高齢化が進んでいる」(遠藤氏)
県立釜石病院は、釜石市と大槌町を含む二次医療圏「釜石医療圏」(医療人口5万5000人)の広域基幹病院として救急医療を担当し、災害拠点病院・研修指定病院にも指定されている。一般病床数は272床、1年間で救急搬送件数は1500件。2007年から大津波を想定した災害医療訓練を実施しており、被災当時に築33年たっていた旧棟は耐震基準を満たしておらず、2011年4月に補強工事を行う1年がかりで予定だった。
東日本大震災で入院機能に制限が
地震発生後、県立釜石病院では直ちに災害対策本部設置して院内DMAT(災害派遣医療チーム)を待機させた。海岸線から約6キロ離れた場所にあり、入院患者205人、職員235人は全員無事であった。しかし地震による建物被害などで入院患者を制限する必要があった。エレベーターを使用できないためスロープを利用して入院患者を屋外へすぐに退避させた。インフラは水道のみが使用でき、その他は通信手段を含めて全て不通となった。そのため患者を旧棟(入院棟)に戻すことができず、廊下や待合室などに患者を寝かせることになる。雪がちらつく寒い日で余震が続く中、全職員による診療態勢で臨んだ。
地震発生当日は搬送される救急患者は少なかったが、徐々に患者が増え始める。県立釜石病院では、発生後から12日間で1038人にトリアージタッグを使用した救急対応を実施した。
「今すぐ処置や搬送の必要がない“緑”タッグが圧倒的に多く、一刻も早い処置が必要な“赤”タッグは少なかった。“黒”(死亡)タッグは1人しか運び込まれなかったが、それだけ白黒はっきりした状況であったことがうかがい知れる」(遠藤氏)
入院が必要になった外来患者を含めて、内陸の後方支援病院に救急ヘリや救急車などで対象患者を搬送した。その後、県立釜石病院は2011年8月中旬まで60床程度で運用を続け、同年10月に272床がフル稼働して震災前の状態まで回復したという。その後、2011年10月に産婦人科や小児科部門を改修し、2012年6月に放射線治療装置(リニアック)を稼働させるなど、診療機能を強化している。
釜石医療圏では6つ病院のうち3施設、18の診療所のうち13施設など、半数以上の医療機関が被害を受けた。現在も県立大槌病院が仮設診療所として稼働するなど、医療機関の復興は今も道半ばという状況だ。
震災からの復興と医療資源の有効活用を目指す
現在、釜石医療圏では「震災からの復興」に取り組んでいる。大槌町復興計画に基づき、被災した県立大槌病院の再建を2015年度内に完了する予定だ。しかし、「病院が再建しても、その場所で医療に従事する医師やスタッフの確保をどうするかが課題となっている」(遠藤氏)。また、地域内の病診連携を継続、発展させるためには被災した診療所が医療圏内で診療を継続してもらう必要がある。
岩手県全体が抱えている慢性的な医師不足を解消する必要もある。岩手県の人口10万人当たりの医師数は「189.6人」で全国40位となる(出典:厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師調査」2012年12月31日時点)。岩手県の9つの二次医療圏のうち、盛岡二次医療圏を除く8医療圏が全国平均を下回っている。釜石二次医療圏の人口10万人当たりの医師数は「150.9人」だ。
こうした状況を改善するため、釜石二次医療圏では少ない医療資源の有効活用に向けた施策に取り組んでいる。例えば、2007年には沿岸部にある4つの基幹病院の産婦人科医師の配置を変更して診療機能を集約。また、県立釜石病院は2010年に「総合診療科」を創設し、糖尿病サブスペシャル医師を育成し、救急医療や外科、小児科など専門診療科に携わる医師の負担を軽減できる体制の構築を進めている。
さらに、医師会や行政機関が一体となり、地域住民に対する理解を呼び掛ける活動も展開している。釜石医師会は、2003年に小冊子を発行するなど小児救急(受診行動・方法)の啓発活動を開始。県立釜石病院も2009年に病院の現状説明、救急受診の在り方を説明する啓発活動「県立釜石病院サポーターズ」を実施している。
釜石市は、医療・介護従事者が連携する地域包括ケアシステムの構築を支援するため、釜石医師会とともに在宅医療連携拠点事業を実施する部署として「在宅医療連携拠点チームかまいし」を設置している。こうした釜石医療圏の取り組みでは「ICTを駆使した医療情報の共有が鍵を握っている」(遠藤氏)。
2013年4月、釜石二次医療圏内の医療機関間で患者情報を共有する医療情報ネットワーク「OKはまゆりネット」が稼働した。地域医療再生計画の事業として釜石・大槌地域医療連携推進協議会が運営しており、病院6施設、診療所17施設が参画している(2014年1月時点)。県立釜石病院の診療支援システムや放射線画像症例、救急遠隔診断補助システムなどの患者情報を共有できるネットワーク基盤となっている。また、2012年から進められている「在宅医療連携拠点事業」では、在宅診療の現場で「iPad」を利用している。遠藤院長によると「将来的には2つの仕組みを連携させて、在宅医療と急性期医療を結び付けた情報連係を図る予定」だという。
被災地からの提言
「現場の医師の疲弊を減らし、良質で安全な医療提供をするためにどうすればいいか」――。遠藤院長は「医師の絶対数不足の解消」「医師の地域偏在・診療科偏在の解消」を法制度の見直しなどで進めるともに、「総合診療医の育成活用」「特定看護師の養成」などの人材育成の重要性を強調する。また、業務量の軽減のために、ICTを利用して医療・介護情報の共有を促進する必要があると説明する。「これらを実現するためには地方レベルでの対策には限界があり、国レベルで地域医療の再生を促進する“地域医療基本法”の制定が求められる」と強く訴えた。
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