遠隔医療を導入する2つの意義を解説
「トップダウンでの展開が普及促進の鍵」――遠隔医療のエキスパートに最新事情を聞いた
インターネットの広帯域化や映像技術の進化を背景に、遠隔医療への注目が高まりつつある。遠隔医療の導入メリットや課題は何か。米国遠隔医療協会の役員を務めたエキスパートが、米国の最新事情を交えながら解説する。
米Polycomのヘルスケア担当グローバルディレクター ロナルド・エマーソン氏は、ヘルスケア業界に17年以上携わり、世界最大規模を誇る「米国遠隔医療協会(American Telemedicine Association)」の理事会役員を務めた人物だ。
ATAは、薬事法に沿った診療報酬の制定など、遠隔医療に関わる方針や政策を取りまとめている。その他、標準規格の策定やガイドラインの作成・提供といった役割も担う。そうした役割の中でも「遠隔医療のコスト効果やメリットを示す調査報告やデータを提供することは、遠隔医療を推進する上で大変重要だ」とエマーソン氏は言う。
「特に民間の医療機関の場合、医療サービスの提供という社会的意義だけでなく、経営面のメリットも考慮しなければならない。同様に医師にとっても、外来患者への対応や遠隔診療などで得られるインセンティブに変化がなければ、積極的には遠隔医療を導入することもないだろう」
遠隔医療を導入する2つの意義
エマーソン氏は、遠隔医療の意義を2つ挙げる。
1つは、質の高い診療を受けられるアクセスポイントを増やせること。どこに住んでいても高度な医療を受診できれば、病態の悪化や慢性化を防ぐことができる。特に、日本では高齢化率(65歳以上の高齢者人口の総人口に対する割合)が25%になっており、高齢者を中心に移動困難者へのケアは重要な課題だ。「病状が悪化した場合に掛かる医療費は高額。重症化を防ぐ予防医療が展開できれば、そうした出費を抑えることにもつながる」
もう1つの意義は、専門医の生産性を向上させることだ。診療のために何時間もかけて往復することは診療の機会を減らし、生産性を低下させる。遠隔医療を導入すれば、医師の移動にかかる時間の無駄やコストをなくすことが可能だ。
民間は患者数の増大、公共は拠出金の低減のメリットも
先にエマーソン氏が言及した通り、医療機関を経営する上で利益の確保は重要な要素だ。「その点、遠隔医療は病院から遠い地域の患者を獲得する機会を作ってくれる」(同氏)。医療機関にどのようなメリットをもたらすのだろうか。具体的に民間の医療機関と公共の医療機関の場合で分けて考えてみよう。
多くの民間医療機関にとって、採血やMRI、CTスキャンといった検査料、入院費用などは主な収入源だ。来院患者数を適切に増やせば、その分収益も上がる。「遠隔医療を通じて、日常的に患者とのコミュニケーションを深められ、検査や入院が必要になったときに来院へと結び付けられる」
一方の公共医療機関の場合、診療機会を平等に提供し、病態の悪化や流行病のまん延などを防ぐことが可能となる。「重症化を防いで潜在的な入院患者数を減らすことができれば、政府の拠出金も抑えられる。患者のQOL(Quality Of Life)も改善できる」
遠隔医療では、その多くが画面越しに患者と対面する遠隔診療となる。日本では医療法の改正などで対面診療以外の医療行為も認められているが、やはり対面を重視する向きもある。特に、微細な感情を読み取る必要がある精神科などでは患者と面と向き合うことが重視されている。
これに対して、エマーソン氏は「これまでは、『Skype』によるビデオ通信で遠隔医療に取り組むところも多かったが、これだけでは十分な診断ができない。米国の医師会では、Skypeによる診断は不適切と公言しているほどだ」と明かす。米国での遠隔医療を促進しているのは、高画質・高品質なコミュニケーションシステムだという。
例えばPolycomでは、遠隔医療にも対応するHDテレプレゼンス/ビデオ会議製品群「Polycom RealPresenceシリーズ」(RealPresence)を提供している。医療機関でのPolycom RealPresenceの導入事例として最も多いのは、脳卒中治療や精神医療の分野だという。
「液晶画面の解像度や映像配信技術の進化は目まぐるしく、今や対面と変わらないレベルに到達している。実際、対面とビデオ越しの診断結果は、全く変わらないという比較研究の結果もある」(エマーソン氏)
遠隔医療におけるRealPresenceソリューションの有用性とは?
RealPresenceは、タブレットやスマートフォンなどのモバイル端末からデスクトップ、会議室までに至るさまざまな環境での映像コミュニケーションを支援する。また、話者の声や視線を自動で捉えてズームやパンを行うカメラなどのツールもそろえている。目線を合わせたコミュニケーションで、微細な感情も読み取れるという。
例えば、RealPresence製品群の1つであるビデオ会議ソリューション「Polycom RealPresence CloudAXIS」は、主要なWebブラウザを利用してビデオ会議が可能となる。WebブラウザとWebカメラを利用するユーザーでも、最大720p/30fpsの高画質を体験できるのが特徴だ。
さらに、同ソリューションはコミュニケーションだけでなく、医療装置との連係も可能だ。大手医療ベンダーとの協業により、聴診器やハンドヘルドカメラなどをプラグインとして使うことができる。加えて、米Microsoftのコミュニケーション基盤である「Microsoft Lync」「Microsoft SharePoint」「Microsoft Exchange」などとの親和性を高めている。
エマーソン氏は、Polycomでは品質を徹底的に追求し、対面式に限りなく近い環境を再現することが目標だと述べる。「世界保健機関(WHO)の調査によると、医療過誤の80%は、医療従事者間の意思疎通がうまくいっていない、記録や文書化がされていないといったコミュニケーション不足が原因という」。エマーソン氏は、RealPresenceソリューションはコミュニケーションやコラボレーションを改善し、ミスの低減を支援できるシステムと自信を見せる。
遠隔医療の普及にはトップダウンでの展開も重要
そのRealPresenceソリューションを導入した遠隔医療事例として、同氏はテキサス大学の医療機関を取り上げた。病院から刑務所まで、テキサス州全土に医療を提供する同機関は、年間診療数は14万件に上るという。
同事例で注目すべきポイントは、遠隔医療を事業戦略に組み込み、トップダウンで進めている点だ。「最新技術に明るい、新しいものが好きな医療従事者だけでは、広範な遠隔医療の展開はまず難しい」。そう述べるエマーソン氏は、日本で遠隔医療を普及させる場合も、こうしたトップダウン方式が必要なのではないかと予想した。
「遠隔医療を広めるには、まず地理的な格差を乗り越えて高品質な診療を提供するためのツールとして、トップの人間が遠隔医療の重要性を認識すること。もう1つは、医療従事者側のインセンティブを作ること。だが、これには日本全国を俯瞰する高い視点で遠隔医療を捉える必要がある」
RealPresenceソリューションの使用例で現在多いのは、医療教育向けシステムとビデオ会議などの業務システムだ。しかし、遠隔医療での導入も「特に民間医療機関にとっては市場開拓のカギとして認識され始めている」ことから、急速なペースで成長しているという。
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