BYODやBYOAでよみがえる“亡霊”
「ネットブック」が廃れて、「タブレット」が流行っているのはなぜか?
小型で軽量なモバイル端末として人気を博した低価格なネットブック。最近は全く話題に上がらなくなってしまったが、昨今のスマートデバイスや企業ITに多大な影響をもたらしたといえる。
ネットブックはかつて、モバイルワークを実現し、企業ITに革命をもたらすテクノロジーであると期待された。人々の記憶から次第に薄れゆく中、ITスタッフの脳裏にネットブックが亡霊のようによみがえることがある。
筆者は最近、とても丁寧に扱われた台湾ASUS製のノートブックをコーヒーショップで目にした。その光景を見て、2007年に米国産業全体に広がった驚くべき状況を懐かしく思い出した。当時、ネットブックは軽量小型で低価格、そして十分な性能を有することから、どこでも仕事環境を構築できる素晴らしい製品と思われていた。
ネットブックの亡霊
ASUSは、サブノートPCともいえるこの分野で、主流のコンシューマー市場に続く道を切り開いた。だが、ネットブックは、その登場と全く同じように突然、タブレットとスマートフォンに駆逐され、会社の物置へと追いやられることになった。
そこにはさまざまな要因があったとはいえ、ネットブックの亡霊は今も、企業とIT環境が変化する中で、形を変えながら進化を続けている。
9時から5時までの仕事にネットブックは不要
ネットブックに対する大きな期待の1つは、管理職や営業部隊、そして“バーチャル”ワーカーの機動力を大幅に向上させると考えられたことだった。どこでも好きな場所から仕事ができるようになれば、従業員の生産性は格段に上がるはずだった。
筆者は2006年、航空機・宇宙船を開発する米Lockheed Martinの金融サービス部門に特別プロジェクトの社内コンサルタントとして参加した際、メインマシンをノートPCと決めていた。上司のオフィスは別の州にあり、筆者自身もさまざまなプロジェクトに関与することになっていたので、どこでもコンピュータを使えることが必須条件だったのだ。
このように筆者がモバイルに関心を寄せていたとき、社内会議にノートPCを持ち込む同僚はまだほとんどいなかった。また、金融サービス担当スタッフの多くは部門ごとにグループ分けされ、デュアルスクリーンに表示された複雑なスプレッドシートを常に精査し、電話で長い時間話し込むことが日常だった。
今日、労働者の大半は特定の部門やビル、オフィスに配属される。彼らにモバイルは必要なく、ましてやネットブックなど全く不要だろう。ところが、コンサルタントのように日常的に出張する機会の多い人々にとって、ポータブル端末は必要不可欠であり、なくてはならないものなのである。
ネットブックを継承する新しいデバイス群
今日のタブレットとスマートフォンは、ネットブックよりも優れたバッテリー性能、ネットワーク機能、処理能力、接続性、アプリケーションを備えている。このように、いつでもすぐに使えるスマートデバイスが、デスクトップやノートPCに完全に取って代わるだろうか?
ほとんどの職業人は、スマートフォンを持ち歩くようになっても、それまで使い慣れたPCやMacを完全に捨て去ることはない。こうしたデバイスは、書類やスライドの作成、巨大で複雑なスプレッドシートの管理などに今も不可欠である。
例えば、病院や診療所を考えてみよう。そこでネットブックを見ることは、まずない。ほとんど全ての職員がタブレットやスマートフォンを使ってデータを記録し、グラフをチェックし、処方せんをプリントアウトし、同僚と連絡を取り合っている。ネットブックの衰退は部屋から部屋へ、オフィスからオフィスへと進み、その一方で生産性と効率性は向上していった。
ネットブックを覆うクラウドの影
タブレットとスマートフォンは、Web接続や多様なサービスとの連係によって、その機能性を実現している。従来型のクライアント/サーバモデルと同じだが、異なるのは大量のデバイスが接続している点だ。Wi-Fi、3G、4G、LTE、Bluetooth上で完全統合されたサーバシステムであり、これ以上のものはもう誰にも想像がつかないだろう。
代表的な例は、iPhoneの「Siri」やAndroidの「Google音声検索」である。デバイス上の小さなアプリがユーザーの声を認識する仕組みだ。ユーザーの言葉はクラウドで解釈され、デバイスは別のアプリを起動したり、電話をかけたり、テキストメッセージを作成したり、あるいはWebサイトに接続したりするなど、何らかのアクションを起こす。
加えて、クラウドの発達は、企業における文書やファイルの統合を可能にし、コラボレーションやバックアップを容易にした。「Googleドキュメント」などのサービスを利用すれば、ユーザーは自分のデバイスにコピーを置くことすら必要ない。
ネットブックはクラウド運用には向かわなかった。ネットブックは、タブレットやスマートフォンには標準装備される真の接続性を持たなかったからである。
BYODやBYOAはモバイルコンピューティングのさらなるステップ
BYOD(私物端末の業務利用)とBYOA(私物アプリの業務利用)の流れは、企業ITにおける最新勢力だ。自分の業務をこなすためのエンドポイントとプログラムを従業員自身が用意する。
こうしたBYODやITのコンシューマライゼーションにおいては、もはやいかなる秩序も維持することは困難だと、管理者は認識している。
1987年当時、筆者は個人で所有するノートPC(Toshiba T1100+)を、航空機メーカー米Martin Mariettaの仕事場に持ち込んでいた。UNIXサーバ群の外部シリアルコンソールとして利用していたのだ。それは筆者にとっても会社にとっても、それほど大げさなことではなかった。なぜなら、それらのサーバを管理していたのは筆者1人であり、もちろん自分のマシンにIPアドレスはなかったからである。
ところが今日、BYODやBYOAは企業に多くの課題をもたらしている。膨大な演算能力と接続性の裏で、さまざまな脅威を最小限に食い止めるための組織まで作られるようになった。各種の規制により、データの機密性を維持し、訴訟と分析に備えることも義務付けられている。
しかし、データに対する企業の責任はどこからどこまでなのか? そのデバイスとデータは、果たして誰のものだろう? われわれは、あの質素なネットブックの時代から、かなり長い道のりを歩いてきてしまったようだ。
ネットブックの亡霊が消え去ることはない
あらゆる技術的発展がそうであるように、ネットブックも新しい効率性と利益をもたらす可能性を秘めていた。しかし、必ずしもそうなるとは限らないのが現実だ。
ネットブックはコンピューティングの進化の中で、避けて通れない過程だった。ユビキタスな、接続されたコンピューティング環境が役に立ち、有益であることを、ネットブックは証明してくれた。ネットブックの亡霊は今後も、われわれのタブレットやスマートフォンの中で、さらには、いわゆる「モノのインターネット(Internet of Things:IoT)」の世界において、命脈を保ち続けることになるだろう。
本稿筆者のロバート・ライリー氏は、民間部門、スモールビジネス、IT系メディア企業を顧客とする独立コンサルタント・講演者。Linux、オープンソース、IoT、DIY、企業動向、ITキャリア開発に関する分析や「ハウツー」記事を執筆するフリーライターでもある。
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