“ハイブリッドクラウド”は消えてなくなる?
「クラウド革命」はどこへ向かう? 3つの市場動向から占う
クラウドは、既存アプリケーションのホスティングオプションではない。アプリケーション開発の新しいアーキテクチャなのである。このクラウド革命は、企業のビジネスをどのように変えるのだろうか。
新しい技術は、ユーザー(特にアーリーアダプター)にとって、うたい文句は立派でも実力は未熟という心もとない代物だ。それでも多くの場合、極めて魅力的なビジネス効果が見込めると踏んだユーザーが、リスクを取っていち早く導入を進める。こうしたユーザーの動きによるサービスの在り方や価格への影響が、新技術の先行きを占う手掛かりになる。これまで常にそうだったように、このことはクラウドにも当てはまる。そうした手掛かりとなる3つの動向を読み取り、クラウド革命がどこへ向かうのかを見極めるときが来たようだ。
クラウド革命の先行きを占う3つの動向
1.IaaSの値下がり
ここ半年で最も重要な市場のシグナルは、IaaS(Infrastructure as a Service)の価格低下が続いていることだ。これは、クラウドプロバイダーが値下げによって事業を拡大しようとしていることを示している。クラウド利用者にとっては朗報だ。しかし、価格の横並び化に伴い、革新的な新興企業がIaaS市場に参入したり、そこで生き残ったりするのは非常に難しくなるだろう。
IaaS価格の低下が続く状況をどう見るか。それは良い知らせなのか、悪い知らせなのか。
2.IBMのサーバ事業の動向
もう1つの重要な手掛かりは、米IBMがx86サーバ事業の中国Lenovoへの売却を決断したことだ。IBMは、x86システムには先がないと考えているのではない。だが、x86システムの価格と利益率は圧迫され続けることが予想される。これは大手IT企業にとって看過できない事態だ。クラウドの観点からいえば、コモディティサーバは恩恵をもたらす。クラウドプロバイダーにとってコストの抑制につながるだけでなく、クラウドのコストと社内ITのコストを比較するユーザーにとってもコスト抑制につながるからだ。
IBMのx86サーバ事業売却という重要な動きを、クラウドの観点からどう見るか。
3.PaaSとSaaSの普及拡大
PaaS(Platform as a Service)とSaaS(Software as a Service)の普及が進んでいる他、“プラットフォームサービス”、つまり基盤のIaaSを拡充するWebサービスの市場も拡大している。
なぜユーザーは、クラウドの上位層を利用するようになってきているのか。なぜプロバイダーは、IaaSよりも上位のサービスに力を入れ、こうしたユーザーの動きを後押ししているのか。
これら3つの市場動向には、一見したところ、共通点はほとんどない。だが全体として見ると、それぞれの動きは、クラウドの普及のメカニズムが大きく変化している表れだ。そしてそれは、将来のクラウドが今とは違ったものになる前兆といえる。
IaaSの値下がりは、クラウドの導入は料金に全面的に左右されるということを、大手クラウドプロバイダーが認識していることを示唆している。現行のアプリケーションをクラウドでホストするという決定は、社内でホストするコストとクラウドでのコストの違いを根拠に行われる。クラウドを値下げする目的は、ユーザーにとってクラウドでホストすることが割に合うアプリケーションを増やすことだ。こうしたことからすると、少なくとも短期的には、クラウドによるコスト削減効果が大きくならなければ、クラウドの普及率の伸びは鈍化しそうだ。クラウドの単純な“仮想ホスティング”モデルは、既に活力を失いつつあるのだろう。
また、このモデルではもうけも出なくなってきた。料金を値下げすると、クラウドプロバイダーの既存顧客1社当たりの売上高は目減りする。これまで言われてきた説に反して、大手クラウドプロバイダーにとって、規模の経済性の効果はほとんど望めない。
IBMのx86サーバ市場からの撤退という決断は、x86サーバハードウェアが既にコモディティ化している中、基盤のクラウドインフラには、これ以上のコスト削減の余地がほとんどないことを示している。
これらの動きは全て、クラウドプロバイダーにとってビジネスにならないことを意味する。ユーザーを増やすには、値下げしなければならないからだ。クラウドプロバイダーは、基盤のIaaSを利用する顧客に他のクラウドサービスも販売することで、売り上げ向上を図ることになるだろう。IaaSの価格低下は、IaaSが「他のソフトウェアやサービスを購入してもらう目的でユーザーをクラウドストアに呼び込むための目玉サービス」という位置付けになるかもしれないことを示唆している。
IaaSよりも上位層のサービス
クラウドにおいて基盤のIaaSサービスから上の層へ向かうと、2つのことが起こる。第1に、上位層の新しいクラウドサービスは、ユーザーの自前のハードウェアやソフトウェアのコストを大幅に軽減する。第2に、ユーザーは、クラウドプロバイダーが設定する高めのサービス料金を、クラウドの導入目的を損なうことなく正当化できる。IaaSはユーザーの自前のハードウェアコストのみを軽減するが、PaaSはハードウェア、OS、ミドルウェアのコストを、SaaSはアプリケーション全体のコストを軽減する。
クラウドプロバイダーにとって、IaaSにとどまらず、上位層のサービスも手掛けることによる最も重要な影響は、ネイティブクラウドアプリケーション開発をサポートできるようになることだ。米Amazon Web Servicesの新しいWebサービスは明らかに、既存のコンテンツキャッシングアプリケーションやWebアクセラレーションアプリケーションのクラウドへの移行を後押しするようには設計されていない。実際、Amazonのクラウドで、こうしたアプリケーションが移行を経て運用されているケースはない。こうしたアプリケーションは、クラウド上でのみ効果的に構築、運用される。それらは、今はまだ限定的に使われている“ホステッドサーバコンソリデーション”アプリケーションから進化し、クラウドの未来をけん引するだろう。
Amazon、米Google、米Microsoftなどのクラウドプロバイダーに必要なのは、クラウド特有のサービスの販売先となる顧客基盤だ。IaaSを値下げすることで顧客基盤を維持し、クラウドならではの高価な新サービスの販売機会が拡大していくだろう。
クラウドサービスでより上位層のコンポーネントが使われるほど、そしてクラウドに特化したアプリケーションが増えれば増えるほど、将来のクラウドは現在のクラウドとは違ったものになるだろう。“ハイブリッドクラウド”の考え方はほとんどなくなりそうだ。先進的なオーケストレーションの考え方を採用したホスティングオプション間で、アジャイルコンポーネントを自由に動かせるようになるからだ。全てのクラウドがハイブリッドになる可能性がある。そうなると、ユーザーとプロバイダーは、共通のモデルを土台とする運用管理ツールを利用することになるだろう。
こうした展開を予想させる兆候は明らかだ。クラウドは、既存アプリケーションの新たなホスティングオプションではない。アプリケーション開発の新しいアーキテクチャなのである。開発者ツールにクラウドホスティングの次元が加われば、われわれのビジネスや、さらにはエンターテインメント用のアプリケーションやサービスの作り方は決定的に変わる。クラウド革命の支持者にとって最大の朗報は、今日われわれが目にしている価格競争やサービストレンドこそ、クラウドプロバイダー自身が「革命はすぐそこまで来ている」ことを信じている明らかな兆候だということだ。
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