「Windows 8」「VDI」は過大評価か
アナリストのIT市場予測を検証、あの先進技術は結局どうなった?
アナリストの予測や宣伝をうのみにすると、世のIT部門は皆、デスクトップを仮想化し、BYODを導入し、MDMソフトウェアを使っていると思いがちだ。だが、現実は違う。
市場調査会社は企業のIT導入について過大な予測を打ち出し、大手IT企業はそうした新技術に投資をして大々的に売り込みを掛ける。きらびやかなテクノロジーに企業は大金を投じるが、それはあっという間に輝きを失うことになる。
「それがテクノロジーサイクルだ」と語るは、フランスのソフトウェア会社、Norskaleの創業者でデスクトップ専門家のピエール・マーミニョン氏だ。
マーミニョン氏は、2014年7月に米国ボストンで開催されたカンファレンス「BriForum 2014」において、「Back to Reality: VDI, EMM, MDM and BYOD are overrated! Most desktops are physical for a reason」(現実に戻ろう:VDI、EMM、MDM、BYODは過大評価されている! 大多数は物理デスクトップのままの理由)と題したセッションの中で、VDI(仮想デスクトップインフラストラクチャ)とモバイルソフトウェアの市場形成に影響を及ぼした過去の予測を振り返り、IT予算の観点から見れば失敗ともいえる決断を促した例を列挙した。
「多くのベンダーがVDI(とモバイル端末管理)を大々的に持ち上げているが、現実に使われているのは物理デスクトップであり、それには理由がある」(マーミニョン氏)
例えば、米調査会社Gartnerは2012年に、「2017年までに企業の65%が会社保有端末利用者を対象にMDM(モバイル端末管理)ツールを導入する」と予測した。だが、約50人のセッション出席者にMDMを導入したかと質問したところ、手を挙げたのは数人だけだった。
その1人は、会社でMDMを導入したが、2500人中100人しかその技術を利用していないと話し、大多数のユーザーに適用されないテクノロジーに投資すべきでないというマーミニョン氏の主張に説得力を与えた。
「毎年、新しいテクノロジーが出てきては、ベンダー各社がそれを大々的にアピールし、高額で販売する。ところが、数年もすると、そのテクノロジーはいいところも含めて立ち消えになってしまう」(マーミニョン氏)
米ボストンに拠点を置くある出版社のIT管理者は、話題の最新テクノロジーを導入するように上層部から迫られると話し、従業員の大半には実際的でないということを上層部は考えようとしない、と語った。
問題は最高幹部だけではない。IT担当者も、個々のユーザーのニーズに目を向けるより、技術的な観点に偏りがちだ。この出版社では最近、「Box for Business」や「Office 365」などのクラウドサービスを導入した。その際に、IT管理者は、大多数のエンドユーザーにとってクラウドがどれほど大きな変更なのかを実感したという。
予測や宣伝に基づいたIT予算は立てるな
過大な市場予測とベンダーの誇大広告、そのどちらが先なのかは明確ではないものの、両者は持ちつ持たれつの関係にある。
VDIはまさにその一例だ。Gartnerは2007年8月、「Forecast for PC Virtualization」(PC仮想化予測)において、「2010年までに新規PC導入の全てが仮想化される」と予測したが、これは大きく外れた。
2008年10月になると、Gartnerは2009年の戦略的テクノロジーに関する報告書で、「多くの企業が野心的な導入計画を立てているものの、2010年までにホスト型仮想デスクトップを導入するのはターゲットユーザーの40%未満」と分析した。
パーソナライズ技術が仮想デスクトップの導入を促進すると期待されたため、ベンダー各社は関連事業を買収した、とマーミニョン氏はいう。米Citrixは2008年にドイツSepagoから当該技術を買収し、米VMwareは2010年に米RTO Softwareを買収した。だが、VDIへの大転換は起こらず、現時点での全デスクトップ市場における導入率はわずか3~5%とみられている。
デスクトップ仮想化に向いていない作業スタイルも存在する、とマーミニョン氏はいう。
「Wi-Fiのない環境で仕事をしなければならないユーザーは仮想化に依存できない。実際的に考える必要がある」(マーミニョン氏)
マーミニョン氏の顧客で米ニューヨークにある大手音楽会社ではVDIを検討した。だが、その会社で最も利用するアプリは「iTunes」と楽曲ストリーミングだったため、iTunesの同期の問題を理由にVDIを断念したという。
「必要なのは、それぞれの仕事に合ったツールだ。何社かの顧客は、VDIとシンクライアントに300~400万ドルを投じたものの、数週間もするとユーザーから『Windows XP』に戻してほしいと要望された。ユーザーに合っているかどうかも重要だ」とマーミニョン氏は語った。
それでも企業幹部はベンダーのマーケティングや市場予測に基づくIT投資を続けている。
Gartnerは2013年5月、「2017年までに企業の半数が従業員にBYOD(私物端末の業務利用)を義務付ける」と予測。この予測の基になっていたのは、同社のCIO(最高情報責任者)向けサービス「Gartner Executive Programs」に参加している世界のCIOを対象に実施した調査であり、その結果は「企業の38%が2016年までに従業員への端末支給を廃止」しようとしていることを示していた。「結論として、IT部門はBYODポリシーを策定してモバイル管理ソフトウェアに投資すべきということになり、ベンダーはそれを支援する手段を提供すべきということになった」とマーミニョン氏は説明する。そこで、VMwareは米Airwatchを買収。VMwareにとって過去最大規模の買収となった。
マーミニョン氏はGartnerを例に挙げたが、公正を期していえば、他の調査会社も同様の予測を発表しており、予測が当たるときもあれば外れるときもある。「問題は、それらの予測が往々にして企業の最高幹部への調査に基づいている点だ」とマーミニョン氏は語る。
「CIOに対する調査の結果が『Windows 8』のインタフェースにもつながった。エンドユーザーの必要とするものを知りたければ、エンドユーザーの声を聞かなければならない。分析結果を現実に照らし合わせる必要がある」(マーミニョン氏)
最近はウェアラブル端末に関する予測も行われている。Gartnerは2014年6月、「2017年までに全アプリ操作の50%がウェアラブル端末からの操作になる」と予測。また、そうしたアプリ操作はデスクトップ用アプリとモバイルアプリに分かれるが、その大半をモバイルアプリが占めるようになるという。Gartnerはこの予測に基づいて、IT幹部にモバイルアプリやウェアラブル端末で実行されるアプリからデータを収集活用するためのインフラに投資することを提案している。
だが、そのような投資をする前に、会社にはさまざまな職種の従業員がいること、その全員が同じテクノロジーを必要としているわけではないということを、IT意思決定者は思い出すべきだ。企業には、役員もいれば、現場の管理者やナレッジワーカー、業務担当者もいる。恐らく多くは一般業務を担当する従業員だろう。彼らは会社が管理するモバイル端末を必要としていない、あるいは求めてもいない可能性がある、とマーミニョン氏はいう。
「従業員が必要としているのは、自分の仕事を遂行するのに必要なアプリを使う手段だ」
現実には、携帯電話、タブレット、その他のモバイル端末は、コンテンツへのアクセスや電子メールの利用に最も適しており、ナレッジワーカー向けだ。コンテンツの作成には、今でも物理デスクトップが適している。PCは間もなく時代遅れになると予測されようとも、ユーザーにとって使いやすいのは物理デスクトップであり、それはまだこれからも利用され続けるだろう、とマーミニョン氏は語った。
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