Amazon Web Services CTO特別寄稿
IT導入の新世界・クラウドで主導権を握るのはユーザー
従来のオンプレミスによるIT導入は、ベンダー主導の導入プロセスで進められてきた。だが、クラウド登場で、ユーザーが主導権を持つ構図に変わったという。AWS CTOの寄稿記事を掲載する。
新年の始まりは、現在のビジネス手法や計画を見直して、会社にプラスの効果をもたらす賢明な変化について検討するのに良い時期です。あらゆる企業でこれまで最終収益を最も圧迫してきたコスト項目は、ITインフラストラクチャの設備投資と運用コストです。
企業は今こそ、これまでITインフラストラクチャの所有と維持管理に費やしてきたコスト、時間、労力などのリソースについて真剣に考慮し、それらが自社の中核をなす事業の差別化に意味のある貢献をしているかどうか厳しく問い直すべきです。それ以外に、ITインフラストラクチャと将来の必要要件を管理するより優れた方法があるでしょうか。
ITの旧世界
これまで、製品担当エンジニア、従業員、および開発者の時間の実に70%が、ITインフラストラクチャの調達、待機、セットアップ、および維持管理に費やされてきたと見積もられています。インフラストラクチャ関連の製品やホスティングサービスを調達するときに付きものの、長く退屈な見積もり依頼プロセスとベンダー管理も、膨大な時間とリソースを消費します。このようなビジネス手法はまさにITの旧世界です。
ITの旧世界は、何年にもわたって企業を既存のサプライヤーに縛り付ける多額の先行投資、高価な保守契約、および強制的なアップグレードを経験してきました。そのため、絶えず変化しているビジネス環境に、より適合する新しいテクノロジーに切り替える能力が制限されていました。どのベンダーに対しても、公表されている価格をそのまま支払う企業はほとんどないことは常識です。既存の契約の終了前に、企業のIT部門とベンダーとの間で価格と取引条件について活発な交渉が行われます。「さらなる値引き」のためにベンダーまたはホスティングサービスプロバイダーと長期契約を結ぶように、という圧力を経験することは、企業にとって珍しくありません。
旧世界では、ITが阻害要因の1つと見なされることがよくありました。例えば、ある事業部門がIT部門に対して、アイデアを検証したり何かの作業を実行したりするためにサーバを1台要求した場合、「それは不可能です」や「提供できるまで数カ月かかります」といった答えが返ってくることはよくありました。これでは創造力に悪影響を及ぼし、イノベーションの精神をくじいてしまいます。
CEO(最高経営責任者)、CFO(最高財務責任者)およびCIO(最高情報責任者)は株主に対して、既存の技術インフラストラクチャを綿密に見直し、それが本当に差別化され会社に価値を付加しているかどうかを確認する責任があります。長い契約期間中に、多大な費用と従業員の時間を費やすことになる可能性が高いためです。
ITの新世界 ~主導権を取り戻す
ITの新世界、クラウドコンピューティングに参加しましょう。クラウドコンピューティングは、ITに大きなプラスの変化をもたらした新しいパラダイムです。われわれは、個々の事業部門の構想に「No」という答えが返せなくなった事例を見てきました。クラウドベースのインフラストラクチャサービスには、新しいアイデアを試したり、会社の新境地を切り開くことを望む人々が簡単にアクセスできるからです。数十年に及ぶ古いビジネス手法と考え方から脱却して新世界に適応するために、ITにおける変化が主に事業単位で推進されています。
ITが新たなビジネス成功要因となる
IT部門は今では、革新を実現する部門と見なされることを望んでいます。クラウドは、差別化されていないインフラストラクチャの重労働からITリソースを解放し、革新を支援し、ビジネスにとって重要な活動に集中することを可能にします。
消費者指向になるIT
消費者向けビジネスの世界では多くの場合、消費者が望む価格とタイミングで提供可能な諸機能に基づいて、技術に関する決定が下されます。つまり、消費者こそがイニシアチブを持っています。新しい従業員や若いリーダーたちは、自らの技術リソースを自らが完全にコントロールできる世界からやって来て、企業のITを新世界に適合させます。変化に対応し続けるために、CIOが主導権を握り始めています。CIOは、何が欲しいか、いつ欲しいか、いくら支払うかを選択できるようになりたいと望んでいます。例えば、ライセンスモデルがベンダーではなくCIOの期待に添うことを要望するでしょう。
消費者の世界におけるアプリケーション体験の豊かさに影響されて、企業ITにも変化が起きています。クラウドは、より迅速なアプリケーション開発、サービスとモバイル機器とのより緊密な統合、消費者向けアプリケーションの成長を可能にしています。最終的に、消費者向けITと企業ITは融合し、新しいビジネス機会をたくさん提供することになるでしょう。そして、それらは主としてクラウドコンピューティングによって推進されるのです。
新しいライセンスモデル
今日クラウドコンピューティングが提供する柔軟性と価格構造の透明性は、変革をもたらしました。今こそ買い手を運転席に戻すべきです。新世界では、消費者は縛り付けられることを望みません。今日、クラウドサービスでは、誰もが複数のプラットフォーム、複数のプログラミング言語、複数のOSを通じて、透明な価格設定で任意の組み合わせのサービスにアクセスできます。柔軟性こそが消費者の求めるものです。企業はビジネスのニーズに基づいてクラウドの使用を自由に増減でき、実際に使用した分を支払うだけで済みます。
顧客が主導権を握る
新世界では、クラウドプロバイダーによって、顧客がクラウドに簡単に出入りできるようになっているため、顧客は各自のニーズに最も合うものを選択できます。つまり、ITの新世界では顧客に主導権があります。顧客は、望むものが得られないときには、それが機能、パフォーマンス、信頼性、またはサポートのいずれであっても、簡単に利用をやめることができます。
クラウドプロバイダーは、早期にクラウドを採用した顧客が、アイデアを迅速にテストし、変革を推進し、成功につながるアイデアを短期間で市場に送り出してビジネスを成長させてきたおかげで、良い結果を見てきました。アジア太平洋地域で早期にクラウドを採用した企業として、Amazon Web Services(AWS)を採用した次の3社を例として紹介します。
(1)インドの旅行会社の事例
インドに本拠を置く旅行会社であるRedBusは、自社のWebサイトと代理店およびパートナーのWebサービスを通じて、バスのチケットを販売しています。RedBusの共同創立者兼CTO(最高技術責任者)のCharan Padmaraju氏はこう語っています。「AWSを利用する前は、迅速な応答時間で顧客にサービスを提供することができませんでした。しかしAWSを利用するようになって、わが社の輸送量は50%以上増加しました。今では、SaaSモデル上でバスオペレーターのために複数の製品を起動できるようになりました。これは、融通性と拡張性を備えたクラウドプラットフォームでしかできないことです」。RedBusはこれまでに200万以上のバスチケットを販売し、100人以上のバスオペレーターが各自の業務のために、AWSクラウド上で開発され実行される「サービスとしてのソフトウェア」を使用しています。
(2)シンガポールのセキュリティ企業の事例
シンガポール発の企業Data Security Systems Solutions Pte Ltd(DS3)は、世界中の約60の銀行および組織に対して認証サーバを提供することによって、インターネットベースのビジネスセキュリティを実現します。DS3のCEOであるTan Teik Guan氏は次のように述べています。「認証は今日のビジネスの世界に不可欠なものであり、信頼性の高いAWSは認証を安全に提供してくれます。わが社がAWSを選んだのは、ツールを素早く配備できるのと、料金が従量制で使用した時間の分だけ支払えば済むので顧客が契約や毎月の定額料金に煩わされずに済むためです。AWSプラットフォームはDS3にとって、時間とコストの節約という形でより大きなビジネス価値を提供し、世界中の顧客を獲得するための大きなチャンスをくれます」
(3)世界的なデータモデリングコンテストを実施するオーストラリアのKaggleの事例
オーストラリアに本拠を置くKaggleは、世界的なデータモデリングコンテストを通じて、AWSクラウド上での統計、分析アウトソーシングを提供しています。この競技では、企業や研究者がデータセットと問題をアップロードし、それに対してデータ科学者が解決法を提出して賞を競います。「Kaggleのビジネスは旧世界のITモデルでは成り立ちません。大きなデータセットを採点するとき、AWSでは新しいサーバインスタンスを非常に迅速に起動できるため、障害シナリオを回避できます。これは、過去には非常に高価なものでした」
既にクラウドの利用に踏み出した世界中の多くの成功企業と同様に、国内企業も新しいダイナミックな世界で競争力を維持するために、クラウドのパワーをすぐにも利用し始める必要があるでしょう。
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