AWS エバンジェリスト ジェフ・バー氏インタビュー
オンプレミスからクラウド、過渡期における課題の解決
クラウドに関してセキュリティや既存システムとの連携など多くの課題が指摘されている。その解決策としてAWSはどのようなソリューションを提供しているのか? AWSのエバンジェリスト ジェフ・バー氏に話を聞いた。
「クラウドコンピューティング」と聞くと、ほんの少し前までは「まだまだ先の話」「はやりのバズワードにすぎないのでは?」と懐疑的な反応を示すユーザーも少なくなかったが、近年そうした状況は大きく変わりつつある。以前は「海外のベンダーが提供する先端的なサービス」という印象が強かったクラウドだが、2009年後半以降、国内の主要ベンダーが次々と独自のクラウドサービスの提供を開始した。
このクラウドコンピューティングの草分け的存在が、米Amazonの子会社であるAmazon Web Services社が提供するAmazon Web Services(以下、AWS)だ。AWSはさまざまなサービスで構成されるが、中でも「Amazon Elastic Compute Cloud」(以下、Amazon EC2)と「Amazon Simple Storage Service」(以下、Amazon S3)は、2006年にサービス提供が開始されて以来、IaaS(Infrastructure as a Service)の領域で高いシェアを占めている。
現在、クラウドに関してはコストやセキュリティ、あるいは既存システムとの連携などさまざまな課題が指摘されているが、その解決策としてAWSはどのようなソリューションを提供しているのだろうか? そして、AWSが描く未来のクラウド像とはどのようなものなのだろうか? ノークリサーチのシニアアナリスト 岩上由高氏が、AWSのシニアWebサービスエバンジェリストを務めるジェフ・バー(Jeff Barr)氏に話を聞いた。
オンプレミスからクラウドへの過渡期における課題
岩上氏(以下、岩上) 米Amazonは今や世界最大のEコマース企業としてだけでなく、パブリッククラウドのサービスプロバイダーとしても広く知られています。さらに近年では、「Amazon Virtual Private Cloud」(以下、Amazon VPC)のようなプライベートクラウド関連の技術も提供していますね。
バー氏(以下、バー) そうですね。AWSでは非常に幅広いサービスポートフォリオを持っています。その中核にあるのがAmazon EC2で、その周囲をAmazon S3、「Amazon Relational Database Service」(以下、Amazon RDS)、「Amazon CloudFront」など、ほかのサービスが取り囲む形になっています。Amazon VPCもそうしたサービスの1つですが、これは企業の社内ネットワークとAWSのクラウド間をVPNで接続するもので、社内ネットワークで使っていたプライベートIPアドレスをクラウド内のAmazon EC2のインスタンスでも利用できるようになります。これによって、パブリッククラウドが持つコスト面やスケーラビリティ面でのメリットを享受しながら、同時にインスタンスをインターネットから分離し、社内ネットワークからのみアクセス可能にします。
岩上 なるほど。次にお聞きしたいのは、オンプレミスとクラウドが混在するハイブリッド環境についてです。恐らくほとんどの企業は、すべてのシステムをクラウド上に置くのではなく、一部をオンプレミスで運用するハイブリッドクラウド環境を採用するのではないかと考えます。こうした運用を前提として、例えばマイクロソフトではSOA(サービス指向アーキテクチャ)技術を応用して既存システムとクラウドを連携させる「Windows Azure Platform AppFabric」というサービスを打ち出しています。
バー われわれの顧客企業の中にも実際、SOAのエンタープライズサービスバスを使って社内ネットワークのサービスとAWSのクラウド上のサービスを連携させたり、データレプリケーションを使って社内システムのデータベースとクラウド上のデータベースを同期させている事例があります。また、Tバイト級の大容量データをクラウド上に転送する場合には、「AWS Import/Export」というサービスを利用することもできます。これは、データを格納したストレージデバイスをAWSのデータセンターに郵送してもらい、データを直接クラウド上のストレージにコピーするというものです。このように、既存システムとクラウドを連携させるための方法は何通りか用意されています。
岩上 ちなみにクラウドへの移行でよく問題視されるのが、データの安全性です。多くの企業では自社データを社外、あるいは国外へ持ち出すことを禁じていますが、すべての国にAWSのデータセンターを設置するのは現実的ではないでしょう。こうした問題を解決するために、個人データを無意味なトークンに変換し、個人データとトークンのペアをローカルに保存した上でトークンと残りのデータをデータセンターに格納する「トークナイゼーション」といったソリューションが他社からは出てきていますが、AWSではどのような取り組みがなされているのでしょうか?
バー セキュリティは極めて重要な課題で、われわれも常に顧客から質問を受けます。わたしたちはEコマースビジネスの長い経験の中で、大量の顧客データとクレジットカードデータを安全に運用するノウハウを蓄積しており、それがそのままAWSに反映されています。また米国では、医療情報のセキュリティ基準を定めたHIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act)という法律がありますが、これに準拠したアプリケーションがAWSのクラウド上で運用されている事例も数多くあります。実際に使われているセキュリティ技術は、暗号化や先ほど例に挙がったトークン技術などですが、こうした具体的なセキュリティプロセスを解説したホワイトペーパーも提供しています。
クラウドの現在のトレンドと「今すぐ」できること
岩上 MySQLを使ったAmazon RDSサービスの提供開始や、米VMwareによるSpring Sourceの買収などは、個人的にはIaaS業者がPaaS(Platform as a Service)の領域へ近づきつつある動きだと理解しています。こうしたPaaS化の流れの背景には、「ミドルウェアの範囲までカバーしてほしい」というユーザーや開発者のニーズがあると思うのですが。
バー そういったトレンドは確かにあると思います。開発者は、アプリケーションの機能の開発に専念したいのであって、開発環境をセットアップするためのもろもろの複雑な作業は避けたいと考えます。そこで例えばAmazon RDSを使えば、データベース周りの環境をセットアップする作業を大幅に効率化できます。開発環境はあらかじめパッケージとして作成して、後はそれをAWSのクラウド上で展開するのみです。
岩上 日本の多くのユーザーや開発者は、クラウドコンピューティングに大きな期待を寄せています。彼らがクラウドについて学んだり実際に導入するに当たっては、具体的に何から始めるのが適切だと思いますか?
バー 事前調査も大切かもしれませんが、とにかく実際にAWSのクラウドサービスを試してみることをお勧めします。コストも大して掛かりませんし、今すぐ手軽に試してみることができます。また、もし分からないことがあれば、AWSのユーザー会「AWS User Group Japan」(JAWS)に質問することもできます。
本稿では、バー氏と岩上氏による対談内容の一部のみを抜粋して紹介した。より詳しい内容を知りたい方は、「ITmedia Virtual EXPO 2010」の「Amazon.comのエバンジェリストが語る、クラウド移行の課題と現実解」にて対談の模様が動画で紹介されているので、ぜひ参照されたい(ITmedia Virtual EXPO 2010は閉幕いたしました)。
岩上由高
ノークリサーチ シニアアナリスト
ソフトウェアベンダー数社でソフトウェア製品の企画、設計、開発、コンサルティング、トレーニングなどに携わった後、ノークリサーチに入社。シニアアナリストとしてITのさまざまな領域の調査・分析に従事し、その成果を記事執筆やコンサルティング活動を通じて積極的に発信している。
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