SaaSを効果的に活用する2つの視点、「GUIなし」と「業務支援」中堅・中小企業が効率的に競争力を得るためのヒント

「SaaSには興味があるが、どのようなサービスを選択すればよいのか分からない」。そんな中堅・中小企業のために、SaaSを効果的に活用するための2つの視点を紹介する。

2010年09月03日 08時00分 公開
[岩上由高,ノークリサーチ]

 SaaS(Software as a Service)という言葉が登場してから早くも4年ほどの歳月が流れたが、IT関連のニュースでは現在でも、ほぼ毎日といってよいほどSaaS関連の記事を目にする。しかし、ユーザー企業におけるSaaS活用は、中堅・中小企業を含めたすそ野にまで広く普及したとはまだいえない状況だ。「SaaSには興味があるが、具体的にどのようなサービスを選択すればよいのか分からない」というユーザー企業は多い。そこで本稿では、ユーザー企業に対して実施した調査結果とSaaSを提供するサービス事業者の最新動向を基に、ユーザー企業がSaaSを効果的に活用するために役立つ2つのポイントを解説していく。

「GUIのないSaaS」とは何か?

 1つ目のポイントは「GUI(Graphical User Interface)のないSaaS」である。聞き慣れない言葉だと思うので、以下で順を追って解説していく。まずは下図を見てほしい。これは年商500億円未満の中堅・中小企業に対し、「SaaSを活用する可能性が最も高いシステム」を尋ねた結果である。

画像 SaaSを活用する可能性が最も高いシステム(出典:ノークリサーチ「2010年版SaaS/クラウド市場の実態と中期予測レポート」)《クリックで拡大》

 上図の選択肢のうち、「基幹系」「情報系」「顧客管理系」はユーザーがデータを一覧したり、データを入力したりといったGUIを持っている。一方で、「セキュリティ系」「運用管理系」「データ保存系」はシステム管理者が設定などを行う画面はあるものの、ユーザーがGUIを通して日々の業務運用を行うわけではない。そこで、前者を「GUIのあるSaaS」、後者を「GUIのないSaaS」とカテゴリ分けする。すると、現段階では「GUIのあるSaaS」の方がユーザー企業の活用意向が高いことがグラフから読み取れる。

 ここで、もう1つ調査データを見てみよう。以下のグラフは年商5億円以上〜500億円未満の中堅・中小企業に対し、「2010年も投資を継続する項目とその理由」を尋ねた結果である。

画像 2010年も投資を継続する項目とその理由(出典:ノークリサーチ「2010年版 中堅・中小企業におけるIT投資の実態と展望レポート」)。先のグラフとの対応付けは「会計」「購買/販売」が「基幹系」、「グループウェア」「メール」が「情報系」、「クライアントPC管理」が「運用管理系」、「バックアップ管理」が「データ保存系」、「セキュリティ管理」が「セキュリティ系」となる《クリックで拡大》

 注目すべきは、「クライアントPC管理」「バックアップ管理」「セキュリティ管理」は「自社の業績には寄与しないが、企業が存続する上で継続投資が必要だから」という回答比率がほかよりも高いということである。つまり、これら3つはユーザー企業にとって「負担ではあるが、止めることはできない投資」という側面を持っていることになる。

 これら3つをSaaSに置き換えると、先に説明した「GUIのないSaaS」とまさに一致する。もし、ユーザー企業にとって負担となっているこれらの業務をSaaSの形で外部に任せることができれば理想的だ。実は、以下の表が示すように「GUIのあるSaaS」と比べると、「GUIのないSaaS」はSaaSへの移行が比較的容易であるという特徴を持っている。

SaaSをGUIの有無でカテゴリ分けした場合の属性比較
  カスタマイズの必要度 システム連携の必要度 データ秘匿性
GUIのあるSaaS 低〜高
(特に基幹系では高い)
低〜高
(データ連携やシングルサインオンなど)
低〜高
(給与やCRMなどには個人情報が含まれる)
GUIのないSaaS ほとんどない ほとんどない
(ログデータだけでは個人の特定は難しい)
出典:ノークリサーチ「2010年版SaaS/クラウド市場の実態と中期予測レポート」

 ユーザー企業が活用の意向を示しているのは「GUIのあるSaaS」だが、上表が示すようにカスタマイズ、システム連携、データ秘匿性といったクリアすべき課題が存在する。一方で、「GUIのないSaaS」は「セキュリティ系」「運用管理系」「データ保存系」といったユーザー企業にとって負担となるシステム関連業務を比較的スムーズに外部に任せることができる。

 SaaSというと「GUIのあるSaaS」ばかりをイメージしてしまいがちだが、こうした「GUIのないSaaS」にも目を向けると、中堅・中小企業にとっても無理のないSaaS活用の選択肢がずっと広がってくるのである。

 以下では「GUIのないSaaS」の具体例を列挙する。ほかにもさまざまなサービスが提供されている。「ウチの社内システムの面倒を見てくれるようなサービスなんてあるはずがない」と決めつけてしまわずに、負担となっているシステム関連業務を任せられるサービスがないか一度探してみるとよいだろう。

GUIのないSaaSの例
  用途 製品名 ベンダー
セキュリティ系 アンチウイルス/アンチスパム メールセキュリティon-Demand 日立情報システムズ
OPTPlus ASP ネオジャパン
クライアントPC操作監視 InfoTrace-OnDemand ソリトンシステムズ
PC監視 綜合警備保障
運用管理系 サーバ運用管理 パトロールクラリスCloud コムスクウェア
Nubium Sentinel ハウインターナショナル
クライアントPC資産管理&運用管理 siteROCK Client Care サイトロック
PCリモート管理サービス KDDI
データ保存系 メールアーカイブ Message Archiver ネットワンシステムズ
メール監査アーカイブサービス NTTコミュニケーションズ
クライアントPCデータバックアップ PCデータ保存サービス NECビッグローブ
安心バックアップサービス 日立電子サービス

実はたくさんある「業務支援サービス」

 2つ目のポイントは「業務支援」である。これ自体はかなり一般的な言葉だ。

 SaaSに限らずIT活用を検討する際は、業務とシステムとを1対1でひも付けてしまいがちだ。例えば、会計業務であれば会計システム、在庫管理業務は在庫管理システムといった具合だ。その結果、自社の業務を基点として考えているつもりでも、いつの間にかシステムの単位で業務をとらえてしまうことになる。こうしたシステム基点の思考パターンの最大の弊害は、「現時点でシステム化されていない業務が、そもそもの検討対象から外れてしまう」ということだ。このことはSaaS活用にも当てはまる。本当はSaaSを活用すれば効率化やコスト削減が図れるのに、まったく検討対象になっていない業務が少なからず存在する。

 こうしたシステム化の対象から外れてしまいがちな業務の効率化やコスト削減を支援する「業務支援サービス」系のSaaSも実はたくさんある。法制度への対応はその良い例だろう。中堅・中小企業であっても、業界や業種によって準拠が必須の法令は多々ある。法制度というと、システムというよりは人手によって対応するというイメージを持ってしまいがちだが、実際には法制度対応に伴うさまざまな事務処理を支援するサービスが提供されている。以下にその例を挙げてみる。

法制度対応支援サービスの一例
用途 製品名 ベンダー
改正省エネ法への対応 エナジー・カルク Rel2 OSK
廃棄物処理法への対応 e-廃棄物管理 アミタエコブレーン

 基幹系、情報系、顧客管理系といった社内で利用する業務システムだけでなく、こうした法制度への対応業務を支援するサービスも広い観点ではSaaSの一種なのである。

 業種を絞るとSaaSの適用範囲はさらに広がってくる。例えばビル警備会社を考えてみよう。ビル警備会社にとっては各ビルに派遣している警備員がきちんと配置についているかを把握することがとても重要だ。そこで、GPS機能搭載携帯電話を警備員に持たせてサーバ側と通信させることで、警備員の現在位置把握、現地からの報告リポート授受といったリアルタイムでの業務把握が可能となる。ここでサーバ側に必要なもろもろの設備や仕組みをサービスとして提供すれば、ビル警備会社の業務を支援するSaaSが出来上がる。こうした実例は既に存在しており、OKIネットワークスの「モビルカG」はその代表例だ。

 この発想は訪問介護サービスや宅配サービスなどにも応用できるだろう。システム基点のとらえ方からいったん離れ、「自社の業務を改善できないか?」という視点で眺めてみると、自社の要件にマッチする業務支援系のSaaSを見つけられるかもしれない。

SaaSは既存業務システムを外に預けるためだけの手段ではない

画像 SaaSを活用できる領域はユーザー企業の認識以上に広い(出典:ノークリサーチ「2010 年版SaaS/クラウド市場の実態と中期予測レポート」)

 このようにSaaSが活用できる領域は現時点でユーザー企業が認識しているよりも実際にはかなり広いことが分かる。「GUIあり」かつ「システム化済み」の領域だけでなく、「GUIなし」や「システム化されていない業務の支援」にまで視点を広げることで、自社が必要とするSaaS活用を見つけられる可能性が高まってくる。本稿がその一助となれば、幸いである。

 また、現在事前登録を受け付けているアイティメディア主催のバーチャルイベント「ITmedia Virtual EXPO 2010」では、「『様子見』は是か非か? 真のコストで見極めるクラウド/SaaS活用」と題した筆者セッションを予定している。クラウド/SaaSの活用を考える企業のために、ユーザー企業への調査を基にコストにスポットを当てて導入の考え方を解説したいと思うので、ぜひご覧になってほしい。

ITmedia Virtual EXPO 2010 (9/7〜9/21)

【クラウド&SaaS】パビリオンでは、IT資源のサービス利用を本格的に検討する中堅・中小企業ユーザーの方々が、「安心して利用できるIT」へのヒントをつかむお手伝いをします。本稿執筆者であるノークリサーチ シニアアナリスト岩上由高氏によるコストバランスにスポットを当てたSaaS活用を解説する特別講演や、米国 Amazon Web ServicesのシニアWebサービスエバンジェリスト ジェフ・バー氏へのインタビュー動画の掲載を予定しています。Webキャストの視聴登録はこちら


岩上由高

ノークリサーチ シニアアナリスト

ソフトウェアベンダー数社でソフトウェア製品の企画、設計、開発、コンサルティング、トレーニングなどに携わった後、ノークリサーチに入社。シニアアナリストとしてITのさまざまな領域の調査・分析に従事し、その成果を記事執筆やコンサルティング活動を通じて積極的に発信している。


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