「運用管理系こそSaaS移行へ」は正しいか?SMBのためのSaaS利用術【第5回】

自社努力では管理負担を軽減しにくい運用管理系システムは、システム特性上SaaSとの親和性が高いといえる。だがこの場合、SaaS移行することだけが最適解になるとは限らない。なぜだろうか?

2009年11月19日 08時00分 公開
[岩上由高,ノークリサーチ]

 中堅・中小企業のSaaS活用ポイントを紹介する本連載。今回は「運用管理系システム」について取り上げる。サーバの稼働監視、クライアントPCの資産管理、メールのスパムウイルス対策などがこれに該当する。情報システムの運用管理業務を円滑かつ安全に進めるための仕組みである。これまでと同様に、まずは運用管理系システムの「業務システム特性」を見てみよう。

運用管理系システムの業務システム特性別レベル
業務特性 レベル
初期導入コスト
自社運用負担度
カスタマイズ度
データ連携度
データ秘匿度
出典:ノークリサーチ(2009年)

初期導入コスト:

 最近では手軽に導入できる運用管理ソフトウェアが登場してきているが、運用管理業務の内容によって管理用サーバやアプライアンスを必要とするものもある。また、長期間にわたるログの保存・管理に必要なディスク容量やそれらを検索するための仕組みなどを整備することも考えると、初期導入コストは比較的高いといえる。

自社運用負担度:

 運用管理系システムは日々の管理業務をきちんと実行してこそ意味がある。不定期に発生するパッチの適用作業などに加え、サーバのログ確認やクライアントPC内にインストールされたアプリケーションの棚卸しといった作業が自動化されていないユーザー企業もあり、担当者の作業負担が重くなっていることも少なくない。

カスタマイズ度:

 運用管理業務は多岐にわたるが、内容そのものがユーザー企業によって大きく変わるわけではない。自社の実態に即した設定を行う必要はあるが、運用管理系システム自体をカスタマイズするケースは非常に少ないといえる。

データ連携度:

 運用管理系システムが取り扱うデータは「ログ」である。Webサイトのトレースなど、保存したログをフィードバックさせる業務システムもあるが、大半はファイル転送でカバーできる範囲である。基幹系システムなどと比べると、求められるデータ連携の難度はそれほど高くないと考えてよいだろう。

データ秘匿度:

 個人の特定につながる氏名や連絡先が直接格納されているほかの業務システムと比較すると、ログデータに記録されるのはユーザーのID情報や利用している機器の情報である。実際、年商5億〜500億円未満の中堅・中小企業に「いかなる場合も社外に置きたくないと考えるデータ」を尋ねてみた結果(表1)において、ログデータを社外に預けることに対するユーザー企業の抵抗感は比較的低い。ただし、これはあくまでほかとの比較での話であり、ログデータのセキュリティが重要ではないということではないので、その点は十分留意しておく必要がある。

表1●いかなる場合でも社外に置きたくないと考えるデータ
データの種類 割合
企業の財務会計データ 45.6%
顧客データ(取引担当者氏名、電話番号など) 44.1%
企業の受発注データ 34.4%
社員の給与データ 33.8%
社員が作成した文書(Microsoft Office文書など) 17.4%
社員のメールデータ 13.8%
情報システムのログデータ 13.3%
社員の勤怠データ 8.7%
社員のスケジュールデータ 7.7%
企業の社員教育用データ 4.1%
そのほか 4.1%
社外に預けたくないデータはない 3.6%
※n=195、複数回答可

 以上、運用管理システムの業務システム特性については、「初期導入コスト」「自社運用負担度」が高く、「カスタマイズ度」「データ連携度」「データ秘匿度」が低い。こうした業務システム特性を踏まえると、運用管理系システムはSaaS(Software as a Service)との親和性が高いということになる。

運用管理系システムは「GUIを持たないSaaS」の代表例

 図1のグラフは、年商5億〜500億円未満の中堅・中小企業に対し「今後SaaS形態での利用を検討したい業務システム」を尋ねた結果だ。運用管理系システムに該当するものが数多く挙げられていることが分かる。

図1 図1●今後SaaS形態での利用を検討したい業務システム

 SaaSというと、メールやグループウェアのように「社内に設置していた業務システムをインターネット越しに利用するもの」だけに注目してしまいがちだ。だが、運用管理系システムもSaaSとの親和性が高く、ユーザー側のニーズが高いという点で、SaaS活用の有力な選択肢の1つなのである。ノークリサーチでは個々の社員の目には見えにくいこの種のSaaS活用を「GUIを持たないSaaS」と呼んでいる。(実際は運用管理系システムのSaaSにおいてもログ閲覧/検索などのGUIを持っているが)今後のSaaS市場では、このGUIを持たないSaaSが重要なけん引役を果たすと予想される。

 運用管理系システムのSaaSに関する概要・適性がつかめたところで、実際のサービス例を見ていこう。

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