SAPは、オンプレミスインフラで自社製品を利用しているユーザーに向けて、クラウド移行支援プログラムを開始した。どのような支援を提供するのか。その狙いとは何か。
ERP(統合基幹業務システム)パッケージベンダーのSAPは2024年1月、オンプレミスインフラでSAP製品を利用するユーザー企業に、同社のクラウド型ERP「SAP S/4HANA Cloud」への移行を支援する「Rise with SAP Migration and Modernization」プログラムを発表した。Rise with SAP Migration and Modernizationはどのようなプログラムで、なぜSAPはこれによってクラウド移行を促すのか。
SAPによると、ユーザー企業はRise with SAP Migration and Modernizationによって、クラウドサービスへの移行コストの一部を最大50%削減できる可能性がある。SAPのERPパッケージである「SAP S/4HANA」や「SAP ERP Central Component」(ECC)を利用しているユーザー企業が対象だ。
これらのユーザー企業はクラウド移行支援サービス群「RISE with SAP」または移行支援ツール「Grow with SAP」を利用することで、Rise with SAP Migration and Modernizationを通してメンテナンスやサスクリプションなどの費用の一部をSAPから受け取ることができる。
Rise with SAP Migration and Modernizationを利用してクラウドサービスに移行する全てのプロジェクトは、SAPが策定した移行メソッド「RISE with SAP Methodology」に沿う必要がある。同社によれば、同メソッドによってユーザー企業は移行プロジェクトのマイルストーンや進捗の透明性を確保できる
SAPは移行に時間を要するユーザー企業に対して、運用保守支援サービス「SAP S/4HANA Cloud Safekeep」も提供する。これはRISE with SAPを利用しつつ旧バージョンのSAP S/4HANAを継続運用するユーザー企業を対象に、SAPが2年間アップデートやパッチ提供などの支援を通してシステムの安定運用や、最新バージョンへのアップグレードを支援するサービスだ。
あるアナリストは「Rise with SAP Migration and Modernizationは、オンプレミスインフラからクラウドサービスへの移行に消極的なユーザー企業を積極的に促すために、インセンティブが必要であるという認識が伺える」と分析する。SAPはクラウド移行の複雑さを解消することを目的としてRise with SAPを2021年から提供しているが、ユーザー企業の支持を得るのに時間がかかっている。
調査会社Forrester Researchでアナリストを務めるリズ・ハーバート氏は「Rise with SAP Migration and Modernizationは、SAPが長年使用しているアプローチと同じ誘導サービスだ」と指摘する。
SAPは以前もS/4HANAやS/4HANA Cloudへの移行をユーザー企業に促していた。「今までのアプローチでは、S/4HANA Cloudに移行するユーザー企業が期待するペースでは増えていないことを示している。そのため、移行するユーザーを増やそうとSAPはインセンティブを増やしている」(ハーバート氏)
大半のユーザー企業にとって移行のコストは高額であり、「金銭的インセンティブはユーザー企業のクラウド移行に役立つ可能性がある」とハーバート氏は語る。クラウド移行をためらっているユーザー企業は、コストを削減できるのであれば、移行に乗り出す可能性がある。
だが、クラウド移行への関心が薄いユーザー企業には金銭的インセンティブは効果がない可能性がある。「S/4HANA Cloudで利用できるAIなどを利用した新機能は、特にERPシステムを確立しているユーザー企業にとってはインセンティブとして十分ではない」とハーバート氏は話す。
移行を目指すユーザー企業や移行を計画しているユーザー企業にこのプログラムが役立つのは確かだ。「だが、アップグレードを予定していないユーザー企業の動機付けになるかはまだ分からない。純粋な製品のメリットだけではユーザー企業はS/4HANA CloudにアップグレードしないことをSAPが認めているのは明らかだ」(ミューラー氏)
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