2010年04月21日 08時00分 UPDATE
特集/連載

【IFRS】IFRS先行事例の研究【2】他社事例をうのみにする怖さ

原則主義に基づくIFRS適用で今度どのような問題の発生が考えられるのか。欧州の先行事例を学ぶことで、原則主義のとらえ方が分かる。連載第2回では経営幹部の範囲をどう考えるかについて解説する。

[中村正英,フューチャーワークス]

アイティ電器経営企画室イトウ

 「アイティαのタカダ社長は経営幹部扱いらしいよ」

アイティ電器経営企画室タナカ

 「アイティβのイノウエ社長は、同じ社長でも扱いが違うらしいね」

アイティ電器経営企画室イトウ

 「同じ入社年次のあの2人も、やっと差がついたんだねえ」

 同じ部長でも部署による格があるように、グループ内の子会社社長にも格があるのが一般的ではないでしょうか。

 近い将来IFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)が適用されることで、企業内部に新たなランク付けが生まれてしまうかもしれません。それが「経営幹部」という概念です。経営幹部という言葉自体は一般的な用語にもありますが、IFRSの中ではIAS24号「関連当事者についての開示」の9項で定義されている概念となっています。

 経営幹部については関連当事者に関する部分であり、日本の現行制度でも、最近いろいろと話題になりました。

 「関連当事者の開示に関する会計基準(企業会計基準第11号 2006年10月17日公表 企業会計基準委員会)」が、2008年4月1日以降開始する連結会計年度および事業年度から適用されています。2009年3月期決算からの適用が多かったことを考えると、ちょうど1年ぐらい前に対応に追われていたなと開示担当者の方々は思い出されるのではないでしょうか。

 また、関連当事者の個所ではなく、コーポレート・ガバナンスの状況の個所でありますが「企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令(2010年3月31日施行 金融庁)」により、2010年3月期決算から、役員報酬等の開示が必要となってしまったのも、記憶に新しいところです(参考記事:役員報酬の1億円開示問題、ガラパゴスかグローバルか)。

 本連載の第2回目の事例としまして、 日本公認会計士協会の「CESR執行決定データベース」から 「EECS/0508-09 経営幹部の定義」を取り上げます【執行決定データベース抜粋(III)(2008年5月)、P20参照】。今回の事例は、財務諸表の発行者(企業側)の方で経営幹部として定義した範囲を、執行者(当局)が不適切と指摘したケースになります。事例に入る前に、関連するIAS24号に少し触れておきましょう。

IAS24号 関連当事者についての開示

 「関連当事者についての開示」という基準のタイトルからも分かるように、IAS24号は会計処理について定める基準ではなく、開示について定める基準です。

 構成としては「目的(1項)」「範囲(2項〜4項)」「関連当事者についての開示の目的(5項〜8項)」「定義(9項〜11項)」「開示(12項〜22項)」「発効日(23項〜24項)」「IAS24号(1994年リフォーマット)の廃止(25項)」となっています。

 興味深い個所は多々あるのですが、特に以下の8項が注目です。

 「関連当事者取引、未決済残高及び関係について知識を有していることで、企業が直面しているリスクや機会の評価など、企業の営業活動に対する財務諸表の利用者の評価が左右されるかもしれない」

 関連当事者関係の開示が増えることは、企業側には嫌がられることが多いものです。開示対象となっている当人はもちろんとして、開示担当者の立場でも、株主や経営陣にかかわる情報を集めること自体がいろいろな意味で負担となっている、などということは実務関係者ならよく耳にするところではないでしょうか。

 しかしながら、そのような負担があってもなお、開示が求められているのが現実です。8項に記載がありますが、財務諸表利用者の評価を左右するかもしれない情報が、関連当事者の開示情報にはあったりします。投資意思決定情報として質的に重要な情報、という位置付けです。

 現在の日本の関連当事者開示においても、

「あれれ? かつての子会社がいつの間にか親会社になってない?」

「随分とまあ、業務委託契約でお金が流れているようですね」

「その貸付金って随分前から残高変わってないけど、全然引当金積んでないよね」

などといった事象を見かけることがあるかもしれません。そしてそんな事象が、数年後に会計事故につながっていることがあるかもしれません。

 また、2010年3月期決算から始まっている役員報酬の開示ですが、高額報酬を受け取っている方々の中には困ったなあと内心思っておられる方もいるかもしれません。しかし、創業者系の高額報酬は実際のところ対投資家的にそれほど問題となるのでしょうか? むしろ、マネジメントの対価という点で槍玉に挙がりそうな本命がほかにいるような気がしています。これは実際の開示が出揃ってからの分析特集が楽しみなところです。

 閑話休題。関連当事者周辺の開示については、このように投資意思決定情報として重要な内容があったりします。IFRSにおける適用については2項において定めているところであり、「関連当事者に該当する主体の識別」「企業との間の取引及び未決済残高の識別」「開示対象の識別」「開示」が大きな作業フローとなります。各フローごとに面白いテーマがあるのですが、今回の事例については「関連当事者に該当する主体の識別」に関する部分がメインとなります。

 「関連当事者に該当する主体の識別」については、9項において長々と記載されているところです。この中で「経営幹部」が関連当事者に該当する主体として定義されているのですが、今回の事例では「経営幹部とは一体誰なのか?」が問題となりました。ちなみに「経営幹部とは、企業の活動を直接、間接に計画し、指示を行い、そして支配する権限及び責任を有するもの(企業の取締役《業務執行権がある者もそれ以外の者も》を含む)をいう」と定義されているのですが、この文言の解釈について実務上では頭を悩ますことになりそうです。

子会社の構成員は経営幹部か

 今回の事例は、発行者が財務諸表において識別した経営幹部の範囲と、目論見書において識別した主要役員の範囲が異なったところがポイントになりました。発行者は、目論見書でいう主要役員の範囲を、IAS24号の経営幹部の範囲よりも広いものと理解して定めたのです。

 発行者が経営幹部の範囲として定めたのは親会社の経営会議の参加者でした。具体的には親会社のCEO及びCFOに加え、親会社の経営会議にも参加していた子会社の2人のCEO、計4人でした。この2人の子会社CEOの会社は、いわゆる主要な子会社です。一方の主要役員ですが、経営幹部として識別した4人に加え、2つの主要な子会社における経営会議の構成員までを含めていました。

 よって、この会社における経営幹部と主要役員の範囲の違いは、主要な子会社における経営会議にのみ参加している構成員を、経営幹部として取り扱うのか否かでありました。執行者が問題にしたのも、正にその部分であります。

 発行者が上記のとおりに経営幹部の範囲を定めた理由としては、親会社の経営会議に参加しているかどうかが重要であると考えたことによります。これは、同業他社の状況も確認したうえで、他社がそのように範囲を定めているように読めたことから、親会社の経営会議に参加しているか否かは、重要なファクターであると判断したようです。

 しかしながらIAS24号の定義を踏まえて考えた場合、親会社ではなくとも、企業グループにとって重要な子会社であれば、開示の範囲から除外してしまうと、財務諸表の利用者にとっての利用価値が向上するよりは、むしろ不十分な開示になってしまう恐れがあります。そして「企業の活動を直接、間接に計画し、指示を行い、そして支配する権限及び責任を有する者」については、そのような重要な子会社も念頭に置いて、該当する立場の責任者を検討することが必要といえます。

 今回の執行者の判断においては、発行者による目論見書の主要役員の記述が注目され、親会社の経営会議には参加していない主要な子会社のCEO以外の経営会議の構成員も企業グループにとっては無視できない存在であることを裏付けるものとされたのです。そのため、執行者から、主要な子会社におけるCEO以外の経営会議の構成員も経営幹部に含めて開示するように要請されました。

 今回の事例から得られる教訓は多々ありますが、まず意識しておきたいのは、他社事例をうのみにすると怖いということではないでしょうか。確かに他社事例は参考にはなるのですが、微妙に各社の前提が異なっているため、各社各様となっているのが当然といえます。そのままうのみにすることだけは避け、「他社を参考にしました」を言い訳にしない方がよいでしょう。

 また、各社で行っている各種開示がありますが、その中での整合性も意識しておいたほうがよいでしょう。原則主義であるがために、会社としての論理構成が重視されることになりますが、対外的に公表している文書間で不整合が発生してしまうと、各所でツッコミが入ってしまうことにもなります。

 さらに実務的な話をいうのであれば、自社にとっての主要な子会社の範囲を意識しておくことや、主要な子会社まで含めた役員構成の検討は、長期的な視野で準備しておいたほうがよいかもしれません。そして何より、実務担当者の手間となりそうなのは、経営幹部の近親者まで関連当事者の範囲となっていることでしょう。突然の情報収集は社内的にリスクがある、などという話はよく聞くところでありますので、事前の根回しは忘れないようにしておきたいものです。

当事例からの教訓

  • 他社事例を参考にしたからといって安心できません
  • 各種開示資料間の整合性はしっかり取りましょう
  • 主要な子会社を早めに識別しておきましょう
  • 主要な子会社役員については近親者含めて注意

中村 正英(なかむら まさひで)

株式会社フューチャーワークス 代表取締役社長 公認会計士

新日本監査法人(現新日本有限責任監査法人)において会計監査およびIPOコンサルティングに従事。

2008年に会計/ITコンサルティング会社の株式会社フューチャーワークスを設立。事業再生、決算早期化、企業組織再編、内部統制構築等のコンサルティングを行い、現在、上場企業ごとにアレンジしたIFRS導入支援サービスを手掛ける。


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