「ハイブリッドクラウドには苦労に値する見返りがある」との声も
「これじゃなかった……」、クラウド導入成功と失敗の微妙な分かれ目
ハイブリッドクラウド環境を先んじて導入したCIOが、その利点を活用し、問題を回避するコツを伝授する。
ハイブリッドクラウドの数々のセールスポイントに注目し、果敢にも早々と導入に踏み切ったCIO(最高情報責任者)がいる。本稿では、ハイブリッドクラウドを先んじて導入したCIOから、ハイブリッドクラウドの利点を活用し、問題を回避するコツを聞いた。
米大学Lone Star CollegeのCIO兼副学長のリンク・アランダー氏によると、同大学では2009年の時点で早くもクラウド戦略に着手し、現在では、学習管理システム、オンライン学生オリエンテーションシステムなど、約30種のハイブリッドクラウドアプリケーションを導入しているという。ハイブリッドクラウド環境は、ビジネスニーズを満たし、IT部門からユーザーへ迅速にサービスを提供できる最適なソリューションだった。
「解決しなければならないビジネス問題を考えるとき、まずそこを一番に検討する。目的の処理を実現するのにかかる時間はどれくらいか。それと、長期的な総所有コスト(TCO)はどれくらいになるか」とアランダー氏は話す。「クラウドに移行して、私たちは方針を変え、これからは1年半以上かかるような大きなプロジェクトはやらないと決めた。事業部門は新しいサービスをそんなに待っていられない」
例えば、かつて同大学で構築したオンラインオリエンテーションプログラムは完璧とはいえなかった。そこで、アランダー氏は、2011年からクラウドサービスの検討を始めた。Fortune 500企業にオリエンテーションを提供している会社を見つけ、大学でも同じアプリケーションが使えるのではないかと考えた。それから2カ月もたたないうちに、同大学は新入生にキャンパスの各種サービスを紹介するオンラインオリエンテーションを完全導入していた。同じようなプログラムを自分たちのITチームで開発したら、6~8カ月かかるだろうし、同レベルの品質を実現するのは難しい、とアランダー氏は話す。クラウドなら変更や更新も簡単だ。「最初からうまくいった」とアランダー氏は語る。
米プロバスケットボールチームBoston CelticsのCTO(最高技術責任者)を務めるジェイ・ウェスランド氏も、ハイブリッドクラウドの柔軟性とアジリティ(俊敏性)を活用している。現在、同氏率いるITチームは、選手の実績データとゲームアナリティクスの即時集計が必要になると、データを社内に保管したまま、演算処理のみクラウドで実行している。アナリティクスをハイブリッドクラウド環境に移行することは、あまり悩まずに決断できたという。
「サーバだととんでもない規模になるので、それは避けたかった。週に1時間しか使わないのに、大きなサーバを購入するわけにはいかない。(クラウドなら)必要になったときだけ作動させ、不要の際はシャットダウンできる。おかげでシステム全体を購入することなく、必要なパフォーマンスを確保できた」とウェスランド氏は語った。
ただし、ハイブリッドクラウド環境に移行すると、職務内容の転換が求められる。それはウェスランド氏自身にもいえることであり、若干の調整が必要だったと同氏は話す。
「過去5年ほど続けてきたほぼ全ての仕事について『これはもう私の仕事ではない。誰か他の人の仕事だ』と言わなければならなかった。慣れるまでは少し大変だ。それでも、おおむねうまくいっている。これからもさらに自分の仕事を手放していくことになるが、やることは他にいくらでもあるから問題ない」
ハイブリッドクラウドのアプリの選択は「少しずつ」でいい
米調査会社Forrester Researchの主席アナリスト、デイブ・バルトレッティ氏は、CIOに明確なクラウド戦略を立てることを勧める。また、組織のアプリケーション開発チーム、インフラチーム、エンタープライズアーキテクトを集めて、意見を聞くといいという。
「アプリケーションのリストを確認し、データセンターに置いたまま変更しない方が良いものと、クラウドで実行する方が良さそうなものに分類する。クラウドに向いているものばかりではないからだ」とバルトレッティ氏は話す。
多くの企業では、会計、在庫管理、人事など従来の処理システムは社内に残し、顧客と関わり合うアプリケーション(Systems of Engagement、SoE)はハイブリッドクラウド環境への移行を検討している。後者の例としては、マーケティングキャンペーンアプリ、モバイルアプリ、タブレットアプリなど、変更が頻繁でリリースサイクルの短いアプリケーションが挙げられる。
「クラウドなら、新しいアプリケーションを素早く顧客に届けられる。まずスピード、次がコストだろう」(バルトレッティ氏)
スピードとアジリティを検討し、運用コストを算出するのに加え、CIOはあらかじめクラウドベンダーと統合条件を決めておくべきだと専門家は話す。CIOは、アプリケーションの接続方法を検討するに当たり、データをどのように保護し、必要になったらどうすれば取り出せるか把握しておく必要がある。
前出Lone Star Collegeのアランダー氏は、ハイブリッドクラウド環境を採用するには、撤退が必要になった場合に備えて、IT部門で明確な出口戦略を立てておくことが重要だと話す。「期待項目を明確に設定し、セキュリティ対策を検証する必要がある。サービスの利用をやめたら、データはどこへ行き、どう処理されるのかといった疑問についても検討しておかなければならない。以前はこうした予防策に関する明確なガイドラインはほとんど見当たらなかった。全ては契約管理に懸かっている」
一方、ハイブリッドクラウドの世界へ踏み出すのは少しずつでいいと考えるITリーダーもいる。
前出Boston Celticsのウェスランド氏によると、同バスケットボールチームでは、あまり性急にクラウドに移行するよりも、少しずつ系統的に進めて、どんな問題があるか感触をつかむことが肝要だと考えたという。例えば、同チームのIT部門では2年ほど前に「Amazon Web Services」の検討を始めたが、1年目はまずいろいろ試してみて、2年目に役に立つものに仕上げることを目標にしたという。
「私たちはいろいろテストして試したりし、システムを作っては壊してみた。私は常に何かしら新しい研究開発プロジェクトを進めるべきだと考えており、そうすることによって、現在のユーザーニーズにとらわれず、何か新しく試せるものを探していくべきだと思っている。時間と資金を費やしてやっと『これじゃなかった』と気付くこともある」(ウェスランド氏)
ハイブリッドクラウドにはさまざまな課題があるものの、どのCIOも、なじむにつれてクラウド事業者に的確な質問ができるようになり、適切な条件を組み込んで移行をスムーズに進められるようになってきたという。
こうした課題にもかかわらず、最終的にCIOの多くは、ハイブリッドクラウド環境には苦労に値する見返りがあると話す。ウェスランド氏は「お金も時間も悩みも、少なくて済むようになる」と語った。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
事例
[日本オラクル株式会社] ピンチをチャンスに変えたEPR製品は? 先行企業の導入事例3選 -
技術文書・技術解説
[日本オラクル株式会社] 無自覚なリスク 秘伝Excelファイルが監査の壁、不正・ミスの温床となる理由 -
製品資料
[日本オラクル株式会社] 戦略的経理の第一歩 失敗のない「脱Excel」を実現する秘訣とは? -
技術文書・技術解説
[日本オラクル株式会社] いまさら聞けないオンプレERPとクラウドERPの違い 最適な製品をどう見極める? -
事例
[株式会社ビザスク] 連結売上高が約2倍に成長、富士フイルムが実践した新規事業創出の戦略とは?
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
2
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
3
「0.3秒のスピード顔認証」の入退室管理が社員に好評 事例に学ぶオフィス改革
-
4
「ノートPC派」は損をしている? Dellと考える“自作PC”のメリット
-
5
エンジニアの生産性はどう測る? マネジメントに不可欠な可視化の実現方法とは
-
6
慶應義塾が「Notion」を選んだ理由 AI導入の盲点になる“情報のサイロ化”
-
7
LINEヤフーはなぜ「社内の管理者」すら信用しないインフラを作ったのか
-
8
1200万円のSaaS導入を回避 スギ薬局「運用費10万円」のAIエージェント構築術
-
9
「また同じ説明か」 消費者の半数が離脱するAIチャットbotの“記憶喪失”
-
10
IT製品の導入に関するアンケート「PC&デバイス」編
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
DX/AI投資の壁を突破、現代の最高財務責任者が直面する課題と克服のヒント
-
3
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
4
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
5
システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
-
6
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
7
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
8
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
9
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー