エンタープライズのためのOpenStack検討ガイド【第1回】
“オープン”以上の価値がある、OpenStackが企業で歓迎される理由
企業システムへの導入、検討が本格化しつつある「OpenStack」。だが、オープンソースはソースをオープンにしただけでは大きな価値を生まない。今OpenStackがなぜ注目されているのか、最新の動向や他技術との比較を交え解説する。
「OpenStack」が2010年5月に産声を上げてから早4年、いよいよ企業システムへの導入、検討が本格化しはじめた印象だ。本連載の第1回では、OpenStackがなぜ注目されているのか、最新の動向や他技術との比較を交え解説する。
連載インデックス
OpenStack、4年間の歩み
OpenStackとは何か
OpenStackとは何か。誤解を恐れずに言えば、「データセンターの全てを自動化しようと企てているプロジェクトとその成果物であるソフトウェア」である。OpenStackの公式サイトには、“Open source software for creating private and public clouds”と表現されている。だが、クラウドコンピューティングという言葉の定義は曖昧で分かりにくい。筆者はこの表現よりも、OpenStackの3周年イベントで使われた“Automate All The Things”というフレーズがピンとくる。データセンターを構成する要素である、サーバ、ストレージ、ネットワークおよびソフトウェアの、割り当てから解放までのライフサイクルを自動化しようということである。
そんなOpenStackの歴史であるが、TechTargetジャパンに2010年から2011年まで連載された記事が詳しい。歴史や背景に関心があれば、ぜひご一読いただきたい。
OpenStackの歴史や背景に関する記事(2010~2011年執筆)
OSSクラウド基盤 OpenStackの全て【前編】
OSSクラウド基盤OpenStackの全て【後編】
2011年以降の動向
さて、簡単に2011年以降の動向を追っていこう。プロジェクトの大きな変化は以下の3つである。
トピック1:OpenStack Foundationの発足
2012年9月に、OpenStackプロジェクトを運営する「OpenStack Foundation」が設立された。これが最大のトピックだろう。2010年以降、立ち上げメンバーである米Rackspaceがプロジェクトを事実上リードしてきたわけだが、参加する企業と開発者が増加、多様化するにつれ、より中立的な運営体制が求められるようになった。これが設立の背景である。
Foundationは企業中立な団体ではあるが、スポンサー企業が資金と人材を提供し、運営を支援している。米IBM、米Hewlett Packard、米Red Hatなどグローバルベンダーだけでなく、NEC、日立製作所、富士通など日系企業も参加している。余談ではあるが、日系企業の参加が増えたこともあってか、最近日本で開催されるOpenStack関連の勉強会は、100席ほどであれば1日で参加枠が埋まってしまう活況ぶりである。
トピック2:Marketplaceの設立
2つ目のトピックは「OpenStack Marketplace」だ。OpenStackはその多様性が魅力である。だが一方で、ユーザー視点ではどんな製品/サービスがOpenStackに対応しているのかが把握しにくい。そこでFoudationがルールを定め、申請された製品/サービスをWebサイトにまとめることにした。これがOpenStack Marketplaceである。例えば、パブリッククラウドとしてMarketplaceに登録されるためには下記の基準を満たしている必要がある。
- 最低限、Compute(Nova)とObject Storage(Swift)を提供している
- APIを公開している
- OpenStackのバージョンが最新2世代以内である
「OpenStack対応というから採用したのに、使ってみたら期待と違うものだった」という悲劇を避けるためにも、重要な取り組みであろう。
トピック3:構築者視点から利用者視点へのシフト(Superuser)
OpenStackは「自分たちに必要なものを、自分たちで作った」という生まれから、その基盤を構築できるユーザーが「いかに基盤を作るか」という情報が目立っていた。供給者の関心事が中心だったといえる。故に、そうではない立場から見たら、ひとごとであった感は否めない。そこで、多様な活用事例をユーザー視点で積極的に紹介し、より身近に感じてもらおうというプログラムが「OpenStack Superuser」である。さまざまな業種、さまざまな事例がWebサイトにまとまっており、その効果をイメージしやすい。日本の大規模事例としてヤフーも紹介されている。
OpenStackが企業で注目される理由
ここからが重要である。なぜOpenStackが注目されているのか。なぜオープンソースのクラウド基盤に期待が集まっているのか。考えてみたい。
コスト削減は本質ではない
まず分かりやすい期待として「コスト削減」がある。ソースコードが公開されていることから、極論、無料でも使うことができる。また、オープンソースの商用サポートを選んだ場合でも、そこには健全な競争があり、ベンダーが暴利をむさぼりにくい構造である。よってコスト削減につながるケースは多い。だが筆者は、オープンソースクラウド基盤の価値はそれだけではないと考えている。
では、何がオープンソースらしい価値なのであろうか。それは2つある。新技術・機能の取り込みやすさ、そして選択肢の増加だ。
広がるOpenStackエコシステム
Foundationに参加するベンダーの顔ぶれを見て分かる通り、OpenStackは参加者の多様性が最大の魅力だ。さまざまなアイデアや強みをもった参加者が、1社単独では開発をあきめてしまうような機能を、どんどん取り込んでいく。そしてOpenStackの魅力が増すにつれ、対応アプリケーションや周辺ツールも増えていく。そんな正のサイクルの入り口にOpenStackはたどり着いた印象がある。企業向けアプリケーションの雄である独SAPや米Oracleが対応を表明したり、オープンソースPaaSであるCloud Foundryとの連係実装が出てきたり、HPや日立製作所の運用管理製品が対応したり、多様性を裏付けるトピックをよく目にするようになった。
乱暴な表現かもしれないが、OpenStackはAndroidに似ている。Androidをベースに、端末ベンダーや通信キャリアが価値を付加した端末を作って個性を出せる、多様性が生まれる、世界中にリーチできる、利用者が増えると対応アプリが増える、利用者には選択肢が生まれる、利用者も提供者もハッピーになる、というモデルである。
このように、技術の周辺に多様な参加者が集まり、需要と供給の輪を広げていくことを、自然界の食物連鎖や物質循環になぞらえエコシステム(生態系)と呼ぶ。
他オープンソースクラウド基盤との違いは?
さて、オープンソースのクラウド技術には、OpenStack以外の技術もある。その代表例が「CloudStack」だ。日本ではCloudStackを採用したクラウドサービスの事例も多く、OpenStackと比較されるケースも多い。その優劣は利用者が判断すべきなので言及を避けるが、エコシステムの大きさ、拡大ペースではOpenStackがややリードしたか、というのが筆者の見解である。
CloudStackは米Cloud.comが開発を主導し、商用化していたソフトウェアである。そして、米Citrix SystemsがCloud.comを買収し、今に至る。一方、OpenStackは後発であるが、そのようなベースがなかった分、後から参加者が入りやすかった。それがエコシステムの勢いにつながっているのではないだろうか。
以下はGoogleトレンドにおける注目度の推移である。参考にしていただきたい。
オープンソースはソースをオープンにしただけでは大きな価値を生まない。開発者、利用者を増やし、新技術・機能を取り込みやすく、また選択肢が増えることでその魅力が増していく。エコシステムは重視すべきポイントだ。
次回は、OpenStackがどのようなシステムに向いており、企業ITの進化にどのように寄与するのかについて考えたい。仮想化基盤や非オープンソースクラウドとの違い、使い分けについても触れる予定である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
エンタープライズのためのOpenStack検討ガイド
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「Excel至上主義」の終わらせ方 丸2日の手作業地獄から情シスと現場を救うには
-
2
「Microsoft 365のセキュリティ運用」に関するアンケート
-
3
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
4
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
5
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
6
「Salesforceのテスト自動化ツール」に関するアンケート
-
7
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
8
「AI時代の統合基盤・エンタープライズAI管理」に関するアンケート
-
9
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
10
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー