「iTeachersカンファレンス 2015」リポート
タブレットがあれば「パソコン室」は不要? 教育ITの先駆者が本音で議論
IT活用教育の先駆者チーム「iTeachers」が開催した教育関係者向けイベント「iTeachersカンファレンス 2015」では、メンバーが教育ITの課題や疑問を議論した。その様子をお届けする。
教育機関のIT活用にベストプラクティスはなく、多くの教育関係者はITをどう生かすかに知恵を絞る。新たなIT製品・技術は相次いで登場する。教育現場を取り巻く状況の変化を前に、そうしたIT製品や技術をどう活用するかなど、教育機関の悩みは絶えない。
IT活用を積極的に進める教育者チーム「iTeachers」が2015年4月に開催した教育関係者向けイベント「iTeachersカンファレンス 2015」では、iTeachersのメンバーによるトークセッションを開催。会場から提示された教育ITに関する課題や疑問について、メンバーが本音で議論した。本稿では、その内容を紹介する。
登壇者
パネリスト
- 大阪大学 岩居弘樹 教授
- 新潟大学教育学部附属新潟小学校 片山敏郎 教諭
- 広尾学園中学校・高等学校 金子 暁 教諭
- デジタルハリウッド/デジタルハリウッド大学 栗谷幸助 准教授
- 玉川大学 小酒井 正和 准教授
- 神戸大学 杉本真樹 医師・医学博士
- 千葉県立袖ヶ浦高等学校 永野 直 教諭
- 佐賀市立大和中学校 中村純一 教諭
モデレーター
- 俊英館/教育ICTコンサルタント 小池幸司氏
コンピュータ室はなくなるのか?
タブレットの普及で、普通教室でも映像の閲覧やWebサイトの検索などが手軽にできるようになった。では、タブレットを導入した教育機関には、クライアントPCが備え付けられたコンピュータ室は不要なのか。デジタルハリウッド大学/デジタルハリウッドの栗谷幸助 准教授は、あくまでも個人の考えだと前置きしつつ、「学習者に私物端末の利用(BYOD)を許可しているのであれば、コンピュータ室はなくてもよいのではないか」と語る。
ただし、栗谷准教授が“コンピュータ室不要論”の前提とするのは、タブレットではなくノートPCのBYODを実施していることだ。デジタルハリウッドでは実際、学習者全員がノートPCを購入し、保有している。「備え付けのデスクトップPCが置かれた部屋は、学生が常に決まった方向を向く必要があるなど、複数の学生が共同で何かをするといった作業には向かない」と栗谷准教授は指摘する。「学生が自前のノートPCを持っているのであれば、講義室に各自の端末を持ちこんで使えばよいと考えている」(同)
一方、千葉県立袖ヶ浦高等学校 情報コミュニケーション科の永野 直教諭は、「コンピュータ室は絶対に必要だ」と強調する。同科では、生徒の入学時に米Appleのタブレット「iPad」の購入を義務付けており、生徒が普通教室でiPadを利用できる環境を整えている。それでも、「タブレットを導入したからといって、コンピュータ室やクライアントPCがいらなくなるとは考えていない」(同)という。
「普通教室で気軽にマルチメディアが使えるのは良いことだ」との言葉通り、永野教諭はタブレットのメリットを大いに認める。一方、特に高校では小論文といった文章作成の機会が増えたり、学科によってはプログラミング実習があるなど、細かい作業をするシーンが多くなる。その際、タッチスクリーンが中心のタブレットよりも、キーボードやマウスといった詳細な作業が可能な入力装置を備えるクライアントPCの方が作業を進めやすい。「小学校や中学校ではタブレットでもよいとしても、高校ではキーボードを前提としたクライアントPCが必要。表計算ツールをタブレットで操作するのは“地獄”だ」と同教諭は語る。
IT活用への教員からの反発は?
教育現場へのIT導入は、教員の教育方法にも少なからず影響を及ぼす。中には、今まで慣れ親しんできた教育方法からの変化が理由で、IT活用に積極的になれなかったり、反発する教員もいるのではないか――。こうした問いに対して、新潟大学教育学部附属新潟小学校の片山敏郎教諭は「反発はもちろんある」と認めつつ、IT活用が進んだ最近では、反発はかなり和らいできたと説明する。一方で、「『ITをどう使ってよいか分からない』など、静かに困っている教員もいる」と片山教諭は明かし、こうした教員に対しては「ITを推進する教員が頑張って支えていく必要がある」と語る。
永野教諭は、「そもそも必要がないものであれば、教員に利用を強制するべきではない」と強調。もし導入が必要だと判断するIT製品があるのであれば、「製品の使い方に関する研修ではなく、なぜその製品が必要なのかに関する研修をすべきだ」と語る。「これからどういう社会がやってきて、どういう学びが必要なのかを理解してもらえば、『やり方を変えなければ』と考える教員は増える。それでもITが不要だと言う教員は、自分のことしか考えていない。これからどういう教育をしなければいけないかを皆で考えることが必要だ」(同)
ITで創造性を伸ばすには?
タブレットをはじめとするITは、学習者の創造性を伸ばす有力な手段となる。「IT活用に当たり、学習者の創造性を伸ばすために心掛けていることは何か」という会場からの問いに対して、玉川大学の小酒井 正和准教授は「『創造性を伸ばす』という感覚を抱かないように気を付けている」と語る。「学習者はもともと創造性を持っている。それをつぶすようなことがないように心掛けるべきだ」(同)。小酒井准教授は、自らの講義で実施するアイデアソンでも、「論理的に説明していないなどコミュニケーションの問題であれば都度指摘するが、アイデアそのものをけなしたりはしない」と強調する。
タブレットは創造性を生かす有力な手段だと考える人は多いだろう。ただし、栗谷准教授は、「タブレットは可搬性や手軽さに優れているものの、創造性の育成に一番優れている端末だとは考えていない」と言い切る。デジタルハリウッドでは、クリエイティブな作業をする際にクライアントPCやタブレット、スマートフォンなどさまざまな端末を利用しており、特にクライアントPCを創造性の向上に生かしてきた実績があるからだ。感覚的な操作性が、必ずしも創造性の向上に結び付くわけではないし、枯れた手段だからといって創造性と無縁というわけでもない。
学校で3Dプリンタはどう生かす?
設計図のデータから立体物を生成するデジタルファブリケーション。その代表的な手段である「3Dプリンタ」に注目する教育機関は少なくない。多摩市立愛和小学校をはじめ、3Dプリンタを教育活動に取り入れている事例も既にある。教育機関は3Dプリンタをどう生かすべきか。医療・教育活動で実際に3Dプリンタを活用する神戸大学の杉本真樹 医師は、会場からのこうした問いに「3Dプリンタで何を作るかではなく、なぜ作るかが大事だ」と強調する。
3Dプリンタを使うことを目的とするのではなく、「『何かをするのに、もしかしたら3Dプリンタが適するかもしれない』という考え方をすることが重要だ」と杉本医師は語る。3Dプリンタを使わない方がよい場合もあるからだ。「『歯型は3Dプリンタで作れるのでは』とよくいわれるが、患者にゴムをかんでもらって石こうを流し込めば、すぐに作れてしまう。3Dプリンタを使ってもコストが掛かるだけ」(同)
大学入試とITとの関係は?
2020年には、現在の大学入試センター試験に変わる新たな共通試験が導入されるなど、大学入試の在り方が大きく変わろうとしている。ITが大学入試にどう影響するのかという問いに対して、広尾学園中学校・高等学校の金子 暁 教諭は、今後の大学入試改革については「まだどうなるか分からない段階だ」と指摘しつつ、高校や大学のそれぞれでITを生かせるシーンはあると考える。
大学では、学力が一定の水準に達しない学生を再教育する「リメディアル教育」への対処が喫緊の課題となっている。「大学生として入学してきた学生が、その前の段階の勉強をもう一度しないといけない。こうした状況は、大学教育の停滞を招く原因になり得る。その解消につながる取り組みをする必要がある」と金子教諭は指摘する。リメディアル教育については、Eラーニングを活用した学生の自習により、入学前や入学後の学力補強を図る大学も現れている。
教育機関でのMOOC活用を広げるには?
大学を中心とした高等教育機関が、インターネットを使って講義や教材などを広く提供するオープンエデュケーション。その中心的な要素の1つが、大規模公開オンライン講座(MOOC)である。東京工科大学や工学院大学附属高等学校など一部の教育機関がMOOCを授業や講義で活用する事例があるものの、教育現場での活用はまだ道半ばだ。会場からは、MOOCを教育機関で活用する際のハードルは何かを問う声が挙がった。
大阪大学の岩居弘樹 教授は、「MOOCのようなコンテンツ配信の仕組みには可能性を感じている」としながらも、「私が見る限りでは、MOOCのコンテンツそのものは20世紀の教育映像と変わらない。もう少しインタラクティブな作り方ができるのではないか」と指摘する。改善のヒントになり得ると同教授が指摘するのが、袖ヶ浦高校の教員が2人一組で作成している動画だ。動画の中に聞き役がいて、説明の途中で相づちを打つなど分かりやすさに配慮している。「教員が親しみやすい動画をさっと作り、目の前の生徒に見せるといった形がよいのではないか」(同)
教育に役立つガジェットは?
電子機器の世界では、「ガジェット」と呼ばれるさまざまな小道具が生まれている。中には教育現場で役立つガジェットも少なくない。教育活動に使いたいと考えているガジェットは何かという問いに対して、佐賀市立大和中学校の中村純一 教諭が挙げたのは「Makey Makey」だ。
インターネットで「バナナをピアノの鍵盤に変える」などと一時期話題になったMakey Makeyは、果物など電気を通すものを端末のキーやボタンにしてしまう製品だ。「例えばiPadだと、デジタルカメラの接続アダプターである『iPad Camera Connection Kit』を使ってiPadの画面を操作する方法もあり、いろいろなことに使えるのではないか」と同教諭は話す。
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