「アシストフォーラム2015」リポート
安価なデスクトップ仮想化はどこまで使える? 事例で分かる最新国内事情
新興のデスクトップ仮想化ソフトEricomは、安価で制約が少ないことから人気だ。2015年7月に開催された「アシストフォーラム2015」で、Ericomの魅力、最近のユーザー事例が語られた。
デスクトップ仮想化市場が躍進を続けている。IDCジャパンの調査(2015年6月)によれば、2015年に30%の企業がクライアント仮想化を導入し、2019年には50%になる予測だ。システムインテグレーター(SIer)のTISでデスクトップ仮想化プロジェクトのプリセールスSEを務める島村和俊氏は、「数年前は主に銀行など金融系を中心に導入が進み、それがほぼ一巡した。ここ1~2年で大手製造業が数千、一万規模で導入している。2019年に50%に達するという予測は妥当性がある」と見解を述べた。
なぜデスクトップ仮想化がここまで伸びているのか。それは、現在の企業に求められるクライアント環境の要素を多分に満たしているからだ。島村氏は企業に求められる理想のクライアント環境を「安全性」「利便性」「管理性」の3要素に分類。デスクトップ仮想化は、経営者、ユーザー、IT部門の3者に対して、この3要素を満たす便利なソリューションだといえる。
島村氏は「さまざまな場所からさまざまな業務システムに、複数の端末を使ってアクセスすることが当たり前の時代になった。セキュリティリスクが増している昨今、経営者の立場では、端末からの情報漏えいは経営上のリスクとなるため絶対に避けたく、BCP(事業継続計画)対策も重要な課題だ。一方で、企業の成長に生産性向上は欠かせない。そのためのモバイル端末利用や在宅勤務に対応したクライアント環境を構築したいと考えている。
ユーザーの立場では、セキュリティ対策に縛られて作業効率を下げたくない、どこからでもどの端末からでも業務ができるシステムにしてほしいといったニーズがある。
そして、IT部門の立場では、ユーザーにとって便利な環境を作りたいが、安全性とコストのバランスを保つ必要がある。また、複数の端末を導入すれば、管理が煩雑になることがネックだ。端末を調達してから配布するまでの工程や資産管理、故障対応など、端末管理の作業量は膨大になるため、端末の管理負荷はなるべく下げたいと考えるだろう。これらのニーズを満たし課題を解決するためにデスクトップ仮想化は有効なソリューションだ」と話す。
デスクトップ仮想化方式を選ぶ
デスクトップ仮想化は、サーバ側に用意された仮想的なデスクトップ環境に、ネットワーク経由でさまざまなデバイスからアクセスする仕組みだ。島村氏はデスクトップ仮想化のメリットを次のように述べる。「データを直接的に配信するのではなく、画面情報のみ端末側に配信するため、端末にデータが残らずセキュアに利用できる。また、端末が故障した場合も、データやアプリケーションはサーバ側にあるため、他の端末に切り替えてすぐに業務を継続できる。そして、一部のデスクトップ仮想化ソフトを使った場合ではあるが、マスターイメージ管理の機能を使用すれば、パッチやアプリケーション配布を端末に一元的に展開できる点もIT管理者にとってはメリットだ」
さて、デスクトップ仮想化方式と言っても実装方法は多岐にわたる。代表的なものは、SBC(デスクトップ公開/アプリケーション公開)、VDI(デスクトップ仮想化基盤)、サーバVDI、アプリケーション仮想化だ。提供方法もDaaSやオンプレミスを選ぶことができる。以下は、島村氏の発言を基に作成したデスクトップ仮想化方式のまとめだ。
| 方式 | 概要 | コスト | アプリケーション | 自由度 |
|---|---|---|---|---|
| SBC | サーバOSで稼働するデスクトップやアプリケーションを複数のユーザーがアクセスして使用する方式。1台のサーバを共有使するため、リソースが集約できコスト抑制になる | ○ | ||
| VDI | サーバを仮想化し、その上にクライアントOS環境を構築し、ユーザーごとに仮想デスクトップを割り当てる方式。ユーザーの利便性と管理者の運用性を両立させる手法 | ○ | ○ | |
| サーバVDI | VDI同様にユーザーごとに仮想マシンを割り当てるが、クライアントOSの代わりにサーバOSを使用することでMicrosoftライセンス費用を抑える方式 | ○ | ○ | |
| アプリケーション仮想化 | OSバージョンにかかわらずアプリケーションを使用可能にする方式。アプリケーションをEXEファイルにカプセル化し、クライアントOSで動かすソフト。「VMware ThinApp」がこれに当たる | ○ | ○ |
主要ベンダーとしてはCitrix Systems(以下、Citrix)、VMware、Microsoftが有名だが、最近注目されているのがEricom Software(以下、Ericom)だ。本稿では新興のEricom Softwareにフォーカスし、他の主要ベンダーとどのように差別化しているのか特徴を見て行く。
Ericomとは
1993年創業、イスラエルのEricomは、もともとはメインフレームのエミュレーターソフトを開発していたベンダーだ。その後、デスクトップ仮想化分野に参入。島村氏はEricom製品の特徴を「シンプルかつ低コスト」と述べる。「Ericom PowerTerm WebConnect」(PTWC)というコネクションブローカー1台でRDS(Remote Desktop Service)、VDI(Virtual Desktop Infrastructure)、物理の混在環境を管理できる。半日から1日でセットアップが完了するシンプルな作りだ。サーバOSのバージョンが混在していたり、ハイパーバイザー異種でも一元管理に対応し、コネクションブローカーなしの構成も可能と、制約が少ない。
また、デスクトップ仮想化ベンダーの中では、いち早くHTML5に対応した。「Ericom AccessNow」によって、HTML5対応Webブラウザがあれば、端末にソフトをインストールしなくても仮想デスクトップにアクセスできる。
日本での総販売代理店はアシストが務める。「SIerの立場で特にうれしいのは、販売店のサポートが柔軟な点だ。デスクトップ仮想化は、多様な製品が絡むシステムなので、相性の問題がトラブルに発展するケースも多い。大きなベンダーの中には、トラブルが起こり製品の開発元にエスカレーションするまでに数週間、問題解決までに1カ月を要するところもある。Ericomは、アシストを経由して翌日には開発元へ問い合わせが届いているなど、トラブルシューティングまでの対応がスピーディー」と語る。
Ericomユーザー事例
既に3万以上の組織で採用され、国内では160社に導入されているEricom。講演ではTISによる幾つかの導入事例が紹介された。
ユーザー(1)A市役所
A市役所では約2年前(2013年ごろ)、「Windows XP」のサポート終了に向けた端末入れ替えを計画していた。あわせてマイナンバー対応を視野に端末セキュリティの強化、1人2台だった端末を1人1台に集約したいといった要望があった。これらを実現する手段としてデスクトップ仮想化の導入が決定。ただし、予算はPCのリプレース分しかない。そこでライセンスコストを抑えたデスクトップ仮想化の手段として、コネクションブローカーにEricomのPTWCを選択。結果的にリプレースの予算内で、シンクライアント端末とデスクトップ仮想化の導入ができた。
A市役所では節約のため、接続方式をRDSとサーバVDIで構築。端末からPTWCへのアクセスを介して、RDSもしくはサーバVDI環境へユーザーによって振り分けている。さらに、「Active Directory」やDHCP、DNS、仮想環境を管理する「VMware vCenter」などは既存環境を使用した。
島村氏は「仮想デスクトップは提案から導入までに時間のかかるケースが多いが、予算内に収まったため3カ月で導入できた」と話す。
ユーザー(2)大手製造業B
大手製造業B社では、国内/海外の出張者が持ち出す用のPCを、ユーザー環境にあわせて毎回セットアップしていた。返却時には初期化して、また次の人にセットアップして貸し出すといった運用をしていたため、担当部門の負担が大きかった。
また、持ち出しPCからはファイルサーバに直接アクセスするため、紛失時には情報漏えいリスクもあった。持ち出しPCの台数はそれほど多くないためコストはあまり掛けられないが、セットアップの手間を減らし、社外アクセス時のセキュリティ向上を実現する手段としてデスクトップ仮想化が持ち上がった。
B社はコストを掛けられないことからEricomを選択。ユーザーに対し仮想デスクトップを割り当てることで、セットアップの手間を大きく削減した。また、VPNで仮想デスクトップにアクセスし、そこから社内ファイルサーバを利用することで、データ漏えいを防ぐ仕組みを作ることができた。
ユーザー(3)大手製造業C
大手製造業C社はVMwareのリンククローン方式を使ったDaaSを検討していたが、導入前の検証段階でDaaSでは動かないアプリケーションがあることが分かった。アプリケーションの更改が計画されているのは数年後。現時点では一時的に延命したいという要望が上がった。当初は「Citrix XenApp」の利用を試みたが、XenAppが「Windows Server 2003」をサポートしていなかったため見送り、Ericomのリモートデスクトップ機能を導入。結果的に、アプリケーションの延命に成功した。
C社では通常、シンクライアント端末からDaaSにアクセスするが、特定の業務アプリケーションのときだけTISのデータセンターにあるEricomのWindows Server 2003の仮想デスクトップを使用する。
デスクトップ仮想化ソフトの選び方
当然ながら、マルチベンダーのTISが扱う製品はEricomだけではない。どういう基準でデスクトップ仮想化製品を選択しているのか。
島村氏は「もともとこの分野のリーダーはCitrix。メタフレームの既存ユーザーがいるのでシェア(インストールベース)では1位だ。次点はVMwareだが、VMwareは製品シェアでCitrixに追い付きつつある。機能面でもほぼ並んでいると言っていいだろう。Ericomは徐々にシェア伸ばしている」と述べる。
続けて、「Citrixの7~8割のユーザーはXenAppのユーザー。既存システムでXenAppを導入しているならCitrixを提案する。VMwareは、リンククローン方式を使いマスターイメージ管理をしたいという場合に提案している。また、サーバ仮想化をVMwareで行い、vCenterで運用している企業であれば楽に運用できるため提案することも多い。Ericomは、それ以外のケースでCitrixやVMwareでは合わないときに提案することが多い」(島村氏)
安価で小規模、XenAppの代替方式として採用されることが多いEricom。実際のところ「7~8割の案件はEricomで実装することが可能である。また、Ericomであれば、導入コストを3分の2程度に抑えることができる」という。
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