負け組にならないための新技術
技術オタクだけが知っている「ブロックチェーン」の可能性、“スマート契約”とは?(2/2 ページ)
以下はロス氏のインタビューの要約である。
――CIOなどCレベルの幹部は、あなたの著書で取り上げているさまざまな技術の優先順位をどのように決めればいいのでしょうか。どの技術が特に重要なのですか。
ロス氏 どの業界に属しているのかによって異なりますが、CIOやIT部門の幹部クラスの人が全般的に理解しておかねばならない技術があります。それはブロックチェーン技術です。ビットコインは当初、状態を示すデータを保持しない「ステートレス」な仮想通貨と考えられていました。だが、やがて投機的資産になり、ビットコインの価格が大きく変動したのです。その結果、人々はビットコインへの投資をルーレットの賭けのように思うようになりました。しかしビットコインが8年間にわたって流通している今日、ビットコインにおける真の画期的イノベーションとは、そのベースとなっているブロックチェーン技術であることが分かったのです。
ブロックチェーン技術は、これまでほとんどデジタル技術の影響を受けなかった多数の分野で“仲介”の排除を可能にします。例えば、法務処理では膨大な手間が取り除かれ、法務関連費用が大幅に減少する可能性があります。ある人にとっての手間は、別の人にとっての利益になります。銀行業務や金融サービスも、ブロックチェーン技術の利用によって大きく変化するかもしれません。
私が著書の中で予測した展開の1つが、現在起きています。Goldman Sachsは最近、同社独自のデジタル通貨を作成する技術で特許を申請しました。これは閉鎖的環境の中でブロックチェーン技術を利用して、外国取引や資産の決済、株式の売買、電信送金などを処理する技術です。Goldman Sachsはウォール街の典型といえる企業です。今回の同社の動きは、今後の大きな流れの前兆だと思います。
――ブロックチェーン技術は法務分野でどういった役割を果たすのでしょうか?
ロス氏 私と妻は2014年に家を購入したのですが、その手続きは私の両親が1970年代に家を購入したときと何も変わっていませんでした。弁護士に依頼して高さ20センチほどの膨大な法務文書を処理し、約50カ所に署名しなければなりませんでした。売買手数料は1万ドル以上になりました。米国で不動産を移転する方法は100年間を通じて基本的に変わっていないのです。ブロックチェーン技術はファイブナイン(99.999%)の信頼性が保証された取引を可能にします。弁護士に高さ20センチの書類を処理してもらい、1万ドル余りの売買手数料を払い、50もの文書に署名する代わりに、ブロックチェーン技術はボタンをクリックするだけで、こうした処理が全て完了するのです。
こうした手続き費用は、不動産の売り主と買い主のどちらの利益にもなりません。売り主と買い主を仲介する人々の手に渡るだけです。ブロックチェーンに対応した取引市場では、1万2000ドルあるいは1万3000ドルといった今日の売買手数料が、120ドルになるかもしれないのです。しかも、現在では6週間もかかる処理が6時間で済むかもしれません。
――そうしたことが現実になるのは、どのくらい先のことだと思いますか?
ロス氏 3年ないし5年後には現実になるでしょう。現在、先進的なベンチャーキャピタルによる大量の投資がこうした「スマート契約」などと呼ばれる分野に流れ込んでいます。この分野では、技術開発が進み、新たな企業が設立され、提携が進んでいます。製品化/実用化されて市場に登場するには、1年から3年ほどかかるでしょう。それが一般に広まるのは、それからさらに3年ないし5年後でしょう。
――つまり、売買手続きおよび現在必要な専門知識が、一般消費者向けのサービスになるということですか?
ロス氏 その通りです。一方、ブロックチェーン技術は、これまで仲介サービスを提供してきた全ての人々と組織に取って代わるでしょう。ですが、この技術は支払い許容額から実際に払った金額を引いた「消費者余剰」を生み出すのです。銀行や登記代行会社、弁護士は1万2000ドルの売買手数料に伴う利益を得られないので痛手を被ることになります。逆に言えば、1万2000ドルの消費者余剰が生まれるわけで、これは売り手と買い手の両方の利益になります。
――大手法律事務所の最高情報責任者(CIO)は、最高経営責任者(CEO)や経営パートナーに何を伝えるべきでしょうか?
ロス氏 技術オタクは今こそ、技術に詳しくないスタッフに今後の変化について教えなくてはなりません。インターネットという怪物について、技術スタッフと経営スタッフの間で興味深い会話が盛んに行われた1990年代と同じように、ビッグデータやブロックチェーン技術などの将来の技術について、技術スタッフと経営スタッフの間で興味深い会話をする必要があります。
1990年代には、Cレベルの幹部のデスクにコンピュータはないのが普通でした。米国の企業社会のトップにいる人々の大多数がデジタル化の力と効果を本当に理解したのは、つい15年前くらいのことです。それ以前に理解していた人たちは、いち早く適応して競争で優位に立ちました。理解するのが遅れた人々は大抵、負け組になってしまったのです。ビッグデータなどの新技術の多くについていえることですが、技術に詳しくない企業幹部が将来の技術について勉強を始めるのが早ければ早いほど、その企業は伸びます。今日の大企業で優れた経営を実践するには、従業員がぬるま湯的な環境から飛び出し、今後登場する技術に関心を抱くように仕向ける必要があります。
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