クラウド時代の「認証」再考論【第1回】
“パスワードがない世界”が目前でも「パスワード使い回し」が大問題になる理由(2/2 ページ)
パスワードはまだなくならない
こうした問題があるにもかかわらず、パスワード認証はあらゆるシステムで使用され続けている。一方で、パスワードを使わない認証方式も進化を続けている。中でも「生体認証」(指紋、顔、耳、音声などからエンドユーザーを判定する仕組み)は、基本的にはID/パスワードのように認証手段が漏えいすることはなく、パスワード認証よりも利便性に優れる。
最近では、生体認証やPIN(暗証番号)認証を利用し、パスワードがいらない認証の仕組みを標準化する「FIDO(Fast IDentity Online)」のような動きがある。FIDOの仕組みは、生体情報やPINといった認証情報をシステム側で保管せず、エンドユーザー側のデバイスで保管する。そのためパスワードリスト攻撃のような大規模なリスクを回避しやすい。
Microsoftの「Windows 10」が搭載する認証機能がFIDOに準拠しており、FIDOの知名度は今後高まることが予想される。ただし生体認証は専用デバイスが必要な場合も多く、利用シーンが限られることもあり、利便性やコスト面でまだ課題が残る。
いつかパスワード認証に取って代わる認証方式が一般化する日がくるだろう。だが今すぐにパスワード認証がなくなるわけではない。今もなお、パスワード認証はワンタイムパスワードや電子証明書といった関連技術と併用して使われ続けている。少なくとも今は、上述したパスワードの問題から目を背けることはできないのだ。
パスワードの問題を解決する「フェデレーション」という選択肢
ここまで、パスワードの使い回しがパスワードリスト攻撃のリスクを上げること、オンラインサービスでのパスワードのハッシュ化実施率が低いことを問題として挙げた。こうした問題に対処する根本的な方法は、そもそもオンラインサービス側にパスワードを保管しないことだ。そんなことが可能なのだろうか。
実はそれを可能にする技術として「フェデレーション」がある。フェデレーションは、これまでオンラインサービス側が担ってきたパスワードの保管や認証を、他のシステムに任せる技術だ。そのシステムのことを「IDプロバイダー」と呼び、パスワードの保管と認証を一元化する。
フェデレーションによる認証の流れはこうだ。エンドユーザーはオンラインサービスを利用する前にIDプロバイダーに認証してもらい、「トークン」と呼ばれる許可証を受け取る。そのトークンをオンラインサービスへ送ると、オンラインサービス側は受け取ったトークンが正しいものであるかどうかを確認し、問題がなければエンドユーザーのログインを許可する。オンラインサービス側からエンドユーザーへパスワードの入力を求めることはない。
企業がフェデレーションによって得られるメリットは、IDプロバイダーだけでパスワードを管理すればよくなることから、従業員が覚えなければならないパスワードを減らせることだ。そのためパスワードを強固にしやすく、更新もしやすくなる。また一回の認証成功で複数のオンラインサービスへシングルサインオン(SSO)できるようになるので、従業員にとっての利便性も格段に向上する。
次回は具体的な技術に触れながら、フェデレーションの実現方法を紹介する。
執筆者紹介
渥美淳一(あつみ・じゅんいち) ネットワンシステムズ
10年以上にわたりロードバランサ製品、Webアプリケーションファイアウォール製品、DNSセキュリティ製品、認証製品などの提案、評価、検証、技術サポートを実施。現在は認証によるクラウドセキュリティ強化ソリューションの開発にも取り組んでいる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
クラウド時代の「認証」再考論
クラウドサービスを中心とするオンラインサービスの普及やID/パスワード認証の“限界”が、企業の認証システムに見直しを迫る。認証に関する現状の課題を整理し、具体的な解決策を追う。
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣 -
製品資料
[サイボウズ株式会社] AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
3
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
4
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
5
「中堅・中小企業のネットワーク・セキュリティ運用実態」に関するアンケート
-
6
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
7
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
8
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
9
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
10
【漫画付き】ひとり情シス協会が明かす、RAG導入でしくじる企業「2つの共通点」
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー