学校が知るべき「家庭内IT」の今【後編】
「生徒の私物タブレット利用」は“1人1台”実現の救世主となるか?(1/2 ページ)
教育機関にとって、タブレットをはじめとするデバイスの管理とコスト負担をどうするかは大きな課題だ。採用が進む「BYOD」は、この課題の適切な解決策となり得るのだろうか。
「IT先進校」と呼ばれる教育機関を中心にITの積極的な活用が進む。多くの導入事例がメディアで紹介されることも珍しくなくなった。
2016年5月8日には、この流れをさらに後押ししそうなニュースがあった。小学校や中学校、高等学校の無線LAN導入に関して、国が費用の50%を負担するというのだ。ただし無線LAN導入に関する国負担の範囲には、教員や学習者が利用するタブレットなどのデバイスは含まれていない。
教育機関が最低現のIT活用を実現する上で、最大の課題がこのデバイス整備だ。この課題には複数の要素がある。それらをブレークダウンしながら課題の本質を探りつつ、解決には何が必要かを明確にする。
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なぜデバイス導入が“最後の課題”なのか
教育機関がIT活用を進める上で、最低限必要な要素は以下の3種だ(図1)。これらを導入するには当然ながら、それなりにコストが掛かる。
- 電子黒板(またはプロジェクター)
- 無線ネットワーク(無線LANが中心)
- タブレット(デバイス)
電子黒板は教室に1台あれば十分だ。かなり頭の痛い問題だった無線LANも、電波設計や運用・保守などの問題は残るものの、費用の50%を国が負担してくれるようになれば導入のハードルは確実に下がる。
そもそも電子黒板や無線LANは、一般的には教室に固定して据え付ける設備であり、機器自体は全て決まった方法で管理しやすい。導入当初はノウハウ不足から運用面で問題が発生することもあるだろうが、最初から高度な活用を望むような背伸びした運用をせず、かつ信頼できるネットワークベンダーがネットワークを設計すれば、それほど大きな問題は起こりにくい。仮に問題が発生したとしても、ベンダーと二人三脚で運用・保守を適時すり合わせていけるようになれば、時間が解決してくれるはずだ。
タブレットなどのデバイスは少数を据え付けるのではなく、管理すべき数も多い。教員と学習者が1人1台ずつデバイスを持つことにすると、1クラスで30~40台必要になる。小学校や中学校の場合、公立か私立か地域などによっても異なるだろうが、1校当たりの生徒数は約300~500人が平均的だろうか。そうだとすると、最低でもその人数分のデバイスが必要になり、その導入コストは誰が負担するのかという課題が出てくる。
導入コストだけでなく、運用や管理も重要だ。一人一人が持つデバイスの運用は複雑になりやすい。学習者がデバイスを持ってくるのを忘れてしまったり、デバイスの故障や落下などによる破損が発生したりすることもあり得る。さらにデバイスは充電しなければ動かない。教室で充電しようとしても、テーブルタップ(OAタップ)と充電器を人数分用意すれば済むという簡単な話ではない。現在の教室で供給可能な電源容量のままでは、クラス全員分のデバイスを同時に充電することも満足にできない。
デバイスの持ち帰り学習を取り入れているのであれば、デバイスは家と学校を往復することになる。このような持ち帰り前提の環境では、全ての授業時に、クラス全員が同じようにデバイスを利用できるようにするのは難しい。その結果、デバイスの不良といったトラブルが授業に支障を来たすのは防ぎきれないだろう。
このようにデバイスの1人1台環境を実現するためには、コスト面はもちろん、運用面で非常に大きな負荷が教育現場に掛かってしまうのだ。
限定利用では効果が半減
運用面での課題は、少数の導入から初めて徐々に台数を増やしていくスモールスタートなどで解決する方法がある。教員用のデバイス導入から始める方法も、その一例だ。この場合、デバイスはいわゆる指導用端末として活用する。教員が持つデバイスの画面情報を黒板やスクリーンに投影し、学習者は従来通り教科書とノートで学ぶだけとなる。
デバイスの利用者を教員に限定すれば、デバイスの導入コストを大幅に削減できる。デバイスの利用者や管理者は大人の教員だけなので、子どもと比べて紛失や破損、故障などのリスクは大幅に削減できるだろう。
このようにIT活用の範囲を制限し、指導法の改善だけという限定的な用途に止めた場合、ITは単にデジタルコンテンツを教室に投影する装置に過ぎなくなる。これでは、政府が掲げる教育機関のIT導入効果や目標は達成できない。
大人が思ってもない利用法を思い付くのが、子どもの最大の強みだ。彼らが可能な限り自由にITを利用できる環境を作ることこそ、IT導入の成功はもちろん、日本の未来を輝かせるために重要なのだ。政府が言う「産業競争力の源泉となるハイレベルなIT人材の育成確保」も、「21世紀型スキルの習得」も、これなしには実現できないだろう。
「反転授業」の可能性も広げる“いつでも・どこでも”のメリット
教育機関のIT活用における最大のメリットは、時間や場所を問わずに誰もが学べる環境を実現できることだ。テレビでよく見かける予備校の有名講師の中には、生徒の前でのライブ講義ではなく、動画での講義がほとんどだという人も少なくない。講義ノウハウを豊富に持つトップ講師の講義を、全国どこからでも受講できる環境が、既に実現しているのだ。
もちろん、このメリットは塾や予備校に限らず学校教育でも有効である。学習者が事前に講義動画を見ておき、理解できなかったところを授業で教員に質問すれば、より深い理解をもたらす教育が可能になる。こうした授業形式は「反転授業」と呼ばれ、学ぶ意欲のある学習者にとっては、得意な部分をさらに伸ばすために非常に有効な教育の手法だ。
反転授業は、私のような勉強熱心とは程遠い学習者向けに運用するのは難しいかもしれない。いずれにしても、これは学習者が家庭でも学校でも自由に利用できる環境で実現するメリットの一例にすぎない。いつでもどこでも学べる環境の効果というのは計り知れない。
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