「安くなる」は正しくない?
達人でもまだ信じているクラウドの“恥ずかしい誤解”
ほとんどの企業にとって、クラウドの問題は、もはや移行すべきかどうかではなく、いつどのように移行するかになっている。
パブリッククラウドサービス市場はここ数年で着実に成長した。米調査会社Gartnerの市場規模予測によると、2016年には16.5%成長し、2040億ドルに達する見通しだという。ところが、これほど定着してきたにもかかわらず、クラウドコンピューティングに関する誤解はなかなかなくならず、企業を間違った方向へ導きかねない。
企業の意思決定に影響を及ぼしそうなクラウドコンピューティングの誤解にはどんなものがあり、どうしてそう信じられているのか、何人かの専門家に聞いた。
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クラウド実用化に向けて
クリストファー・ワイルダー氏
第一に、クラウドをビジネス戦略と見なすことは間違いだ。クラウド導入で得られるのはもはや競争優位ではなく競争同位にすぎない。企業にとって重要なのは、何をクラウドに置き、何をオンプレミスに残すかを適切に見極めることだ。これから3年以内には、80%以上の企業が少なくとも1つのアプリケーションをクラウドに置くようになると私は予想している。
また、クラウドを導入すればIT費用を設備投資コスト(CAPEX)から設備維持コスト(OPEX)に移行して節減できると考えるのも間違っている。クラウドに移行する初期費用は低く抑えられるとしても、長期的なコストは社内インフラの場合と同程度になることが多い。パブリッククラウドプロバイダー利用では特にそうだが、クラウド環境のコストは2年以内にオンプレミスのIT環境コストと同程度かそれ以上になるだろう。
さらに、従来のオンプレミス環境からクラウドへの移行は簡単だと考えるのも誤解だ。以前よりはよくなってきているものの、実用的なクラウド移行ツールや自動化ツールがないため、シームレスな移行は難しい。難解なツールを使いこなすには特殊な専門知識を要する。しかもアプリケーションをクラウドに移行するためには、その連係要素や関連要素も全て移さなければならない。また、プロバイダーを変更するには、契約上と技術上の難題が立ちはだかる。
ビル・ワイルダー氏
まずパブリッククラウドでアプリケーションを実行する方がオンプレミス環境より安上がりだという考えは誤解だ。シンプルな例について考えてみよう。現在オンプレミスで運用している基幹業務(LOB)Webアプリケーションを「Microsoft Azure」や「Amazon Web Services」(AWS)などのパブリッククラウドに移行するとしたらどうか。
一般に、LOBアプリケーションにはサーバとディスクとデータベースリソースが必要だ。データベースやサーバなどをインストールして微調整や更新を行う要員も必要になる。このアーキテクチャをリフト&シフト方式でそっくりそのままクラウドに移すとする。アーキテクチャそのものは、仮想マシン(VM)やストレージなどのクラウド機能にうまく配分できたとしても、専門要員が必要なことには変わりがない。その上、パブリッククラウドを操作する新しいスキルも必要となる。リフト&シフト方式によるクラウド移行には多くの利点があるが、コストだけを考えた場合、このような分離構成はオンプレミスより高くつく可能性がある。
では、もっとクラウドネイティブな方式で移行する場合はどうだろうか。独自のデータベースをVMで実行する代わりにプロバイダーのマネージドデータベースを採用すれば、オペレーションの複雑さは軽減する。PaaS(Platform as a Service)にWebコードを展開すれば、オペレーションの複雑さはさらに減り、素早い導入が可能になる。LOB Webアプリケーションは夜間と週末はほぼアイドル状態になるので、時間帯別の必要性に応じてリソース使用を調整できダウンタイムもない。パブリッククラウドのこうした利点や効率性を活用すれば、コスト効率の高い構成が可能になる。
ここで忘れてならないのは、クラウドでコスト効率を上げるには労力が必要だということだ。
ガウラブ・パール氏
多くのIT企業、とりわけ大企業は「AWSやAzureなどの商用クラウドサービスはセキュリティやコスト効率が不十分だからインフラには使えない」といまだに思い込んでいる。よりコスト効率と柔軟性に優れた企業向けサービスモデルに移行しない最大の理由がセキュリティ問題だ。だがそのほとんどは誤解に基づいており、クラウドプラットフォームの新しいセキュリティモデルに関する理解不足もその一因だ。米国政府は3種のクラウドプラットフォームがFederal Risk and Authorization Management Program(連邦リスクおよび認証管理プログラム)のHigh Baseline Requirements(高ベースライン要件)を満たしていることを発表した。この基準は、機密データを保護する包括的なセキュリティ管理要件を網羅するものだ。
Capital OneやGE、その他、大規模公的機関も含む多くの先進的組織は、標準化インタフェースやAPIを提供するツールとサービスを利用して、アジリティとセキュリティの向上を実現し続けている。今後は機械学習やデータ分析などのビジネス向けサービスに投資する大企業がさらに増えていくだろう。
アレックス・ウィザースプーン氏
クラウドにする方が常に安価で優れているという誤解があるようだ。私自身はクラウドが好きだし、クラウドに投資し、仕事でもかかわっている。ただ、考えられるビジネスユースケースについてベンダーと話をしても、「それを解決するにはこれを導入すればいい」というわけにはいかない。「当社の7つの製品の機能を組み合わせて設計・構築し、それでうまくいくか見てみよう」となるのが通例だ。アプリケーションを適切に動作させるには導入に多大な労力が必要になる。
クラウドは革新を起こし、ビジネスに勝利をもたらしてくれるかもしれない。ただしその成否は使い道によって大きく左右される。クラウドプロバイダー各社はそれぞれ差別化を図っており、解決すべき問題とそれを解決できる最適なツールを見つけることが今後の課題になるだろう。AWSのようにあらゆる用途に対応する汎用サービスを採用するのか、それとも「特定のクラウド機能に」特化したサービスを検討するのかが問題だ。
一口にクラウドと言っても、多数あるクラウドプロバイダーにはそれぞれ違った特徴があり、それをよく見極めることが重要だ。好みのクラウドにいきなり飛び付き、漫然と使っている企業があるようだが本当に解決したい問題は何なのか、それに特化したクラウドプロバイダーはどこなのか、もう少し検討してみるべきだろう。AWSは多方面に対応しようとしているが、専門分野に特化した小規模なプロバイダーもある。そうした特定分野にはプロバイダーの資金が投入されており、だからこそ利用者もそこから最大の投資利益を得られる。
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