【徹底比較】充実の「マネージドクラウド」14社を“クラウドらしさ”で比較ユーザー企業が“本当に欲しい”クラウドを探る【前編】

業務システムで利用可能なITインフラとして「マネージドクラウド」に焦点を当てる。ユーザーにはどのようなサービスの選択肢があるのか。前編では“クラウドらしさ”をテーマに比較した。

2014年09月24日 12時00分 公開
[加藤 章電通国際情報サービス]

おわびと訂正(2014年9月26日17:00)

日本ヒューレット・パッカードのサービスについての記述は、企画テーマの認識について行き違いがあったため、編集部の判断により削除しました。それに伴い記事タイトルを修正しました。ご迷惑をお掛けしました。

修正前:【徹底比較】充実の「マネージドクラウド」15社を“クラウドらしさ”で比較

修正後:【徹底比較】充実の「マネージドクラウド」14社を“クラウドらしさ”で比較


 この1年間で日本企業のITインフラをめぐる状況は大きく変わった。パブリッククラウドが人口に膾炙(かいしゃ)するようになったのは数年前だが、その後、指数関数的に事例が増えている。台風の目は「Amazon Web Services」(以下、AWS)であることは間違いないだろう、筆者のところにも多数の相談が舞い込んでいる。

 しかしAWS(を始めとするIaaS)だけが唯一最良の解だと申し上げることは躊躇(ちゅうちょ)せざるを得ない。実際、TechTargetジャパンの調査でも、本特集のタイトルにもあるように「本当に欲しいクラウド」を希求する声も歴然と存在している(参考:私たちが本当に欲しいのは、パブリックよりも“わがままクラウド”)。「クラウドらしさを失わず、個別要求にも応えられる、そんなアウトソーシング」と言い換えられているようだが、そのようなサービスを本稿では便宜上「マネージドクラウド」と呼ぶこととする(参考:日本企業にウケる「マネージドホスティングクラウド」の秘密)。

 「クラウドらしさ」や「個別要求にも応えられる」というフレーズの厳密な定義はさておき、マネージドクラウドの需要に対し、ベンダーはどのような対応サービスを用意しているのだろうか。今般、TechTargetジャパンがベンダー14社を選定し、アンケート調査を行った。調査に当たっては、次のような「想定シナリオ」を置き、これを各社に伝えた上で、各サービスの特徴について回答してもらうという格好をとった。

想定シナリオ

 現在、オンプレミス(自社資産)で自社システムを運用しているユーザー企業(以下、顧客企業)が、クラウド/アウトソーシングサービスにシステムの移行を検討しています。所有から利用へ舵を切ることにしたきっかけは、ハードウェアの保守や調達コストの削減を期待してのことでした。顧客企業は、既存環境からの移行性や、残されたオンプレミスシステムとの連係が気掛かりです。また、最近、事業部門から寄せられる「迅速な対応」「ビジネスへの貢献」についてもプレッシャーを感じています。さらに、あまりコストは掛けられないまでも、災害対策にも関心があります。このような顧客企業から、貴社サービスについてさまざまな質問が寄せられていると想定します。


 調査対象としたベンダーおよびサービスは以下の通りである。

表1 ベンダー一覧(50音順)
ベンダー名 サービス名 記事中の略称
IDCフロンティア プライベートクラウド IDCF
伊藤忠テクノソリューションズ cloudage クラウデージ CTC
インターネットイニシアティブ IIJ GIOコンポーネントサービス IIJ
NEC NEC Cloud IaaS NEC
NTTコミュニケーションズ Biz ホスティング Enterprise Cloud NTTコム
KDDI KDDI クラウドプラットフォームサービス KDDI
KVH プライベートクラウド KVH
ニフティクラウド ニフティクラウド(専有コンポーネントサービス) ニフティ
日本アイ・ビー・エム IBM SoftLayer IBM
日本ユニシス U-Cloud IaaS ユニシス
日立製作所 Harmonious Cloud(プラットフォームリソース提供サービスサーバサービス) 日立
ビットアイル ビットアイルクラウド プラットフォームサーバ ビットアイル
富士通 FUJITSU Cloud Initiative(FUJITSU Cloud IaaS Private Hosted) 富士通
リンク ベアメタル型新アプリプラットフォーム リンク

 なお、比較の軸を厳密に一致させることは難しく、本項では定性的な評価にとどめている。特に価格面での評価は行っていないので、念のため申し添える。むしろ読者なりの「比較軸」の設定や、自社のニーズの見直し/優先順位付けの一助としていただければありがたい。また、記事中に登場する比較表は、サイト幅の都合上ダウンロード形式で提供する。TechTargetジャパン会員であれば無料でダウンロード可能だ。

比較表のダウンロードはこちら(会員限定、無料)


 では、調査結果を見ていこう。

クラウド ナビ


ユーザー企業数に大きな差

 現状、各社のサービスが抱えているユーザー企業数について質問をしたが、「非公開」としたベンダーが4社あった。また、契約数での回答や、アウトソース事業全体(マネージドクラウド事業を含む)での回答もあった。新サービスリリースから数カ月しか経ていないリンクの20社から、NTTコムの4700社、ニフティの3000契約と、回答には幅がある。大手ハードウェアベンダー系事業者が、長い歴史を誇りながら(2008〜2009年に事業開始)、実績としては「数百」という記述にとどまっている点は興味深い。この場合、利用者層は大企業〜官公庁に寄っているようである。

ユーザー業界にも顕著な違い

 「主要な顧客の業界」や「得意領域」について尋ねたが、ここは大きく2つに割れた感がある。Web系、広告系、モバイルアプリ、オンラインゲームなど、インターネット上で公開される(主としてB2C型の)サービスの基盤となっているサービス(IDCF、KDDI、ニフティ、ビットアイル)と、前項の末尾に記載したような企業内システムをガッツリ預かるタイプ(KVH、NTTコム、ユニシス、日立、CTC、富士通)がある。IIJ、NEC、IBMはどちらの事例も多いことが読み取れる。

 なお、2つに割れたと書いたが、現状の顧客層が上記分野に多いというだけであって、もう一方の使い方が全く不可能というわけではない。多少は得手不得手もあるだろうが、どのサービスも本質的には「ネットワーク経由でデータセンタ上のリソースを使わせるサービス」であり、用途の汎用度は高いことは間違いない。ユーザー業界の差が生じるとすれば、「マネージド」サービスのレベル感や、各社のマーケティング戦略、営業戦略によるところが大きいのではないか。以前取材したIDCFでは、本来、エンタープライズの基幹系ユーザーを想定していたが、結果的にWeb系のユーザーが多くなっているという話も聞いた。案外偶然に左右される面も大きいのかもしれない。

基幹系に自信はあるか

 「得意領域」に基幹系と明記してきたベンダーは多い。前述の通り、どのベンダーも「やろうと思えばやれる」ことは間違いなさそうだ。中には「社会インフラ」(NEC)、「大企業基幹系のミッションクリティカルシステム」(ユニシス)、官公庁や大企業などの超大型利用(日立)を掲げたベンダーもある。金融・公共部門などでの長年の経験を生かしているものと推察される。

データセンター性能は十分

 意外と差が出なかったのが、サービス拠点たるデータセンター関連の特性だ。発展途上のリンクを除き、どのベンダーも複数拠点でサービス提供を行っている。ユーザーがクラウド利用の「ついで」に事業継続計画(BCP)/災害復旧(DR)対策も検討したいという話はよく聞く。複数のデータセンター利用が低コストで行えるのであればよりクラウドらしく、有益といえる。

 国内のみならず海外にも拠点を持っているサービスも見受けられた(IIJ、KDDI、NTTコム、富士通)。逆にIBMは現時点では日本国外にしか拠点がなく、日本のユーザーの利用は限定的となるように感じられる。ただ、IBMは2014年内に日本拠点を開設するとアナウンスしている。いずれも早期の日本上陸を期待したい。

 データセンターが取得している第三者認証のレベルは、各社いずれも一定水準以上に保たれているようだ(IDCFのセンターを利用しているリンクも同様)。ベンダーにおいて、この点は差別化が難しく、逆に言うとユーザー側が精査する労力は大きく減っているといえるだろう。

インスタンスのメニュー

 さて、徐々にクラウドらしいサービスに踏み込んでいこう。まずは提供されるサーバについて概観する。サーバ類は、KVHを除き、メニュー化されている。比較検討する際に留意点があるとすれば、各社の名称がバラバラだということだ。次のような例がある。

表5 インスタンスのタイプ
インスタンスのタイプ 事業者
Vシリーズ(仮想化タイプ)/Xシリーズ(専有タイプ) IIJ
Virtual Servers/Bare Metal Servers IBM
仮想マシン/専用物理サーバ IDCF
サーバ(共有)タイプ/専有サーバ ニフティ
仮想サーバ/専用サーバ KDDI
仮想サーバ/専有サーバ NEC
ベストエフォート型/リソース保証型(どちらも仮想化サーバ) CTC

 ユーザー企業側は個々のサービスの特性を理解した上で、比較検討を進める必要がありそうだ。次表に「仮想/物理」×「共有/専有」という軸でサーバのタイプを3種類想定し、その特性を整理した。各社のサーバが全てこの表の上にマッピングされるわけではないが、この表をベースとしたバリエーションとして考えていけば理解が進むと思われる。

表6 インスタンスタイプ別用途《クリックで拡大》

 インスタンスのバックアップイメージはどうだろう。オンデマンドでイメージを作る機能と、イメージから新たなインスタンスを迅速に起動する機能は、ユーザーが求める「クラウドらしさ」の1つではあろう。業務システムの本番系では考えにくいかもしれないが、開発環境やWebサービスなどの用途では必要不可欠といえる。意外なことに幾つかのサービスではサーバイメージの取得をオプションとしている。取得方法もオンデマンド/セルフサービスとするものから、電話/メールでの依頼ベースでベンダー側作業としているものもあった。マネージドの「おまかせ感」をどこまで求めるかという問題や、クラウド利用の用途(どのようなシステムを載せるのか)の問題、非常時にどこまで迅速性が必要になるかという想定の問題もあろう。サービス選定の際の重要なファクターになるのではないかと考えさせられた次第だ。

 その他、「WANの延伸はできるか」「ユーザーのプライベートIPアドレスは持ち込めるか」など、ネットワークまわりの基本的な部分について「できない」という回答はなかった。この設問は愚問だったかもしれないと少し反省している。多少意地の悪い質問として「Oracle DatabaseのRAC(Oracle Real Application Clusters)は組めるか」という質問も用意したが、「仮想サーバではできないが物理なら問題ない」「オプションで可能」「構成次第」「個別対応で可」ということで、各社、基本的に前向きな回答であった。逆に「超高速の共有ディスクで(Oracle RACを)提供可能」というアグレッシブな回答(NTTコム)もあった。

最小契約期間

 「クラウドらしさ」のもう1つの側面である「いつでも始められ、いつでも止められる」という特性だ。前項同様、あまり短期間の利用は業務システムの本番系では考えにくい(永続的に利用する想定だ)が、解約前のノーティス期間や、開発環境などが急きょ必要になった場合などを考えると気になるところだ。

 ここはベンダーによって結構バラつく結果となった。1年(IDCF、KVH)、1カ月(IIJ、ユニシス、CTC、日立の一部)、1日(KDDI、富士通、日立の一部)、期間設定なし(あるいは1時間)(NEC、NTTコム、ニフティ、ビットアイル、リンク)となった。なお、IIJは「解約時は日割り計算する」と明記していた。

 最小契約期間が長いと見劣りするというわけでもない。パブリッククラウドの雄であるAWSでもエンタープライズ利用、とくに本番系では「リザーブド」インスタンスの利用が推奨される。24時間稼働が前提なら最小1年単位で、「重度リザーブド」が有力な選択肢となるが、途中解約は必ずしも平易とは言い難い(権利を他社に転売するという格好になる)のが現状だ。

 以上、調査結果より、まずは各社サービスの「クラウドらしさ」について概観した。次回は「マネージド」を意識した特徴を比較する。

加藤 章(かとう あきら)

株式会社電通国際情報サービス クラウドストラテジスト

システム開発のPMやビジネスコンサルティング、戦略ITコンサルティングなどを経て、現在はクラウド関連の事業開発に従事。パブリッククラウド活用に軸足を置き、各種調査、ビジネス開発、情報発信なども積極的に行っている。TechTargetジャパンでは2010年6月から連載「企業向けシステムを構築するパブリッククラウド」を執筆中。


著書『Amazon Web Services入門〜企業システムへの導入障壁を徹底解消』(2014年8月)、好評発売中。


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