英国の規制当局がクラウドサービス市場の暫定的な調査結果を発表し、「市場競争が十分に機能していない」と主張した。指摘を受けたAWSとMicrosoftは、調査結果や措置の方針に反発している。それぞれの“言い分”は。
英国競争市場庁(CMA)は2025年1月28日(現地時間)、英国のクラウドサービス市場に関する暫定的な調査結果を発表し、「市場競争が十分に機能していない」と指摘した。CMAの独立調査グループで議長を務めるキップ・ミーク氏は、「2024年デジタル市場・競争・消費者法」(Digital Markets, Competition and Consumers Act、以下DMCCA)に基づき、大手クラウドサービスベンダーへの措置を検討するよう、同庁の理事会に提言している。暫定的な調査結果や措置の方針に対し、Amazon Web Services(AWS)は「正当化されるべきではない」、Microsoftは「的外れだ」と反発している。三者の“言い分”はどのようなものか。
7ページの暫定報告書によると、クラウドサービス市場における競争が欠如しているため、英国のエンドユーザー全体が年間数億ポンドを余分にクラウドベンダーに支払っている可能性があるという。
報告書は、特にAWSとMicrosoftを取り上げ、両社が「一方的な市場支配力」を持っており、英国のクラウドサービス市場に悪影響を及ぼす恐れがあると指摘。「両社の寡占により、新たなクラウドベンダーが市場に参入して成長することは難しくなり、エンドユーザーは限られた選択肢の中からしか選ぶことができなくなる」と主張する。
技術的および商業的な障壁があるために、「英国のエンドユーザーは最初に導入したクラウドベンダーのサービスに縛られる可能性がある」とも報告書は指摘。「より低価格、革新的なクラウドサービスを提供するベンダーに乗り換えることが難しくなっている」とみる。
報告書は「AWSとMicrosoftは長年、クラウドサービスにおける資本コスト(事業運営のために必要な費用)を大幅に上回る持続的な収益を上げてきた」と主張する。「エンドユーザーは、クラウドサービスが品質とイノベーションの両面で価値を提供していると評価している。しかし、より競争的な市場であれば、より競争力のある価格設定や、さらなる品質の向上、イノベーションの促進が実現していたと考えられる」という。
報告書は、Microsoftのライセンス慣行についても言及している。Microsoftは、エンドユーザーが競合他社のクラウドサービス上でMicrosoftのソフトウェアを実行する際、追加料金を請求している。このことがAWSやGoogleを市場から部分的に締め出し、両社の競争上の地位に影響を与えていると指摘する。
このライセンスに関する問題は、CMAの調査対象となっているだけでなく、2024年9月にGoogleが提出した欧州委員会への申し立ての対象にもなっている。
報告書は「(このライセンスの問題は)Microsoftの一方的な市場支配力に関連するものだ。市場集中と参入障壁から生じる悪影響を助長させている」と言及した。
この状況を改善するため、2025年1月に施行されたDMCCAに基づき、CMA理事会がAWSとMicrosoftを「戦略的市場地位」を有するベンダーに指定するよう、報告書は提言している。これによって、CMAは両社に対して法的拘束力のある行動要件や競争を促進させる介入をし、両社が市場に及ぼしたとされる影響を制限・是正できる。
報告書は「AWSとMicrosoftを対象とした措置は、英国のエンドユーザーの大部分に直接的な利益をもたらし、他のベンダーにも間接的な効果を及ぼすため、市場全体の懸念を払拭できる」と述べている。
CMAが措置を講じる前に、調査の暫定的な結果については協議が必要だ。CMAはクラウドサービス市場の利害関係者に対し、これまでの調査結果についてフィードバックを求めている。最終報告書は2025年8月4日までに公表する計画だ。
AWSは、CMAの暫定的な調査結果に対し、DMCCAに基づく介入は「正当化されるべきではない」と主張。そのような措置の長期的な影響を検討するよう求めている。
AWSの広報担当者は「他の分野における規制介入が、どれほどイノベーションを妨げ、最終的に英国のエンドユーザーに損失を与えるか、慎重に検討するようCMAに求める」と説明。「最終報告書に向け、CMAと建設的に協力を続けていく」と付け加えた。
Microsoftのリマ・アライリー氏(競争および市場規制グループ担当コーポレートバイスプレジデント兼副法務顧問)は、英Computer Weeklyに対する声明で、CMAの報告書の内容は「的外れだ」と指摘する。
アライリー氏は「(報告書は)前世紀に発売された従来製品に固執するのではなく、英国のAI(人工知能)主導の未来を切り開くことに焦点を当てるべきだ」と強調する。同氏は「クラウドサービス市場は、これまでになく活発で競争的であり、巨額の投資、新規参入、急速なイノベーションが起きている。英国のビジネスと政府にとって、これ以上良いことがあるだろうか」と問い掛けた。
一方、Google Cloudのクリス・リンゼイ氏(欧州・中東・アフリカ地域担当カスタマーエンジニアリング部門バイスプレジデント)は、Microsoftの制限的なライセンス慣行がエンドユーザーに与える影響について、CMAが調査していることを評価する。
リンゼイ氏は「制限的なライセンス慣行は英国のエンドユーザーに損失を与え、経済成長を脅かし、イノベーションを阻害する。CMAがこれらの慣行による損失を認識したことを心強く感じている」と述べている。
TechTarget.AI編集部は生成AIなどのサービスを利用し、米国Informa TechTargetの記事を翻訳して国内向けにお届けします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
契約業務の効率化やコストの削減といった効果が期待できることから、多くの企業で「電子署名」の導入が進んでいる。一方で、訴訟問題へと発展した際に証拠として使えるのかといった疑問を抱き、導入を踏みとどまるケースもあるようだ。
半導体ベンダーBroadcomは仮想化ベンダーVMwareを買収してから、VMware製品の永久ライセンスを廃止した。その永久ライセンスを継続する非公認の方法とは。
システム基盤をオンプレミスで運用するか、データセンターやクラウドで運用するかは、業種によって大きく異なる。調査結果を基に、活用の実態を探るとともに、最適なクラウドサービスを考察する。
SaaSサービスが普及する一方、製品の多様化に伴い、さまざまな課題が発生している。特にベンダー側では、「商談につながるリードを獲得できない」という悩みを抱える企業が多いようだ。調査結果を基に、その実態と解決策を探る。
生成AIの活用が広がり、LLMやマルチモーダルAIの開発が進む中で、高性能なGPUの確保に問題を抱えている企業は少なくない。GPUのスペック不足を解消するためには、どうすればよいのか。有力な選択肢を紹介する。
いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは
遠隔のクライアント端末から、サーバにあるデスクトップ環境を利用できる仕組みである仮想デスクトップ(仮想PC画面)は便利だが、仕組みが複雑だ。仮想デスクトップの仕組みを基礎から確認しよう。
「マーケティングオートメーション」 国内売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、マーケティングオートメーション(MA)ツールの売れ筋TOP10を紹介します。
「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。
「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。