IoTビジネスはもう始まっている【前編】
大阪ガスの「エネファーム」に学ぶ、IoTマネタイズのヒント(1/2 ページ)
家庭用燃料電池「エネファーム」を使ったIoTビジネスを、企画開始から5カ月で達成した大阪ガスの事例を紹介する。IoTビジネスのアイデアをどう具現化し、どんなビジネスメリットを生み出したのか。
「IoT(モノのインターネット)」に本格的に取り組む企業が増えている。IoTは、あらゆるモノをインターネットに接続し、データを収集したり、相互に通信させたりする技術だ。IoTによって遠隔操作や自動制御、自動認識などを可能にし、人が介在しないことによる効率化やコスト削減の実現、新しいビジネスチャンスをもたらすと考えられている。
アマゾンウェブサービスジャパン 代表取締役社長の長崎忠雄氏は、2016年9月9日に開催した同社のイベント「AWS ソリューション Day 2016」において、「日々お客さまと話していて、IoTという言葉が出ない日がない。それほどまでにIoTはあらゆる企業にとって大きな関心事になっている。ちょうど4年前のビッグデータに対する関心と似ている」と話す。ビッグデータが話題になった時と同様、現在多くの企業はIoTをどうやって経営に生かすかで悩んでいる。モノにセンサーを付けてデータをためるだけでは、お金にはならない。IoTによって集めたデータを保存するだけでなく、分析や処理を通じて価値を引き出す必要がある。
IoTビジネスに取り組むに当たっては、どのようなITインフラを構築するかも重要なテーマだ。IoTビジネスは新しい取り組みで、どれくらいの効果が出るかが見通しづらい。「従来型のオンプレミスでインフラを構築し、初期投資を掛けるよりは、クラウドを使ってスケーラビリティやアジリティ(敏しょう性)を確保した方が得策」というのが長崎氏の主張だ。同イベントでは、実際に同社のクラウドサービス「Amazon Web Services」(AWS)を使用してIoTビジネスを成功させつつあるユーザー企業2社が講演した。本稿では前後編にわたって2社の事例を紹介する。
マネタイズを示せるか、「エネファーム」IoT企画が通るまで
大阪ガスは2016年4月、家庭用燃料電池「エネファーム」にインターネット接続できる機能を追加。IoTを活用した新サービスの提供を開始した。大阪ガス リビング事業部の藤田敦史氏はイベントで、実際に取り組んでみて分かったIoT活用の課題や成功のポイント、またIoTサービスの提供によって得られた効果を具体的に紹介した。
エネファームにIoT機能を持たせる企画が立ち上がったのは2014年初頭にさかのぼる。藤田氏は、まずはエネファームのIoT対応で何ができるのかを検討し、
- 機器のメンテナンス効率化
- ビッグデータのマーケティング活用
- スマートフォンアプリによる機器の機能拡張
- 自社構築アプリ・システムの他社への有償提供
といった企画案を経営幹部に説明した。しかし反応はイマイチで、「ここまでする必要があるのか」「本当に実現できるのか」など、企画自体に辛辣(しんらつ)な意見も寄せられた。藤田氏は「エネファームのIoT対応は、決して順風満帆な船出ではなかった」と振り返る。
その後も数カ月間、何度も企画提案したものの、経営層をなかなか納得させることができず、「いったん引いて、家庭用機器をIoT対応する上での課題をあらためて考えてみた」という藤田氏。そして「産業用機器のIoT対応は必要性が高く、効率化という効果からマネタイズが見込める。一方で家庭用機器のIoT対応はあれば便利にはなるものの必要性が低くマネタイズも困難」という考えに至った。
家庭用機器のIoT対応には「必要性」と「マネタイズ」という2つの課題を解決することが重要だと判断した藤田氏は、エネファームのIoT機能に産業用機器の特性を取り入れることを検討した。エネファームの故障診断には、一般ガス機器と比べて解析スキルが必要である点、故障の可能性がある複数の部品をあらかじめ準備して現場に訪問する必要がある点、部品交換後、起動から発電完了確認まで時間がかかるため現地待機が必要になる点を踏まえ、IoTによるメンテナンス業務の効率化がマネタイズにつながることを見いだした。
最終的には、「メンテナンス業務の効率化」と「スマホアプリなどによる機能拡張」という、産業用と家庭用の要素をミックスし、IoTの必要性とマネタイズの実現性を示せた。これが決め手となり、企画検討開始から1年を経て、エネファームのIoT対応にゴーサインが出ることとなった。
どうやってIoT対応エネファームを普及させたか
エネファームのIoT対応に当たっては、産業用と家庭用の両方の観点から、ユーザーに求められる要素を洗い出し、「信頼性」「常時接続」「低コスト」「拡張性」の4点を重点要件として定義した。これらの要件を満たすことを必須条件として、IoTを実現する商品やシステム構成を作った。具体的にはエネファーム本体と「台所リモコン」(注1)、専用無線LANモジュール、AWSの仮想サーバ、スマホアプリで構成する。台所リモコンに無線LANモジュールを内蔵し、利用者の無線LANまたはインターネット環境を利用することで常時接続を実現した。無線LANモジュールは、各メーカーの台所リモコンに共通で搭載できる専用モジュールを開発。またサーバにはシステムの迅速な拡張が可能なAWSを採用し、無線LANモジュールとの間を独自仕様の通信で接続することで、エネファームのデータ収集時の信頼性を担保した。
※注1 自宅でつくったエネルギー量や使用したエネルギー量を確認するための、台所や浴室に設置するリモコン。
しかし、エネファームを単にインターネットに接続しただけでは、メンテナンス業務の効率化、ひいてはマネタイズにはつながらない。「IoT対応したエネファームを多くのユーザーに普及拡大し、その上でいかにインターネットへの接続率を高めていくかが重要なポイントになる」と藤田氏は指摘する。
これに向けて同社はエネファームの販売体制を強化した。既存ユーザーにはサービスショップや流通を通じて、新規ユーザーにはハウスメーカーや工務店、デベロッパーを通じてIoT対応エネファームを標準提案し、2016年度末までに1万5000台を設置できる見込みだ。またインターネット接続率の向上を図るべく、同社のサービスショップなどがエネファーム設置時にインターネット接続作業を実施。サポートについても、専門業者のNTTフィールドテクノとの協力体制を構築した。この結果、IoT対応エネファームのインターネット接続率は約80%にまで達したという。藤田氏は「IoTの導入効果を最大化できるかどうかは、販売力と顧客接点を生かした“現場力”がカギを握る」と、IoT活用を成功に導くポイントを分析する。
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