製薬企業のマーケティングを変えるデータ活用【第3回】
医療従事者向け情報提供ツールの膨大な選択肢から効果的な手段を選ぶコツ
eディテーリング(電子的な情報提供活動)ツールやメルマガ、オウンドメディアなど、MR(医薬情報担当者)から医療従事者に向けた情報提供ツールは多くの種類があります。目的に応じた効果的な選び方を紹介します。
連載について
製薬企業のプロモーションの在り方や行動基準を示した「医療用医薬品プロモーションコード」の厳しい規制の下で、製薬企業のMR(医薬情報担当者)やマーケティング担当者は適切な情報提供の在り方を模索している。eディテーリング(電子的な情報提供活動)ツールやメールマガジン、オウンドメディアなど、さまざまな情報提供の効果を判定するためには各活動の中で得られたログの分析が必要だ。だが十分な分析ができており、かつ分析結果を十分に活用できている製薬企業は多くない。
本連載では、製薬企業の医療用医薬品ビジネスにおけるB2Bマーケティングの現状と課題を整理し、ITツールやデータの活用によってマーケティングの投資効果を高める解決策を探る。
製薬企業から医療従事者への情報提供に当たっては、MR経由、本部経由それぞれで多くのツールが存在しています。これらのツールを介して提供される情報は、ほぼ全てデジタルデータであり、ログ解析によってデータの集約、分析が可能です。各ツールの情報をつないで、各医療従事者にとって最適な情報を迅速かつ的確に提供していくこともできるようになってきました。
逆に言うと、製薬企業のマーケティング担当者はこれら全てのデジタルデータをプライベートDMP(注1)にストックし、最適な情報設計をした上で、データをつないで活用しなければならない大変な時代に突入した、ということでもあります。
注1:自社独自で保有するデジタル情報資産を蓄積し管理するプラットフォームのこと。DMPは「Data Management Platform」の略。
一昔前の製薬企業のマーケティングは紙資材が中心でした。現在では、皮肉なことに便利なツールが増えるにつれて、ストラテジーが複雑化し、費用対効果が図り辛く、戦略も描き辛くなっているように見受けられます。
しかし図1の中でも、主要な情報提供ツールは幾つかに絞られます。次の4つが主なものです。
- MR発信のeディテーリングツール
- 本部発信のオウンドメディア
- 外部の医療従事者向けWebサイト
- 法人向けメッセージングツール(LINEなど)
表1は、筆者の私見でまとめた、これら4ツールの特性を比較した表です。
| ツール | 情報提供形態 | 情報提供頻度 | 1回で提供できる情報量 | 導入コスト | 処方への効果 |
|---|---|---|---|---|---|
| eディテーリングツール | プッシュ型(MRが訪問し、情報提供) | 1~2週に1回程度 | 中~多い | 大 | 大 |
| 医療従事者向けWebサイト(オウンドメディア) | プル型(情報を求める際に閲覧)、プッシュ型(メルマガ配信) | 週1回程度のメルマガ配信 | 多い | 小~中 | 小~中 |
| 外部の医療従事者向けWebサイト | プッシュ&プル型(メルマガで訴求後、Webサイト訪問) | 週1回程度のメルマガ配信 | 中~多い | 中~大 | 中 |
| 法人向けメッセージングツール(LINEなど) | プッシュ&プル型 | 毎日可能 | 少ない~中 | 中 | 中~大 |
表2は、各ツールで取得できる情報の内容とログの活用状況をまとめました。ログの収集については、取得方法も重要なポイントです。媒体によって、有効な取得方法は異なります。
| 媒体 | データの取得方法 | 得られる情報 | ログの活用状況 |
|---|---|---|---|
| eディテーリングツール | 訪問の際にMRが入力 | ・提供した情報(種類、表示時間など) ・医療従事者の反応 |
機能的には可能だが十分活用できていない |
| 医療従事者向けWebサイト(オウンドメディア) | 自社が運営する医療情報会員制WebサイトのIDを入力することで収集 | ・閲覧ログ情報 ・メルマガに対する反応 |
単純なアクセス解析などはできていても、個別のログ活用はほとんどできていない |
| 外部の医療従事者向けWebサイト | 自社が運営する医療情報会員制Webサイトのアカウント情報と外部の医療情報会員制Webサイトのアカウント情報を結び付けることにより収集 | ・各コンテンツの視聴状況 | 自社取得ログとの統合的な活用は十分にできていない |
| 法人向けメッセージングツール(LINEなど) | 自社が運営する医療情報会員制Webサイトのアカウントを入力することで収集 | ・法人向けメッセージングツール(LINEなど)に表示した情報 ・情報に対するアクション(アンケート回答、URL遷移など) |
今後活用されていくと想定 |
筆者の私見では、効果的にログ活用ができている企業はまだまだ多くないと考えます。本来であれば、しっかりログ解析をした上で情報戦略を設計し、活用するツールを決めるべきです。しかし、今日や明日にもすぐに結論や成果を出さなければならない場合もあるでしょう。各ツールを使用した場合の情報発信のイメージを図2のようにまとめます。
前述の通り、医療従事者に提供できる機会や提供できる情報の中身は、それぞれのツールで異なります。最も細やかな情報提供ができる方法は、MRが医療従事者を直接訪問することでしょう。ただしeディテーリングツールを持参してMRが直接医療従事者を訪問できるのは、現実的には2週間に1回程度です。
オウンドメディアは、じっくりと読みこんでもらうような情報提供が可能です。ただし基本的に、医療従事者が能動的にWebサイトを訪問した場合にのみ、当事者が求める情報を提供することが可能な媒体です。
オウンドメディアおよび外部の医療従事者向けWebサイトのメールマガジンでは、プッシュ型の情報提供が可能です。ただし読まれるかどうかはコンテンツの内容によるため未知数で、かつ1週間に1~2回程度の情報提供になるでしょう。
情報の頻度という意味でアドバンテージがあるのは、「LINE」のようなメッセージングツールです。例えばLINE経由で情報提供する場合は、情報量こそ少ないものの、毎日小まめに情報を送っても相手へのストレスは多くないと考えられます。既に数社、LINEで医療従事者向けの情報提供を始めた製薬企業が登場しました。かつてはMRが毎日のように担当医療従事者を訪問していた時代もありましたが、それに近い状況をデジタル環境で作り出すことが可能です。LINEをはじめとするメッセージングツール自体の個人生活への浸透度を考えると、今後さらに取り組みが進むものと考えられます。
医師のニーズをよく理解する能力
第2回「製薬企業のMRが、ITツールを使いたがらない“残念な”理由」の図1「最も情報提供頻度が高い製薬企業MRの印象に当てはまる要素」の「医師のニーズをよく理解する能力」に関連する話題を紹介します。
各製薬企業は現在取り組んでいるデジタルマーケティングによって、ターゲットである医療従事者の行動ログデータを蓄積しつつあります。そのログ情報をMRが医療従事者に対して共有することを控えている企業が少なくないようです。
確かに、MRがログ情報を基に「先生、この前、このWebページを閲覧しましたね」などと言ったら、医療従事者も「気持ちが悪い」と感じるかもしれません。それでも、医療従事者のニーズをよく理解するためには、行動ログデータの活用を積極的に検討することを推奨します。
例えば前述のようなログデータ共有の問題は、MRと医療従事者とのコミュニケーションの取り方やMRに開示するデータの在り方など、システムの作り方で解消できるはずです。ログデータを活用することで、医療従事者に対して迅速な対応やニーズをとらえた営業活動につながり、最終的には長期的な顧客満足度の向上につながっていくと考えられます。
ITツール活用は否応なく進んでいます。マーケティング本部側にとっても、MR側にとっても、これらをうまく使いこなすためには、まだまだ多くのハードルがあるようです。プライベートDMPやデジタルデータ活用の仕組みが本当の意味で整った暁には、現場ではもっと効果的なコミュニケーションが生まれてくるでしょう。
次回は「薬剤処方増加への貢献度を測るさまざまな分析」について解説します。
比屋定 航(ひやじょう・わたる)
WHITE メディカルマーケティングチーム
大手映像系制作会社(プロデューサー)を経て2010年よりスパイスボックスへ入社。その後、親会社である博報堂に常駐し、大手製薬企業の患者・医科向けのデジタル施策に広く関わる。2015年12月にスパイスボックスでメディカルマーケティング事業部を立ち上げる。その後、DTC(医療用医薬品の患者向け広告)パッケージ、企業と患者のコミュニケーションサービス「LINEビジネスコネクト」のメディカルパッケージなど、メディカル業界向け商品をリリース。2016年10月にVeeva Japanとも戦略的なパートナーとして業務提携を締結。患者向け、医療従事者向けともにメディカル業界向けの情報フレームワーク設計や疾患別態度変容率調査データなどをベースとしたコンサルティング、戦略設計、企画、制作までワンストップ対応ができる体制を確立。
大須賀 智哉(おおすか・ともや)
WHITE ストラテジック・プランナー
国内大手システムインテグレーターにて大規模システム構築やITコンサルに従事し、2015年にスパイスボックス入社。その後、親会社である博報堂に常駐し、大手製薬企業の患者・医科向けのデジタル施策に広く関わる。2015年12月からスパイスボックスのメディカルマーケティング事業部。主に製薬企業のデジタルマーケティングにおける戦略策定部分を中心に、患者・医師向け調査、ターゲットセグメンテーション、KPI策定、効果検証スキーム構築などに強みを持つ。2016年には、一般生活者6万サンプルを対象とした疾患別態度変容調査を企画・運営し、定量的データを基に、患者向け施策のプランニングを行う。
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製薬企業のマーケティングを変えるデータ活用
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