0.5歩先の未来を作る医療IT
診療予約システムに見る、医療とITの良い関係 ポイントは「患者の来院管理」
「集患」と「待ち時間」という、クリニック経営の代表的な課題を、ITはどのように解決するのでしょうか。
前回の「医療ITが普及する5つの条件とは? 遠隔診療を例に考える」では、遠隔診療を例に医療におけるIT化の普及条件について考えてみました。その際、IT化の普及条件として、次の5点を挙げました。
- ITを活用することで明らかな効果が見込める
- ITを活用しなければ実現が難しい
- 規制緩和など政府の後押しがある
- 誰でも気軽に導入できる操作性と価格が担保されている
- 患者にとって有益である
これらの条件をクリアできるIT化は、これまで「遠隔診療」以外で出てこなかったのでしょうか。かつてのレセプトコンピュータ(以下、レセコン)は、この条件をクリアしていたため、普及が進みました。一方で、レセコンの次のシステムとして近年のIT化の中心的存在である電子カルテは、どちらかと言えばマイナスイメージを持たれています。例えば「電子カルテを導入すると医師の負担が増える」「電子カルテを導入しても収益につながらない」といったことです。
IT化は本来、業務を効率化し、収益につながるもの
業務を効率化して収益改善(向上)につながるようなIT化でなくては、投資に値しないことは誰もが分かっています。そうした意味では、電子カルテを導入する“だけ”では効果が見えにくかったのだといえるでしょう。
狭義では、電子カルテは「カルテのデジタル化」を意味しており、欧米ではファイリングシステム、あるいはEHR(Electric Healthcare Record)と定義されています。この定義を借りるならば、カルテのファイリングシステムとしての機能しか持たない電子カルテを導入するだけでは、ペーパーレス程度の効果しか見込めず、投資効果はそれほど高くないことが容易に想像できます。
一方、広義の電子カルテは医療機関の中核システムとなります。さまざまなシステムの中心的なハブの役割を担うわけです。
わが国のクリニックにおける電子カルテは、大抵はレセコンの延長線上に存在し、ファイリングシステムと請求システムを組み合わせたものだと理解されてきました。明確な効果も、政府の後押しも、患者からの指示も得られず、普及が進まなかったのではないでしょうか。
PMS(病院向け経営支援システム)という新たな分野
欧米でクリニックを開業する際に必要なシステムは次のようなものです。
- 請求システム
- ファイリングシステム
- PMS(病院向け経営支援システム)
日本のクリニックの場合でも、開業時にはレセコン、電子カルテ、PACS(画像ファイリングシステム)を導入するのが一般的ですから、近い考え方といえます。しかしPMSについては、日本では概念自体もあまり認識されておらず、近年少しずつ認知が進んでいる、という印象です。
PMS、つまりPractice Management Systemの直訳は「業務管理システム」です。欧米ではPMSは、診療予約、経営分析、診療圏分析、患者コミュニケーションなど、経営や業務効率化に資するシステム全般を指しています。PMSを導入する目的は、ひとえに経営の効率化と収益向上のためです。本来、IT化が目指すべき目的そのものを反映したシステムだといえます。
「患者の来院コントロール」が経営課題を解決する
開業医にクリニック経営における現在の課題を聞くと、大抵の場合、真っ先に挙がるのは「集患」と「待ち時間」の問題です。開業して間もない医師や、なかなか思うように患者数が伸びていないクリニックにとっては前者が気になります。逆に、患者が多くて長い待ち時間が発生しているクリニックでは後者が課題となります。両者とも、クリニック経営において、「患者の来院コントロール」を課題だと考えているのです。
この課題に対しては、診療予約システムの活用が大いに力を発揮します。現在では、レストラン、ホテル、飛行機、新幹線などさまざまな場面で、インターネット予約システムが大きな効果を発揮しています。予約は消費者の数を平準化し、集中による弊害を緩和する効果があるのです。この流れは医療の世界でも着実に浸透してきています。
診療予約システムの導入効果
クリニックにおける診療予約システムの導入効果について考えてみましょう。診療予約システムは「時間」を押さえる予約と「順番」を押さえる予約の2つに区分できます。
「時間予約」は、予定時間通り診察をすることを、「順番予約」は、順番通り診察することを目的にしています。どちらにしても患者は、受診タイミングを時間あるいは順番で把握することができるため、クリニックの受診で1日が潰れてしまうといった無駄をなくすことができます。自分の時間(順番)が来たら、メール通知や番号呼び出しといった何らかのお知らせが患者に届くので、それに合わせてクリニックを受診すればよいのです。診療予約システムは、患者のベネフィットが高いシステムといえます。
一方で医療機関にとっても、診療予約システムを導入することで、時間(順番)通りに患者が来るようになるので、患者の一極集中が発生しなくなりスムーズな来院コントロールが可能になります。通常は順番で来院管理をしておき、空いている時間帯には時間予約を組み込むと、患者が空いている時間帯を狙って来院のタイミングを移動させることもあります。
診療予約システム導入の弊害は
一方、診療予約システムを導入することによる弊害はあるのでしょうか。例えばシステム導入当初は多かれ少なかれ、混乱が発生します。患者が新しいシステムに慣れるまでの一定期間はどうしても、操作を解説するための対応が求められるでしょう。これは患者がシステムに慣れるために必要な時間だと、割り切って考えることが大切です。
「高齢者が多いクリニックに診療予約システムは向かない」という意見も耳にします。高齢者は若い世代と比べて、ITに不慣れな傾向があるという考えが、その背景にあるようです。しかし実際に導入してみると、高齢の患者でもITが得意な人がいたり、子や孫が代わりに予約を取る場合もあったりすることから、システムは徐々に定着していくようです。
将来的には、診療予約システムを導入している医療機関の方が、導入していない医療機関よりも患者数が多いという状況が生まれるでしょう。
クリニックの経営課題に対してITが解決できることは
診療予約システムのように、ITによる経営改善効果が明確で、患者にとっても有益なシステムは、今後普及が進むことが予想されます。このように「クリニックの経営課題をIT活用で解決する」という関係が、医療とITの1つの理想形ではないでしょうか。
次回は、医療とITのより良い関係として「電子カルテやレセコンなどに蓄積したデータの活用」について考えてみます。
著者紹介
大西大輔(おおにし・だいすけ)MICTコンサルティング
一橋大学大学院MBAコース卒業。医療コンサルティング大手に入社。2002年に医療IT機器の常設展示場「MEDiPlaza」を立ち上げ、企画運営、スタッフ指導、拠点管理などを担当。2016年10月に医療ICT専門コンサルタントとして独立し、MICTコンサルティングを設立。医療機関向けシステムの開発アドバイス、導入アドバイス、医療IT人材の育成などを行う。過去2000件を超える医療機関へのシステム導入の実績から、公的団体を中心に講演を多数実施している。
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