開発者自らが語る
画面を閉じても止められないWebブラウザ攻撃手法「MarioNet」の危険性
「MarioNet」というWebブラウザベースの攻撃を研究者が作り出した。HTML5のAPIを悪用したこの手法は、Webブラウザのタブを閉じた後でも攻撃者が標的のシステムを悪用し、botネットを作成できる。
HTML5のAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)を悪用する新しい攻撃手法「MarioNet」が研究者によって開発された。この手法では、ユーザーが感染したWebサイトを閉じた後、あるいは他のサイトに移動した後でも、攻撃者がWebブラウザを介してユーザーに攻撃できるという。
ギリシャに拠点を置く研究者チームによると、MarioNetは悪意のあるWebサイトを介してシステムを侵害する。その影響はユーザーがWebブラウザのタブを閉じても持続する。「botネットを作成して攻撃の発生を連鎖させるために、攻撃者がMarioNetを使用する可能性がある」と、研究者チームは指摘する。
MarioNetによる攻撃は、バックグラウンド処理のための「Service Worker」というHTML5のAPIを悪用する。研究者チームは論文「Master of Web Puppets: Abusing Web Browsers for Persistent and Stealthy Computation」(Webの操り人形師:永続的かつ不可視のコンピューティングを実現するWebブラウザの悪用)の中で以下のように述べている。
Webブラウザはユーザーが操作しなくても勝手にService Workerを読み込む。それを仮想通貨マイニング、パスワードクラッキング、DDoS攻撃などの有害な操作にリソースを悪用するためのバックグラウンドプロセスとして使う
Service Workerは何をするのか
広告監査企業のThe Media Trustでデジタルセキュリティとオペレーションのマネジャーを務めるウスマン・ラヒム氏はこう説明する。「WebサイトとWebブラウザで実行する処理が分かれている場合、Service Workerは通常、洗練されたユーザーエクスペリエンス(UX:ユーザー経験価値)の実現のために使用される」
UXはプッシュ通知や継続的なバックグラウンド通知に加え、WebサーバとWebブラウザ間の通信によって向上する。継続的なバックグラウンド広告やプログラムによる広告を使用するWebサイトは、Service Workerを使用すれば、閲覧履歴に基づいてユーザーの興味に合わせた広告を作成できる。
セキュリティ的な理由から、Service WorkerはHTTPS経由でしか登録できない一方で、信頼できるWebサイトやドメイン経由でWebブラウザに登録されたService Workerは、ブラウザに常駐する。「信頼できるWebサイトは、プラグインや広告プログラムを実行するサードパーティーのJavaScriptを通じて簡単に侵害できる」とラヒム氏は説明する。
性善説では立ち行かない
研究チームによると、MarioNetは「Webコンテンツ制作者を暗黙的に信頼するモデルには欠陥があり、再考が必要」なことを示す証拠だという。
従来のbotネットのようなアプローチとは異なり、MarioNetによる攻撃では悪意のあるソフトウェアをユーザー側にインストールさせる必要はない。代わりに、最新のWebブラウザが備えるHTML5のAPIによって提供されるテクノロジーと機能を利用する。
「MarioNetの2つの大きな特徴は、攻撃の深刻さを際立たせる」と研究チームは述べる。特徴の一つは永続性だ。ユーザーが悪意のあるWebサイトから離れても、攻撃者は悪意のある処理を続けることができる。もう一つは、全ての操作を水面下で実行することで、既存ブラウザ内の検出メカニズムを回避することだ。
欧州連合(EU)のGDPR(一般データ保護規則)およびカリフォルニア州のプライバシー保護法では、Webサイト運営者とWebブラウザは、ユーザーの同意なしにService Workerを作成することはできないようにしている。「ユーザーの同意を得るか、ユーザーにオプトアウトを選択できるようにすることが求められる。このモデルの見直しは比較的早期に実施されるだろう」とラヒム氏は言う。
Webサイト運営者やWebブラウザのベンダーは、収集した情報をユーザーが削除できるようにしたり、その情報の販売を拒否したりできるようにする機能を提供すべきだ。原稿執筆時点でService Workerは、プッシュ通知に関してのみユーザーの同意を得ている。同意を得たりオプトアウトを有効にしたりするには新しいプロセスが必要になり、コストがかかる可能性がある。だが「この要件を満たさない場合は、さらに高くつくだろう」とラヒム氏は述べる。
ラヒム氏は「Webサイト運営者にとって、サードパーティー製のプラグインや広告が実行しているプログラムに注意を払うことは、MarioNetからの防衛において重要な役割を果たす」と付け加える。
Webサイトの運営者は、ユーザーがWebサイトにアクセスしたとき、特にプラグインや広告がある場合、「ユーザーに何が起こるかを注意深く監視することが最低限必要だ」とラヒム氏は指摘。このようなページを継続的にスキャンし、どのプログラムがどのような影響をユーザーに与えているのか、つまりコードがユーザーの知らないうちに情報を収集しているかどうか、どのような情報を収集しているか、悪意のあるドメインが関与しているかどうかなどを調べる必要があると説明する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社MatrixFlow] 「物流リソース最適化」ガイド:人員・配車・傭車を出庫依頼の確定前に決めきる -
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
3
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
4
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
5
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
6
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
7
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
8
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
9
「結局使わなくなる」Microsoft 365 Copilotを半年で定着 キリンの3施策
-
10
「中堅・中小企業のネットワーク・セキュリティ運用実態」に関するアンケート
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー