医療ITに革新をもたらす5G【前編】
医療機関がまだ高過ぎて導入できなくても「5G」に可能性を感じる理由
医療機関が安心して「5G」の導入に踏み切るには前例が必要だ。5Gの普及には時間がかかるため、事例は当分現れない可能性もある。それでも米国の医療機関CIOは5Gの可能性を信じている。それはなぜか。
医療機関のCIO(最高情報責任者)が「5G」(第5世代移動通信システム)に投資すべきだと上層部を説得したい場合、他の医療機関の5G利用事例があれば説得しやすい。
医療機関のCIOは5Gをどう思っているか
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米国ではVerizon WirelessやAT&Tといった通信事業者が、企業や一般ユーザーに向けて小規模5Gの展開を始め、現行の「4G」(第4世代移動通信システム)よりも優れている点を強調している。例えばデータ転送速度の向上、利用可能な帯域幅の増加などを長所に挙げている。
ただし明確な点が1つある。医療機関だからといって、5Gを利用する際の初期コストは安価にならないことだ。
アプリケーションや機器のアップグレードと同様に、5Gへの移行にかかる時間とリソースを正当化するには、説得力のある具体的な事例が必要になる。医療機関の5G利用事例は、現時点では見つけにくい可能性がある。コンサルティング会社Technology Business Researchで情報通信アナリストを務めるクリス・アントリッツ氏によると、医療機関のCIOは5Gを使用するに当たって、リスクの軽減という負担を負うことになる。
Sisters of Charity of Leavenworth Health System(「SCL Health」の名称で事業展開)のクレイグ・リチャードビル氏をはじめとする医療機関のCIOは、5Gに関心を寄せてはいる。しかし5G対応を見据えて自機関のITインフラの全面改訂に踏み切る前に、5Gの成り行きを見守っているのが現状だ。「5Gが成熟して全ての課題が解決し、その可能性が具現化し始めたら、当機関も古いネットワークの一部を廃止する作業に着手するだろう。だがそうした状況にたどり着くまでには何年もの歳月を要する可能性がある」(リチャードビル氏)
リチャードビル氏が5Gについて懸念しているのはごく基本的なことで、5Gは「電気のスイッチ」のように簡単に切り替えられないことだ。5Gへの移行は、4Gをオフにして、5Gをオンにするといった単純なものではない。5Gへの移行は体系的に実施する必要がある。例えば機器やアプリケーションを5G対応のバージョンにアップグレードしたり、既存の機器を一つずつ無効にしたりする作業が含まれる。
「医療機関が5Gに移行するプロセスは段階的になる」とリチャードビル氏は指摘する。このプロセスには時間がかかる。プロセス、スタッフ、機器を新しい環境に接続する準備が整っていることを確認しながら断続的に進める必要があるためだ。もう一つ重要な考慮点がある。それは医療機関で5Gへの移行を正当化する「実証済みの事例」が現れるまで、既存のネットワークを5Gに移行できないことだ。
「こうした設備投資の価値を上層部に説得するには、5Gを最大限に活用するために考え抜かれた導入事例が欠かせない」とリチャードビル氏は強調する。ネットワークを拡大し、拡大したネットワークにアクセスできるようにするには、時間、リソース、コストがかかるためだ。
とはいえ5Gは「大変革」をもたらす可能性のある技術だ。患者を遠隔監視するツールからリアルタイムでワイヤレスデータを転送するのに十分なネットワーク機能や帯域幅を備えている。この点についてはリチャードビル氏も評価している。
医療機関Northwell HealthでCIOを務めるジョン・ボスコ氏も、5Gは「革新的な」技術だと述べる。ボスコ氏は5Gの発展に注目しているが、通信事業者が5Gを普及させるまでには数年かかると考えている。通信事業者が5Gを展開するには非常に高額なコストがかかるからだ。現在の5Gは調査会社Gartnerが示す技術の成熟度と採用率の変化を示すグラフ「ハイプ・サイクル」における「過度な期待のピーク期」を迎えている。だが「実際に展開しているのはごくわずかだ」とボスコ氏は指摘する。
Verizon Wirelessのテクノロジーと商品開発部門でシニアバイスプレジデントを務めるニッキー・パルマー氏は、2019年7月12日開催のイベント「2019 MIT Platform Strategy Summit」に登壇して「5Gを利用可能にするために、当社の物理インフラには約10億ドルを投資している」と語った。その後、同社は2019年末に30都市以上で5Gの制限付きサービスを提供している。
ボスコ氏は、既に長期的な建設計画を立て、新しい施設や病院向けの5Gの使用を検討している。ブロードバンド経由で医療機器が医療機関のネットワークに簡単に接続できるようにすることで、将来的に5Gは在宅医療を含む特定分野の医療に影響を与える、とボスコ氏は確信している。
エックス線撮影装置やMRI(磁気共鳴画像法)装置のように有線ネットワークに接続している画像診断装置も、ワイヤレスネットワークに接続できるようにすることで、画像診断の領域にも影響を及ぼすともボスコ氏は考えている。エックス線撮影装置などの医療機器は基本的に撮影室に固定されており、画像を転送するにはネットワークへの物理接続が条件になる。ワイヤレスネットワークに接続して画像を転送できるようになれば、画像診断を迅速化できる可能性がある。
「5Gにはさまざまな用途が見込まれる。通信事業者が5Gを十分に展開するには、ある程度の時間がかかるだろう。しかし5Gが大変革をもたらす技術であることに異論の余地はない」(ボスコ氏)
後編は、医療機関が留意すべき5Gの懸案事項を解説する。
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