新型コロナが投げ掛けるプライバシー問題【第5回】
新型コロナ拡大防止のためなら「プライバシー」を犠牲にすべきなのか
企業や政府による新型コロナウイルス感染症対策には、プライバシー保護の観点から批判の声もある。人の命を左右する感染症の拡大を食い止める上で、プライバシーをどう考えるべきなのか。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を受け、感染者と接触した人の行動を追跡したり、体温を非接触で測る赤外線カメラ「サーマルカメラ」で撮影した画像データを分析したりといった感染症の拡大防止策が取られている。だがこれらの技術に対してプライバシー保護の観点から懸念を示す声があることも事実だ。「これらの技術が裁判で勝利できるかどうかは分からない」と、法律事務所Bryan Cave Leighton Paisnerでデータプライバシー担当弁護士兼パートナーを務めるジェナ・バルデテロ氏は話す。「この手の技術の使用を検討している企業は、生体情報の使用に関する法規制を検証したいと考えるだろう」(バルデテロ氏)
安全か、プライバシーか
米国の「カリフォルニア州消費者保護法」(CCPA)は、こうしたデータ収集について収集目的とデータの開示を義務付けている。同様にイリノイ州の「生体情報プライバシー保護法」も、生体情報を収集する場合は対象者に対する事前説明を義務付けている。人の体温は、個人の特定に利用できない場合、生体情報の定義には当てはまらないという見方もある。だが「こうした問題は慎重に検討しなければならない」とバルデテロ氏は言う。
調査会社Forrester Researchのアナリストであるマイク・グアルティエリ氏は、危機的な状況の中で安全対策を強化するためには、プライバシーに関して「ある程度の譲歩を求めることも妥当だ」と述べる。一方で「人々が現在あるいは将来の脅威に備えるため、どれほど簡単に自由やプライバシーを進んで手放すのかを考えると恐ろしい」とも話す。
サーマルカメラを使って潜在的に症状のある人を特定することで懸念されるプライバシーの問題は「顔認識の問題の延長だ」とグアルティエリ氏は強調する。
プライバシー保護の側面で、顔認識技術の利用については長い間論議が交わされてきた。実際の活用例としては、捜査当局が犯罪者を特定するために顔認識技術を利用していることがある。ただし対象者の同意なく顔画像をスキャンし、人物を特定する活用例もある。
政府も防犯や市民監視のために顔認識技術を利用してきた。例えば中国は、新しいSIMカードを登録する場合に顔認識を義務付けている。中国は街角や学校など公共の建物、イベント会場などに何億台ものカメラを設置しており、そうした場所にいる人に対して本人の同意なく顔認識技術を利用できる。
サーマルカメラは「新型コロナウイルス感染症などウイルス検出のための新しいアプローチだ」とグアルティエリ氏は言う。新たなアプローチとして、他にも人の咳(せき)の音を分析して疾患を検出できるアプリケーションの開発が進められているという。
「研究者の仕事は技術を使って人を特定する方法を見つけ出すことだ。それがプライバシーの侵害に当たるかどうかはその人の判断次第であり、最終的には何が利用できて何が利用できないのかを規制する法律にかかっている」。グアルティエリ氏はそう見解を示す。
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