要件定義の“丸投げ”を防ぐ
情シスを苦しめる“工数見積もり” 明治安田が「Agentforce」で脱属人化
システム開発における工数見積もりは、専門知識が必要なため特定の人材に負荷が集中しやすい。明治安田はこの課題を解消するために、「Agentforce」を活用している。属人化という負のループを断ち切る仕組みとは。
企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速する中、ビジネス部門からのITシステム開発需要がますます盛んになっている。こうした中、明治安田生命保険では、社内の各ビジネス部門から情報システム部に対して、システム開発に伴う工数の見積もり依頼が頻繁に発生していた。
しかし、精度の高い工数算定には、高度な専門知識と過去の豊富な開発経験が不可欠だ。結果として、限られた有識者が手作業で時間をかけて対応せざるを得ず、情報システム部における恒常的な業務負荷の増大と、ビジネス部門に対する回答リードタイムの長期化という深刻な課題に直面していた。
こうした属人的な見積もり業務のボトルネックを解消するため、明治安田生命保険はSalesforce社の自律型AIエージェントサービス「Agentforce」を活用した実証実験(PoC)を実施した。自社内に蓄積してきた過去の開発案件データをAIに分析させ、対話形式で要件を引き出しながら自動で見積もりを算出する仕組みを構築したのだ。
フェーズ1の検証では、情報システム部門の担当者の作業の一部をAIエージェントが代替できることが確認され、大幅な負荷軽減が見込まれている。明治安田生命保険は、2026年度(2026年4月~2027年3月)中の全社的な本番運用開始に向けて、さらなる精度向上を図るフェーズに移行している。
これまで「職人技」とされてきた見積もり業務を、明治安田生命保険はAIエージェントでどのように自動化したのか。
属人化した見積もりからの脱却
本システムの中核を担うのは、CRM(顧客関係管理)システム「Salesforce」に集約、蓄積してきた膨大な「システム開発案件情報」という独自のデータ資産だ。単なる汎用的な生成AIの導入ではなく、この自社特有のデータをAgentforceの高度な推論エンジンと組み合わせた点に優位性がある。会話型のインタフェースに加え、強固な信頼性を備えたシステムを活用することで、セキュアな状態での業務効率化を可能にした。
実際の見積もりプロセスは以下の通りだ。まず、システム開発を依頼したいエンドユーザーが、チャット型のインタフェースを通じてAIエージェントに要望を入力する。システム開発の初期段階では、エンドユーザーの要件が十分に固まっていない状態であっても、AIエージェントが対話を通じて必要な情報を引き出し、要件の洗い出しや整理を可能にする機能が備わっている。これによって、要件定義という属人的な上流工程の精度向上と標準化が期待できる。
開発内容が入力されると、Agentforceが自律的に必要な「開発要素」を推定する。続いて、データベースから過去の類似案件を検索・抽出し、案件同士の類似度を客観的に比較した上で開発工数を算定する仕組みだ。最終的な見積もり結果の提示までを一連のプロセスとして自動化することで、人間の経験や勘に大きく依存していた工程を、データに基づく客観的かつ再現性の高いプロセスへと置き換えたのだ。
システム開発における見積もりは、要件の解釈や過去事例との比較など、複雑な思考プロセスを必要とするため、高度な専門知識と時間を要する業務だった。Agentforceの導入によって、明治安田生命保険 情報システム部の池田匡克氏は、「AIエージェントが自律的に過去の膨大なナレッジを活用し、迅速かつ客観的な見積もりを算出することが可能になった」とその効果を評価する。
2026年6月時点では、2026年度中の全社本番運用に向けたフェーズ2の実証が進められている。この段階では、算出精度のさらなる向上を目的として、データ構造の最適化、サブシステム単位での細かな粒度調整、入力データにおける表記揺れの制御といった改善施策を実施中だ。AIモデルの推論精度は入力されるデータの品質に直結するため、こうした地道なデータ整備が実運用において極めて重要となる。
明治安田生命保険は今後、情報システム部内での試行運用を経て、ビジネス部門への展開と保守運用体制の構築を加速させる計画だ。ビジネス部門の担当者自身がAIエージェントを活用して高精度な見積もりを取得できるようになれば、情報システム部の負荷が抜本的に解消されるだけでなく、システム開発にかかるコストや期間をビジネス部門が即座に把握できるようになり、システム化に向けた意思決定のスピードも飛躍的に向上する。
セールスフォース・ジャパン専務執行役員の田村英則氏は、「Salesforceに蓄積された貴重なデータをAIエージェントが最大限に引き出すことで、開発業務の生産性を飛躍的に高めることができる」と自信を示す。自社のデータ資産とAIエージェントを融合させた今回の取り組みは、システム開発プロセスの初期段階における課題をテクノロジーで解決する好例だ。熟練エンジニアの暗黙知をAIによってシステム化し、全社的な生産性向上につなげるアプローチは、深刻なIT人材不足に悩む企業にとって有用な知見になるだろう。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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