企業のレガシーシステム刷新を支援する製品やサービスが広がっている。本稿では、AIによるコード変換や移行計画、API化などを支援する6製品の特徴と、選定時に確認すべき8つのポイントを紹介する。
クラウドコンピューティングが普及してから約30年が経過した現在も、多くの企業ではメインフレームや古いOS、長年改修を重ねたアプリケーションなどのレガシーシステムが稼働している。
こうしたシステムは、業務を安定して支えてきた一方、保守できる人材の不足や運用コストの増加、拡張性の低さといった課題を抱えやすい。生成AIやAIエージェントを業務に組み込もうとしても、データやアプリケーションが古い環境に閉じ込められていれば、導入の妨げになる。
本稿では、レガシーモダナイゼーションを支援する6つの製品やサービスとして、「AWS Transform」「Google Cloud Migration Center」「IBM Transformation Advisor」「Kodesage」「Microsoft Azure Accelerate」「OpenLegacy」を取り上げ、それぞれの特徴と選定時のポイントを紹介する。
オンプレミスのシステムをクラウドへ移すことに特化したツールもあれば、古いアプリケーションコードの解析や書き換えまで支援するツールもある。
特定のクラウドサービスへの移行を前提とする製品もあるため、AWS、Microsoft Azure、Google Cloudのどの環境に対応するかを確認する。マルチクラウドやオンプレミスへの再配置が必要な場合は、特定ベンダーへの依存度も重要になる。
単一のアプリケーションの改修を想定したツールと、数百、数千のワークロードを一括して調査、移行するツールでは、必要な機能や費用が大きく異なる。
既存資産の自動検出、依存関係の分析、移行優先順位の決定、費用の見積もりまで支援できるかどうかが、プロジェクトの成否を左右する。
移行したアプリケーションが正常に動作するか、性能やセキュリティ、ガバナンスの要件を満たすかを確認できることが望ましい。
モダナイゼーションの過程で、機密データやソースコードを外部サービスへ送信する可能性がある。閉域環境やオンプレミスで利用できるか、データの保存先や利用方法を制御できるかを確認したい。
ツールの料金だけでなく、クラウドサービスの利用料やコンサルティング費用、移行後の運用コストまで含めて比較する。
文書による情報提供だけなのか、専門家が計画や実装を支援するのかによって、企業側に必要となる人材やスキルが変わる。
AWS Transformは、AIエージェントを利用して、インフラやアプリケーション、コードのモダナイゼーションを支援するAWSのサービスだ。2025年5月に提供を開始した。
メインフレームや「.NET」アプリケーションをはじめとする複数のレガシー環境に対応し、古いコードの変換やリファクタリング、アプリケーションアーキテクチャの変更を支援する。
アプリケーションのコンテナ化など一部の移行シナリオでは、モダナイズしたアプリケーションをAWSで稼働させるための設定ファイルを生成できる。例えば、コンテナの実行環境やロードバランサー、ストレージなどの構成をコード化し、移行先環境の構築を自動化する。
AWS Transformの特徴は、AIエージェントを使って既存環境の分析や移行計画の作成、コード変換、テストなどを自動化する点だ。ただし、全てをAIに任せるわけではなく、利用者が計画や生成物を確認・承認する工程も設けている。
一方、AWSのサービスとの結び付きが強いため、移行先として他社のクラウドを想定している企業には適しにくい。
AWSを戦略的なクラウド基盤に位置付け、大規模なコード変換やアーキテクチャ変更を効率化したい企業向けの選択肢である。
Google Cloudが提供するクラウド移行支援の中核サービスだ。オンプレミスや他社クラウドのIT資産を検出、評価し、Google Cloudへの移行計画や費用試算の作成を支援する。実際の移行やアプリケーションのモダナイゼーションには、Google Cloudの関連サービスやパートナー製品を組み合わせる。
既存環境に大きな変更を加えずに移すリフト&シフトに加え、実行環境を変更するリプラットフォーム、コードや設計を変更するリファクタリングなど、複数の移行・モダナイゼーション方針を評価、計画できる。
IT資産を自動検出し、移行候補となるワークロードを洗い出す機能も備える。移行時に仮想マシンやリソースのサイズを最適化し、コスト削減や性能向上につなげることも可能だ。
対応するワークロードや移行方式が幅広く、モダナイゼーションの選択肢を比較しながら計画を立てやすい点が特徴である。
ただし、Google Cloudとの結び付きが強く、Google Cloudを利用しないモダナイゼーションプロジェクトには向かない。
IBM Transformation Advisorは、既存のJavaアプリケーションを分析し、クラウドやコンテナ環境への移行計画を作成するためのツールだ。
「WebSphere Application Server」や「Oracle WebLogic Server」「Apache Tomcat」などで稼働するJavaアプリケーションを分析し、移行の難易度や修正が必要な箇所、想定される作業量を示すことができる。
主な移行先として想定されているのは、軽量なJava実行環境である「WebSphere Liberty」や「Open Liberty」だ。既存アプリケーションが移行先で利用できないAPIや機能に依存していないかを調べ、必要な変更内容を提示する。
移行対象によっては、Dockerfileやアプリケーションの設定ファイルなど、コンテナ環境への展開に必要な成果物も生成できる。これらを利用して、Red Hatの「OpenShift」やその他のKubernetes環境への展開を進められる。
一方、主な対象はJavaアプリケーションであり、COBOLなどのレガシー言語を新しい言語へ変換したり、サーバやネットワークを含む移行プロジェクト全体を管理したりする汎用(はんよう)的なモダナイゼーションツールではない。
Kodesageは、AIを使って複雑なレガシーシステムを分析し、コードの構造や依存関係、業務ロジックを把握しやすくする製品だ。ソースコードだけでなく、仕様書やチケット、データベースなどの情報を集約し、検索可能な知識基盤を構築する。
コードの内容を基にドキュメントを自動生成し、コードの変更に合わせて更新できる。移行ガイドや単体テスト、結合テスト、回帰テストの作成も支援するため、仕様書が残っていないシステムの調査や、改修計画の作成に役立つ。
コード変換を完全に自動で実施する製品というより、エンジニアが既存システムを理解し、安全に改修、移行するための情報を提供するツールと位置付ける方が適切だ。
ただしKodesageは、インフラ移行やクラウド環境の構築までを一括して管理する製品ではない。エンドツーエンドのモダナイゼーション基盤というより、ソフトウェア開発や改修ツールに近い位置付けである。
クラウドへのインフラ移行よりも、レガシーシステムの構造や業務ロジックを把握し、改修や移行の準備を進めたい企業に適している。
Kodesageはオンプレミスやインターネットから切り離した環境にも導入できるため、機密性の高いソースコードを外部のクラウドサービスへ送信せずに分析できる。
Microsoftが2025年に発表した、Azureへの移行とモダナイゼーションを支援するプログラムだ。「Azure Innovate」(AIやクラウドネイティブアプリケーションの開発や導入を支援するプログラム)や「Azure Migrate and Modernize」(オンプレミス、他クラウドサービスのAzure移行を支援するプログラム)、移行作業を専門家が支援する「Cloud Accelerate Factory」など、従来の支援策をAzure Accelerateの枠組みに集約している。
移行やモダナイゼーション用のツールに加え、Microsoftやパートナー企業の専門家による計画策定や実装支援を利用できる点も特徴だ。既存システムの評価から移行計画の作成、実行までを、一連の支援策を通じて進められる。
さらに、アプリケーションやデータ、インフラをモダナイズし、生成AIやAIエージェントを活用しやすい環境に移行することにも重点を置いている。
Azure Accelerateの対象には、オンプレミスや他社クラウドからAzureへの移行に加え、サーバやKubernetesクラスタなどを「Azure Arc」(オンプレミス、他クラウドのサーバやKubernetesクラスタなどを一元管理するAzureのサービス)の管理対象に加えるシナリオもある。Azure Arcを利用すると、オンプレミスや他社クラウドで稼働するサーバ、Kubernetesクラスタ、Azure Arc対応のデータサービスなどに、Azureの管理、セキュリティ、ガバナンス機能を適用できる。
一方、利用できるツールや専門家支援、資金面の支援は多岐にわたる。少数のアプリケーションを単純にリフト&シフトする場合は、必要な支援の範囲と費用対効果を事前に確認する必要がある。
OpenLegacyは、メインフレームや「IBM i」などで稼働する既存システムを分析し、その機能を新しいアプリケーションから呼び出せるようにするモダナイゼーション支援プラットフォームだ。
COBOLなどで作られた既存プログラムを大幅に書き換えなくても、必要な機能をAPIやマイクロサービスとして自動生成できる。これにより、基幹システムを稼働させたまま、クラウドサービスや新しい業務アプリケーションとの連携を進められる。
AIは、プログラムやデータの依存関係を分析し、モダナイズする範囲や作業手順を決める際にも利用される。システム全体を一度に置き換えるのではなく、優先度の高い機能から段階的に切り出せる点が特徴だ。
生成したAPIやマイクロサービスは、特定のクラウドに限定されず、オンプレミス、クラウド、ハイブリッド環境に展開できる。
一方、OpenLegacyが得意とするのは、既存システムの機能をAPI化し、新しいシステムと連携させる領域である。サーバの移行やクラウド利用料の試算、移行先リソースの最適化までを一括して担う汎用的なクラウド移行管理ツールとは、役割が異なる。
モダナイゼーションツールを選ぶ前に、何を刷新し、何を残すのかを明確にする。
全てのレガシーシステムをクラウドネイティブな構成へ作り直すことが必ずしも適切な判断であるとは限らない。安定して稼働しているシステムはそのまま残し、APIを通じて新しいサービスと接続する方が、費用やリスクを抑えられる場合もある。
一方、保守できる人材が減少しているコードや、事業の変化に対応できないアプリケーションは、単純なクラウド移行だけでは課題を解決できない。コードやデータ構造、アーキテクチャまで見直す必要がある。
生成AIやAIエージェントの導入を目的とする場合も、「AI対応」という言葉だけで判断しない。どのデータをAIに利用させるのか、既存システムとどのように接続するのか、機密情報をどこまで外部サービスへ送信できるのかを整理する必要がある。
重要なのは、ツールの機能から移行方針を決めるのではなく、自社の事業目標、対象システム、移行先、セキュリティ要件を定めた上で、その実現に必要な機能を持つツールを選ぶことである。
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