Z世代ほど支持? 「時代遅れ」メインフレームの意外な現在地脱「脱メインフレーム」へ?

IBMの公式ブログによると、メインフレームは世界の全取引の87%を支える。クラウドやAIが普及する中でも企業が利用を続ける理由を専門家の見解から探る。

2026年07月14日 05時00分 公開
[Pratima HarigunaniTechTarget]

 「時代遅れ」と評されることもあるメインフレームは、今も世界の大企業を支える中核システムであり続けている。IBMが2026年6月に公開した公式ブログによると、メインフレームは世界で発生する全取引の87%を支えている。さらに、銀行・小売業の世界上位50社のうち44社がメインフレームを採用しているという。

 独立系ソフトウェアベンダーBMC Softwareが2025年9月に公開した調査結果によると、企業の97%がメインフレームを「長期的に利用する基盤」または「新しいワークロードを稼働させる基盤」と位置付けた。BMC Softwareによると、97%という数値は同調査の20年の歴史で最も高い割合であり、ミレニアル世代(1981〜1996年生まれ)やZ世代(1997〜2007年生まれ)の回答者ほど肯定的な傾向が強かった。

 クラウドやAIの普及が進む中、企業はなぜメインフレームを手放さないのか。専門家の見解から、メインフレームが残り続ける理由と、企業が抱える課題を紹介する。

脱メインフレームではなかった?

 Gartnerのバイスプレジデントアナリスト、アレッサンドロ・ガリンベルティ氏は、メインフレームへの評価が高まっていることについて、驚くべき結果ではないと語る。

 航空券を予約するとき、クレジットカードを利用するとき、市民が税金を支払うときなど、多くの処理の背後ではメインフレームが稼働している。

 メインフレームがIT予算全体に占める割合は小さく見えても、そのシステムが世界経済の大きな部分を支えている場合がある。処理するワークロードが減るどころか、むしろ増えている企業もあるという。

 食品メーカーSonic Biochem ExtractionsでITおよびセキュリティ担当アシスタントバイスプレジデントを務めるカマル・マッタ氏も、メインフレームを巡る議論は変化したと指摘する。

 2015年当時は、いかにメインフレームから脱却するかがIT業界の主要なテーマだった。現在は、メインフレームを残したまま、その周囲にどのようなシステムを構築するかが問われるようになった。

 同氏によると、メインフレームは孤立したレガシーシステムから、現代のハイブリッドIT戦略を支える基盤へと変化している。AIや量子コンピューティング時代に対応しつつあるため、5年前よりも「時代遅れ」とは言いにくくなっているという。

大量のトランザクション処理に強い理由

 調査会社Everest Groupのパートナー、ロス・ティスノフスキー氏は、メインフレームの強みとして、企業の重要データを保持する「Systems of Record」(SoR:記録のためのシステム)としての役割を挙げる。

 顧客との接点を担うシステムや業務を実行するアプリケーションと異なり、SoRには頻繁な機能革新が常に求められるわけではない。大量の取引を処理しながら、入出力を効率よく実行することが重要になる。

 メインフレームは、入出力処理を専用の周辺プロセッサに任せるアーキテクチャを採用している。この仕組みによって、膨大なトランザクションを効率よく処理できる。

 ティスノフスキー氏は、メインフレームは一部のSaaSのようにデータの利用や出し入れを制限しないことも利点だと説明する。大量のデータをシステム内外に移動させる必要がある企業にとって、こうした特性は重要になる。

 IBMも、メインフレームをAPIベースの現代的なシステムと接続するためのデータ統合インタフェースを提供している。ガリンベルティ氏によると、企業はメインフレーム上で古いアプリケーションを維持するだけでなく、新しいアプリケーションも稼働させているという。

 Restaurant Brands AsiaのIT担当バイスプレジデント、マノージ・グプタ氏は、メインフレームを「評価されにくい英雄」と表現する。

 メインフレームは、過去に開発したアプリケーションとの後方互換性を維持しながら、APIやAIを活用した新しいサービスにも対応できる。旧来のアプリケーションと現代的な技術を同時に支えられる基盤は多くないという。

高額でも、大量処理では競争力がある

 メインフレームは、導入費用や運用費用が高いと見なされることがある。しかしグプタ氏は、大量のトランザクションを処理する企業にとって、TCO(総保有コスト)は十分に競争力があると指摘する。

 メインフレームは、停止時間を最小限に抑え、高い運用効率を実現できる。既存のシステムを別のインフラに置き換える費用やリスクまで考慮すれば、継続利用した方が経済的な合理性を持つ場合がある。

 ハードウェアの供給体制も強みだ。AI関連の支出ではGPUが大きな割合を占めているが、GPUは需給によって価格が大きく変動することがある。

 一方、メインフレームは用途に特化した基盤であり、IBMがサプライチェーンを管理している。ガリンベルティ氏は、GPUベンダーと比べて価格を制御しやすいと説明する。

 量子コンピュータによる暗号解読への備えも進んでいる。ガリンベルティ氏によると、レガシーと呼ばれる基盤でも、量子時代を想定した安全性を以前から備えてきた。ティスノフスキー氏も、現行のIBM製メインフレームの多くが耐量子計算機暗号(PQC)に対応していると指摘する。

最大の課題は、COBOL人材の不足

 メインフレームの技術的な優位性を認める専門家も、将来に不安がないと考えているわけではない。特に深刻なのが、メインフレームを支えるエンジニアの不足だ。

 ティスノフスキー氏は、COBOLに精通したプログラマーの退職が進み、クラウドネイティブエンジニアと比べて人材確保の費用が大幅に高くなっていると指摘する。

 若いエンジニアは、古いプログラミング言語を学ぶことに抵抗を示す傾向がある。しかし、システムを支援、保守できるエンジニアがいなくなれば、基盤が不安定になる恐れがある。人材不足が深刻化すれば、メインフレームから別の基盤へ移行する理由にもなり得る。

 もう1つの課題は、特定ベンダーへの依存だ。メインフレームは企業にとって大きな投資であり、IBMが市場で強い立場を持つ以上、ベンダーロックインのリスクは避けられない。

 ガリンベルティ氏は、企業システムには何らかのベンダーロックインが必ず生じると説明する。重要なのは、システム全体のどの階層で特定製品に依存するかである。企業のIT部門がシステム構成を適切に設計すれば、一定の選択肢や変更の余地は残せるという。

刷新すべきは基盤か、アプリケーションか

 メインフレームのモダナイゼーションを考える際は、技術的負債を減らすための刷新と、事業戦略上の投資を区別する必要がある。

 グプタ氏によると、多くの企業は数十年かけて、事業に不可欠なアプリケーションを開発してきた。その間、機能を改善し、処理を最適化し、現代的なAPIやクラウド、コンテナ、AIサービスと連携させている。

 そのようなシステムについて、古いという理由だけで数百万行のCOBOLコードを書き直したり、別の基盤に移行したりしても、事業価値を生み出せるとは限らない。

 移行にはサービス停止、法令順守上の問題、性能の不確実性といったリスクも伴う。メインフレームを廃止すること自体を目的にすると、費用に見合う効果を得られない可能性がある。

 IBM India Systems Development Labのディスティングイッシュトエンジニア、ラフル・ラオ氏も、技術的負債の問題と、プラットフォーム自体の有用性を混同すべきではないと指摘する。

 企業は、メインフレーム上のモノリシックなアプリケーションや開発手法、データアーキテクチャを改善し、俊敏性を高めることができる。一方、巨大なアプリケーションを1から書き直したり、メインフレームの外に移したりする計画は、高額な費用や失敗率、品質低下を理由に断念されることもあるという。

 現在の論点は、メインフレームを置き換えることではない。長年のインフラ投資を生かしながら、業務プロセスやアプリケーションをどのように刷新するかに移りつつある。

AIはメインフレームを終わらせるのか

 AWSをはじめとするクラウド事業者は、AIを活用してメインフレームからクラウドへの移行を支援しようとしている。しかしガリンベルティ氏によると、企業はAIをメインフレームから脱却するためだけでなく、メインフレームの価値を高めるためにも利用している。

 同氏は、メインフレームからの全面移行は成功しにくいと指摘する。移行プロジェクトに2000万〜4000万ドルを投じても、プロジェクトの終盤に同程度の追加費用が発生し、業務が減るどころか増えることがあるという。

 仮に移行に成功しても、その直後から新しい基盤の更新が必要になる可能性がある。分散システムでは、複数の製品やアプリケーションを組み合わせているため、一定期間ごとに更新とテストを繰り返す必要がある。

 ラオ氏は、AIと量子コンピューティングの普及によって、メインフレームの重要性はむしろ増していると説明する。

 銀行、保険、医療、行政などの分野では、重要性の高いデータや高額な取引がメインフレーム上で処理されている。AIによる分析のために機密データを外部環境へ移動させるのではなく、データが存在する場所にAIの処理能力を近づけたいという需要がある。

 この方式であれば、リアルタイムに情報を分析し、遅延を抑え、データガバナンスを強化できる。現代のメインフレームは、チップ上でAI処理を高速化する機能を備え、こうした需要に対応しているという。

AIをデータへ近づける

 マッタ氏は、IBMのメインフレーム製品群「IBM z17」に搭載された専用AIアクセラレーターを例に挙げる。

 銀行や保険会社は、リアルタイムの不正検知や即時の信用リスク評価といったAIモデルを、実際の取引処理と同じ基盤上で実行できる。データをAIへ移動させるのではなく、AIをデータのある場所へ持ってくる考え方だ。

 グプタ氏は、メインフレームが大規模なAIモデルの学習において、GPUクラスタと直接競合するとは考えていない。

 メインフレームが強みを発揮するのは、取引が発生する時点でAI推論を実行するという用途だ。データが既に保存されている場所でAIを動かすことで、処理の遅延やデータ移動を減らし、リアルタイムな意思決定を支援できる。必要に応じて、クラウド上のAI基盤と連携することも可能だ。

メインフレームの将来を決めるのは「人材」

 メインフレームには、高い耐障害性、安定性、後方互換性がある。停止が許されないミッションクリティカルなアプリケーションを支える基盤として、今後も重要な役割を担う可能性が高い。

 一方、エンジニア不足はすぐに解決するわけではない。システム自体が優れていても、開発や保守、モダナイゼーションを担う人材を確保できなければ、長期的な利用は難しくなる。

 ガリンベルティ氏は、メインフレームの将来を左右するのは、IBMが人材とスキルの不足を埋められるかどうかだと指摘する。

 企業に求められるのは、「古いから捨てる」「安定しているから残す」という二者択一ではない。メインフレーム上に残すべきデータや処理を見極め、APIやクラウド、AIと組み合わせながら、必要な部分を段階的に刷新することが重要になる。

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