メインフレームの隔離運用が限界を迎えている。IBMは標準ラックに収まる新筐体とAIエージェントを投入し、設置スペースとスキルの壁を突破。TCO 65%削減と極めて高い可用性を両立し、運用の民主化を加速する。
メインフレームといえば、データセンターの専用エリアに設置され、専任の担当者が管理するのが通例だった。しかし、データセンターのスペース確保が困難になり、メインフレームに精通した人材も不足する中、そうしたぜいたくな運用は終わりを迎えつつある。
米IBMは2026年7月7日、新しい筐体(きょうたい)設計とエージェント型のAIツールを発表。メインフレームを顧客のデータセンターインフラに統合する取り組みを加速させる考えだ。
ハードウェア面では、標準的な19インチラックに収まる新しい構成や、メインフレームの専用フレーム内に他の機器を混載できる構成を導入。ソフトウェア面では、自律型エージェントプラットフォーム「IBM Bob」をメインフレーム向けに拡張したことで、アプリケーションの作成や管理をより容易に行えるようにしている。
IBM ZおよびLinuxONE担当のチーフプロダクトオフィサーであるティナ・タルキーニョ氏は、記者発表会で次のように語った。「AIを活用しつつ、メインフレームの運用を簡素化することに注力している。これは、アプリケーション開発とシステム運用の両方から見て進めている取り組みだ」
エンタープライズ級メインフレーム「z17」シリーズには、シングルフレームとラックマウントという二つの新しい構成が追加された。これらは、従来のマルチフレーム(複数ラック結合)構成を補完するものだ。また、Linux専用システム「LinuxONE 5」でもシングルフレームとラックマウント型の「Rockhopper」、より省スペースでラックマウントも可能な「Express」構成が用意される。
ラックマウントオプションを利用すれば、データセンターラックにメインフレームのコンポーネントを設置でき、メインフレーム専用区画を設けたり、コロケーションスペースを別途確保したりする必要はなくなる。他の機器と同じ場所にメインフレームを組み込めるようになるのだ。
一方のシングルフレーム構成は、組み立てと事前設定が済んだ状態で提供される。筐体には、インテリジェント電力分配装置(iPDU)やSANファイバー接続機能が備わっている他、下部に設けられた空きスペースにイーサネットスイッチやストレージデバイスなどメインフレーム以外の機器をマウントすることも可能だ。
新しい構成では、ラックあたりの計算密度も向上した。二つのプロセッサドロワーに最大16個の「Telum II」プロセッサ(最大82コア)と18Tバイトのメインメモリを搭載できる。従来比でコア数は20%、メモリ容量は12%増加した。
5.5GHzのTelum IIプロセッサを搭載した「z17 ME2」構成は、前世代の「z16 A02」と比較してコアあたりのスループットが10%向上している。各ユニットには最大24枚の「Spyre Accelerator」カードを装着可能だ。
新ユニット1台で、1秒間に15万件のアンチマネーロンダリングについてのトランザクション内推論を実行でき、1日あたり約125億件の暗号化トランザクションを処理できる。IBM Zのプリンシパルプロダクトマネジャーであるアンドリュー・クリミンス氏は、メインフレームならではのレジリエンス(回復力)についても強調した。今回のモデルでは、年間のダウンタイムを315ミリ秒に抑えると約束している。これは、平均的な「まばたき」の時間に相当する短さだ。
「『まばたきする間に見逃す(blink and you'll miss it)』という慣用句があるが、当社のシステムのダウンタイムがいかに短いかは、この言葉通りだ」(クリミンス氏)
LinuxONE Rockhopper 5も、z17と同様にTelum IIプロセッサを採用している。ただし、z17がメインフレーム専用OSで動作するのに対し、高密度ワークロード向けに構築されたLinuxONEは、Red HatなどのLinuxディストリビューションで動作する。
IBM ZおよびLinuxONE担当プロダクトマネジメントディレクターのリック・スクーンメイカー氏によれば、分散システムからLinuxONEにワークロードを移行した一部の顧客では、総所有コスト(TCO)を65%削減できた事例もあるという。
今回の新構成の投入は、データセンターのスペースが極めて貴重になっている現状で、絶好のタイミングといえる。CBREの「2026年グローバルデータセンター動向レポート」によると、データセンターの賃料は月額400ドル/キロワットを超え、空室率は過去最低水準にある。
調査会社HyperFrame ResearchのCEO兼プリンシパルアナリスト、スティーブン・ディケンス氏は次のように分析する。「GPU、メモリ、ストレージ、その他の計算リソースを同じラックに混載できれば、フロアタイル3枚分必要だったスペースを1枚分に集約できる。これは企業にとって、実質的なコスト削減という大きな価値をもたらす」
ディケンス氏は、IBMが発表会であまり強調しなかったメリットとして「納期」を挙げた。2026年8月の提供開始後、IBMは数日以内に注文品を届けるとしている。市場でGPUやメモリが不足している現状を考えれば、自社製シリコンと強固なサプライチェーンを持つIBMの優位性は高い。
「特にLinuxワークロードの分野では、納期の早さだけで導入を決めるユーザーも出てくるだろう」(ディケンス氏)
ビジネス運用の核心を担うことが多いメインフレームだからこそ、IBMは自律型エージェントの機能をメインフレームのポートフォリオに加えるのは自然な流れだと判断した。
「データを別の環境に移動させるのではなく、データがある場所、つまり基幹トランザクションのワークフロー内で直接AI推論を実行できるようになる」とスクーンメイカー氏は説明した。
IBMはこれまで、Visual Studio Codeをベースとしたエージェント型AIプラットフォーム「IBM Bob」を通じ、AIアプリの作成やデバッグを支援してきた。BobはAIを活用することで、システムのアーキテクチャを包括的に理解し、新しいタスクに動的に適応できる。
IBMは2025年にBobを導入したが、今回新たに、メインフレーム特有の機能やワークフロー、専門知識をBobに統合した。
メインフレームは特殊なスキルを必要とする「巨大な獣」のような存在だ。Bobのプレミアムパッケージでは、プラットフォーム固有のアーキテクチャ、ランタイム、統合パターン、検証ニーズ、運用の制約などが考慮されている。初期のラインアップには、Javaのモダナイゼーション向けと、IBM Z向けのプレミアムパッケージが含まれている。
Z向けパッケージは「IBM watsonx Code Assistant for Z」の機能を拡張し、メインフレーム上で動作する企業向けAIアプリの開発を支援する。特にz/OSアプリケーションの編集、リンティング(静的解析)、デバッグに適している。
プラットフォーム特有の言語やミドルウェアの知識を備えたBobを活用することで、複雑なエンジニアリング作業を20〜40%高速化し、構造化されたワークフローの構築にかかる労力を50〜80%削減できるとIBMは試算している。
IBM Zソフトウェア担当ゼネラルマネジャーのスカイラ・ルーミス氏はわれわれのメール取材に、Bobは既存のプログラマーを助けるだけでなく、新しい世代の開発者がメインフレームアプリに携わるきっかけになると述べた。
「開発者が30年以上前の保険システムを見直し、たった一度のプロンプトで内容を理解できるようになったなら、全てが変わる。Bobが開発環境にオーケストレーションと推論能力をもたらすことで、メインフレーム開発はより身近なものになるだろう」(ルーミス氏)
さらにIBMは、管理者がメインフレームを運用するための新ツールも発表した。その1つである「IBM Infrastructure Management for Z and LinuxONE」は、プロビジョニングと構成を支援する。IBMが2025年に買収したHashiCorpのInfrastructure as Codeソフトウェア「Terraform」を活用したもので、統合インタフェースを通じて展開の調整と自動化を行える。
また、2026年9月には、COBOLアプリケーションの最適化を支援する「IBM COBOL Elevate for z/OS」のリリースも予定されている。
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