AIエージェント時代にIBMが狙うのは“管理”の覇権? 勝機はどこにあるのかIBM Think 2026

IBMはメガクラウドとの物量戦を避け、ハイブリッド環境の「オーケストレーションと統治」という独自の勝機を見いだした。レガシー資産と最新AIをつなぎ、ガバナンスの壁を突破するための現実的な解がここにある。

2026年05月25日 05時00分 公開
[Kathleen CaseyTechTarget]

 IBMが年次イベント「Think」で示した戦略は、あらゆる分野でハイパースケーラーと真っ向から競うものではない。戦略の主眼は、データ主権やガバナンス、ハイブリッドインフラが必要なエンタープライズ領域を制することにある。AI時代で、その実行力を大規模に証明することが狙いだ。

 調査会社HyperFRAME ResearchのAIスタックプラクティスリーダー、ステファニー・ウォルター氏は「Thinkの通奏低音は、自らを『エージェント型企業』のためのオーケストレーションおよびガバナンス層と明確に位置付けたことだ」と話す。IBMは、複雑な組織内で多種多様なAIを機能させるシステムになるという戦略的な選択を下した。

 他のハイパースケーラーにはそれぞれの強みがある。ウォルター氏によれば、Microsoftは生産性ツール、AWSはインフラと開発者の層の厚さ、GoogleはモデルとAIネイティブなクラウドの勢いだ。対してIBMは、ハイブリッド環境の企業の実行力で勝負している。

 IBMは規模で競合他社を圧倒しようとしているのではない。複雑な環境を管理し、企業のニーズに合わせた統合プラットフォームを提供することに注力している。

エージェント構築が目的ではない

 5月に開催されたThinkでは、効率的なコード作成を支援する「IBM Bob」や、エージェント型AIシステムの集中制御プレーン「watsonx Orchestrate」など、AIエージェント関連技術に注目が集まった。しかしウォルター氏は、これ自体が他社との差別化要因ではないと分析する。主要なハイパースケーラーはどこもAIエージェントを提供しているが、エージェントが動作する複雑なハイブリッド環境を管理できるベンダーは限られているからだ。

 IBMのメッセージは、エンタープライズAIには運用層に組み込まれたオーケストレーション、リアルタイムのコンテキスト、自動化、データ主権、そしてガバナンスが必要だというものだ。ただし、顧客がそのアーキテクチャを本番規模で容易に導入し、効果を測定できる仕組みを構築できるかは、今後の課題だ。

 重要なのは、誰が最も優れたAIエージェントを持っているかではない。コンプライアンスや既存のインフラが制約となる場所で、誰がAIを導入し、業務を完遂できる統合機能を備えているかだ。

 調査会社Moor Insights & Strategyのバイスプレジデント兼プリンシパルアナリスト、マイケル・レオーネ氏は「ITリーダーは、個別のエージェント構築から資産全体の運用へと関心を移すべきだ」と語る。多くの企業では、各部門が異なるフレームワークでエージェントをばらばらに導入している。「1つ作れるか」という段階は過ぎ、「それら全てを横断するポリシー、オブザーバビリティ、ID層を誰が管理するのか」が難題になっている。

 IDCは、2029年までに12億個のAIエージェントが稼働し、1日に2170億回のアクションを実行すると予測している。IBMの幹部によれば、エージェントが増えるたびに、適切なガバナンスや監視、監督を確保するための疑問が山積するという。全体的なAI運用モデルと管理戦略が必要なのはそのためだ。

 IBMのソフトウェア担当シニアバイスプレジデント、ディネシュ・ニルマル氏はThinkの基調講演で次のように問いかけた。「それらのエージェントを管理するコントロールプレーンをどう構築するのか。エージェント間の通信はどうあるべきか。誰がアクセス権を持ち、どのようなデータが参照されるのか」

ばらばらの要素をつなぐ「統合」の力

 IBMはこの5年間、ハイブリッドクラウドとAIの推進に向け、HashiCorpやApptio、Confluentなどの企業を相次いで買収してきた。同社のソフトウェア担当シニアバイスプレジデント兼最高商務責任者(CCO)のロブ・トーマス氏によれば、目指すのはこれらを独立した製品にとどめず、統合プラットフォームとして連携させることにあるという。

 「現在、研究開発で最も注力しているのは、コンテナからインフラの自動化、リアルタイムデータ、そしてエージェントに至るまで、単一のエクスペリエンスとして提供することだ」とトーマス氏は述べる。

 その一歩が、買収したソフトウェアを基に構築したエージェント型運用プラットフォーム「IBM Concert」だ。運用の共通レイヤーによって全てを統合することを目指している。さらに、Confluentのストリーミング機能を「watsonx.data」に統合したことで、ハイブリッド環境全体でリアルタイムのコンテキストをAIシステムに提供可能になった。

 レオーネ氏は「今年のIBMには一貫性があった」と評価する。「watsonx Orchestrate」によるエージェント、Confluentによるデータ、Concertによる自動化、Sovereign Coreによるハイブリッド対応、そしてBobによる開発ライフサイクル。これらをAI運用モデルという1つの枠組みに収め、これまでになく明快で統合されたストーリーを提示したからだ。

コンサルティング主導の強み

 トーマス氏によると、IBMのビジネスの約70%をコンサルティング部門が占め、ソフトウェア部門は約30%だという。コンサルティングは顧客の動向を把握し、製品ロードマップに反映させる上で大きな利点となる。Thinkでは、SEIやNew York Lifeといった顧客企業の事例が紹介された。

 ウォルター氏は、規制の厳しい業界やメインフレームに近いワークロード、大規模なオンプレミスデータを抱える組織で、IBMが構造的な優位性を示していると指摘する。「Sovereign Core」や「z/OS」の統合機能と、コンサルティング主導の導入モデルの組み合わせは、医療、銀行、政府、防衛などの分野で、ハイパースケーラーにはまねすることが難しい信頼関係を築いている。

 「これは決して小さな市場ではない。コンプライアンスの枠内で動作するガバナンスの効いたAIを、最も切実に必要としている市場だ」とウォルター氏は言う。

 IBMの顧客層の多くはレガシーインフラに依存しているため、全てを接続するには強力な統合機能が必要だ。調査会社OmdiaのAI担当プリンシパルアナリスト、マーク・ベキュー氏は、IBMには顧客の複雑な課題、特に最新ツールとレガシーシステムとの統合を支援してきた長年の実績があると評価する。

 レオーネ氏はこう締めくくった。「ガバナンス、ハイブリッド、そしてコンサルティングが重なる領域こそが、IBMの独壇場だ。そこは、クラウド競合他社が最も説得力のあるストーリーを描けていない場所なのだ」。

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