取りあえずの「現状維持」は危険
「まだ動く」が致命傷に レガシーネットワークという“時限爆弾”が生むリスク
旧態依然としたレガシーネットワークを使い続けると、技術的制約がセキュリティリスクを高めるだけではなく、現代のビジネスに不可欠なツール活用の足を引っ張る要因になる。企業にもたらす「目に見えない損失」とは。
「取りあえず今は動いているから」という過信が、企業の成長を根底から揺さぶる。古いハードウェアやOSで構築されたレガシーネットワークは、もはや単なる旧式設備ではない。ビジネスを足止めする「ブレーキ」であり、積み重なる「負債」そのものだ。
それにもかかわらず、企業はレガシーネットワークの刷新を先延ばしにしがちだ。その背景には、運用現場と経営層が抱える根深い問題がある。
- 運用担当者が従来のスキルに頼り、既存インフラの維持を優先している
- ネットワークを刷新するための予算がない
- 経営層がネットワーク機器の更新を「価値を生む投資」と見なしていない
レガシーネットワークをこのまま放置すれば、企業の致命傷になり得る。管理の複雑化や事業リスクの増大を招くだけでなく、AI(人工知能)技術などの最新技術を生かせない「構造的な敗北」を招くからだ。
本稿はレガシーネットワークが抱える真のリスクを暴き、移行によって得られる利益と刷新を成功させるための手順を解説する。
レガシーネットワークの技術的な限界
レガシーネットワークは、企業システムの潜在能力を阻害する要因になっている。具体的な技術的制約は以下の通りだ。
限界1.デバイス管理の複雑化
古いデバイスは、CLI(コマンドラインインタフェース)が出力する「人間向けのテキスト」を解析した上で、その結果を運用ツールに入力し直すといった手間が発生する。こうした古いデバイスには外部システムと通信するためのAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)が備わっていないため、最新の自動化ツールと連携させることは困難だ。
限界2.処理のボトルネック
古いデバイスのASIC(特定用途向け集積回路)は、現代の高度な機能に適合できない。そのため、低レイテンシ(遅延)が求められるシステムにおいて、データ転送のボトルネックを生み出す。NIC(ネットワークカード)の帯域不足も、この問題を悪化させる。
限界3.ハードウェアの老朽化
ベンダーの更新プログラム提供が終了すると、そのデバイスのセキュリティリスクが急増する。古いデバイスは「WPA3」(Wi-Fi Protected Access 3)などの新しい無線暗号化規格を物理的に取り扱えないため、より安全性が低い「WPA2」(Wi-Fi Protected Access 2)などの古い規格を使わざるを得ない。
事業継続を脅かすリスク
レガシーネットワークを使い続けることは、以下に示す事業リスクに直結する。
リスク1.サイバー攻撃に対する脆弱性
暗号化技術が古く、脆弱(ぜいじゃく)性が放置されたデバイスは、攻撃者の格好の標的になる。WPA3が普及している現状、いまだにWPA2を使用しているデバイスがあれば、企業のセキュリティホールになり得る。
リスク2.収益機会の喪失
レガシーネットワークは攻撃を受けやすい。ネットワークが攻撃を受けるとシステム停止を招き、企業のサービスの提供を中断させる。これが直接的な売り上げの減少につながる。
リスク3.サイロ化による業務の非効率
クラウドサービスにある仮想システムとオンプレミスの物理デバイスが独立状態(サイロ)になると、管理が煩雑になる。手作業で個別に設定を繰り返せば、それだけ人為的ミスの発生率も高まる。
「現状維持」の代償
ネットワークが古くなると、企業は財務面や運用面で、目に見えないさまざまな代償を払うことになる。
代償1.古いネットワークによる最新アプリケーションの制約
企業がコンテナオーケストレーションツール「Kubernetes」などのツールを利用してアプリケーションのモダナイゼーション(近代化)を図ろうとしても、レガシーネットワークと新しい技術とのギャップが課題になる場合がある。具体的には、以下の状況が生まれる恐れがある。
- 規格が異なるロードバランサー(負荷分散装置)を使わざるを得ない
- ゼロトラストセキュリティの実現が難しい
- トラフィックをきめ細かく制御できない
- アプリケーション層における可観測性(オブザーバビリティ)が確保できない
代償2.自動化の停滞
自動化機能が不足しているインフラでは、運用担当者が手作業でタスクをこなすことになる。結果として、デバイスのアップグレードやトラブルシューティングにかかる時間が増加し、企業の俊敏性を損なう。
代償3.ツール導入の障壁による競争力の低下
高性能なネットワークインフラを利用できない状況が続くと、競合他社に「構造的な不利」を付けられる。競合他社がAI(人工知能)ツールを活用してどんどんサービスを改善させる中で、レガシーネットワークに縛られた企業は市場での先行者利益を失い、製品リリースの速度でも後れを取ることになる。
レガシーネットワークから脱却するためには
レガシーネットワークから脱し、現代的なアーキテクチャへと移行するためには、以下のベストプラクティスを実践するとよい。
施策1.優先順位付け
高いスループット(データ転送量)と低レイテンシが必要なアプリケーションを特定し、どの程度の処理能力が必要かを正確に算出する。
施策2.自動化とプログラマビリティーの導入
APIを備えるデバイスを選定し、エンジニアにはプログラミング言語「Python」のスキルやネットワークの自動化やAI技術に関する知識の習得を促す。クラウドサービスとオンプレミスシステムが混在する場合は、オーケストレーションツールを利用して設定の自動化を推進する。
施策3.設計段階からのセキュリティ確保
WPA3などの新しい暗号規格を扱えるデバイスを導入する。具体的には、アプリケーション層のセキュリティを強化するために、複雑な通信を制御する「サービスメッシュ」を活用した「相互TLS」(mTLS)を実装する。
施策4.段階的な移行
移行を一気にではなく、事業を止めないよう段階的に進める。これによってネットワークの中断を回避しながら安全に移行できるようになる。
これらの推奨事項に従うことで、企業は負債と化したレガシーネットワークを、ビジネスを加速させるモダンなネットワークに刷新できる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
TechTarget発 先取りITトレンド
米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[o9ソリューションズ・ジャパン株式会社] 「改正物流効率化法対策」徹底解説 総物流費を抑制するサプライチェーン戦略 -
製品資料
[o9ソリューションズ・ジャパン株式会社] 「サプライチェーン最適化」実践ガイド:効果的な意思決定を実現する秘訣とは? -
製品資料
[株式会社リンプレス] 非デジタル/IT人材を「自走するDX推進者」に変えるための育成ロードマップ -
市場調査・トレンド
[ワンアイルコンサルティング株式会社] AI時代の組織設計:「判断と責任」を人に残すための2つの原則とは? -
技術文書・技術解説
[ワンアイルコンサルティング株式会社] システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「AIバブル」は崩壊するのか? 熱狂の後に来る“尻拭い”と4つの防衛策
-
2
AIが本番環境を削除し復旧に13時間 「暴走」ではなかったAWS事例
-
3
IT人材の42%が転職予備軍 辞めさせない組織の4つの共通
-
4
レガシー基幹システムをSAPに統合 山善が突き止めた「標準化と個別最適」の境界線
-
5
「プログラマー不要論」にThe Linux Foundationが示した答え
-
6
SAP保守を分割・離脱も可能に EU承認で変わるECCユーザーの2027年問題
-
7
Microsoft 365の知られざる5つの裏口 パスワードを変えても攻撃者は消えない
-
8
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
9
「企業におけるAI導入検討度とIT投資優先度」に関するアンケート
-
10
ニトリHDが基幹システムをOCI移行 DR切り替えを12時間から3時間に短縮
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
JR西日本ITソリューションズが「監視業務の属人化」を解消した方法とは?
-
2
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
3
生成AIで文書活用を進めるには? 効率化と安全性をどう両立する
-
4
Windows PCとMacの選択制で生産性向上 LINEヤフーが実践する運用管理方法とは
-
5
DX/AI投資の壁を突破、現代の最高財務責任者が直面する課題と克服のヒント
-
6
「Google Workspace」活用事例34選、先進の生成AIによる組織変革の全貌
-
7
「人員を増やす」という選択肢はない 情シスが負の連鎖から抜け出すには?
-
8
Linuxのスキルを証明する“激推し”の認定資格はこれだ
-
9
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
10
「問題が深刻化しやすいプロジェクト管理」から脱却する方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー