ベテラン引退でメインフレームが止まる? ハイブリッド運用のジレンマ企業が直面する人材継承の危機

金融や行政などの基幹システムを支えるメインフレームで、人材不足と移行リスクが深刻化している。ソフトウェアベンダーのカントリーマネジャーが、問題解決に向けた取り組みを紹介する。

2026年05月28日 05時00分 公開
[Karla BesterTechTarget]

 「メインフレームは古い技術だから、いずれクラウドへ移行すべきだ」――。こうしたイメージを持つ人は少なくない。だが実際には、金融機関や政府機関、医療、物流といった重要インフラを支える大規模システムの多くが、今なおメインフレーム上で稼働している。

 メインフレームには2つの問題がある。レガシーシステムのモダナイゼーションを得意とするソフトウェアベンダーRocket Softwareのカントリーマネジャー、カルラ・ベスター氏が、メインフレームが抱える2つの問題と、その解決策を紹介する。

メインフレームが抱える「2つの深刻な懸念」

 ベスター氏によると、企業のシニアリーダー層が抱える不安は、大きく2つある。

 1つ目は、メインフレームを安全に運用・改善できる熟練技術者が減少していることだ。長年システムを支えてきたベテランエンジニアが引退期を迎える一方で、若手エンジニアの多くはクラウドやAI分野へ流れている。

 メインフレームは、単にプログラムを書くだけでは扱うことができない。障害時の対応手順、業務停止を避ける運用ノウハウ、周辺システムとの接続関係など、長年の現場経験によって蓄積された“暗黙知”への依存度が高い。

 2つ目は、「システム移行そのものの危険性」だ。

 近年はAI活用やデジタル変革(DX)の流れを受けて、「メインフレームをクラウドへ移行すべきだ」という議論も強まっている。だが、実際の移行は簡単ではない。

 特に金融、医療、行政、サプライチェーンなどでは、メインフレームが膨大なデータや周辺システムと深く結び付いている。そのため、全面移行は「想定以上に複雑で高コストになりやすい」と指摘される。

 さらに、こうした基幹システムでは「数分の停止」すら許されないケースがある。そのため、経営層にとっては「移行したいが、失敗できない」という強いジレンマが存在している。

増える「ハイブリッド運用」の落とし穴

 こうした背景から、多くの企業は“ハイブリッド型”のモダナイゼーションを進めている。

 具体的には、メインフレーム側で基幹トランザクション処理を継続しながら、クラウドや分散システム側でデジタルサービスや分析基盤、顧客向け機能を拡張する形だ。

 これは、「全てを移行する」のではなく、「中核は維持しながら周辺を現代化する」という現実的な選択肢として広がっている。

 一方で、このハイブリッドモデルには新たな課題もある。

 メインフレームとクラウドの両方を理解し、安定運用できる人材が必要になるためだ。つまり、ただでさえ不足しているメインフレーム人材への依存度が、逆に高まる可能性がある。

 特に問題なのは、運用の複雑性だ。クラウド側でデジタルサービスを高速に開発・更新しながら、基幹系では高い安定性を維持しなければならない。その結果、「システムは最新化したが、運用できる人がいない」という矛盾が発生しかねない。

「組織知」が消える前に始まったNextGen Academy

 こうした状況に対し、オーストラリアでは「次世代人材育成」を重視する動きが出始めている。

 その一例が、2026年2月に始まった「NextGen Academy」だ。これは、若手エンジニアや新卒人材を対象に、メインフレーム技術と現代的なIT運用の両方をレクチャーする育成プログラムだ。この背景にあるのは、「ベテランエンジニアが退職してから育成を始めても遅い」という危機感だ。

 メインフレーム運用では、マニュアル化されていない判断や現場固有の知見が多い。そのため、ベテランエンジニアの退職は単なる人員減少ではなく、「組織知の消失」を意味する。

 参加者は6カ月間、フルタイムでトレーニングを受ける。単にメインフレームの基礎を学ぶだけではなく、「クラウド」「データ」「アプリケーション運用」といったモダンなITとの接続も含めて学習する。

 狙いは、「古い技術の保守要員」を育てることではない。メインフレームを、現代のアプリケーションやデータ活用基盤の中でどう位置付けるべきかを理解した“次世代型エンジニア”の育成にある。

AIは“救世主”になるのか

 特に注目されているのが、AIの活用だ。ベテランエンジニアの引退スピードが、新しい専門家の育成速度を上回るという問題は、オーストラリア固有ではなく世界共通の課題になっている。そこで期待されているのが、「AIによる学習と実務支援の加速」だ。

 AIを適切に活用することで、若手エンジニアは過去の障害対応やコード、運用知識へ迅速にアクセスできるようになる。結果として、「独り立ちまでに必要な時間」を短縮し、より早く高い生産性と自律性を持って働ける可能性がある。

 例えば、障害対応時の過去ログ分析、レガシーコードの理解支援、運用ドキュメントの要約などでAIを補助的に活用することで、ベテランエンジニアへの過度な依存を減らせる可能性がある。ただし、関係者は「AIだけで解決できるわけではない」とも強調する。

 メインフレーム運用には、アーキテクチャ理解や障害対応、ガバナンス、運用規律など、深い専門知識が必要だ。AIは支援ツールにはなっても、“責任を持って運用する技術者”そのものを代替できるわけではない。

本当の問題は「技術」ではなく「継承」

 メインフレームの問題が示しているのは、「クラウドへ移行するか、メインフレームを残すか」という単純な話ではない。重要なのは、企業が「人材継承」と「現実的なモダナイゼーション」を両立できるかどうかだ。

 特に情シスやIT部門にとっては、「最新技術を導入すること」以上に、「その環境を10年後も安全に運用できる体制を作れるか」が問われ始めている。

 AI時代になっても、企業の基幹システムは存在し続ける。そこで、「レガシーな基盤をどのように安全にモダナイゼーションし、知識を継承するか」が、企業ITの競争力を左右するテーマになりそうだ。

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