「今回だけ特別に」が積もってゼロトラストは崩れる 3つの死角と循環型運用あらゆるシステムがつながる時代のセキュリティ

外部サービスを活用した企業活動が不可欠な現代、ゼロトラストセキュリティを導入してもサイバー攻撃を全て防ぐことは難しい。システムに潜む3つの死角と、具体的な防御策である「循環型プロセス」を解説する。

2026年07月29日 05時00分 公開
[TechTargetジャパン]

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セキュリティ対策 | シャドーIT


 企業活動において、SaaS(Software as a Service)や生成AIといった外部サービスと自社システムの連携は不可欠になっている。業務システムが社内ネットワークに閉じていた時代とは異なり、現代のビジネスはあらゆるシステムが外部と「つながること」を前提としている。こうした利便性の向上は、同時に企業が守るべき範囲の急激な拡大を意味する。

 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発表した「情報セキュリティ10大脅威 2026」において、「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」が2位、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が3位にランクインした事実は、つながる時代における防御の難しさを象徴している。

 システムインテグレーターのエーピーコミュニケーションズで、ゼロトラスト支援部門0-WANのシニアプロフェッショナルを務める田中潤子氏は、近年の事例では、自社単体の防御を固めていても、委託先や認証の先にある「つながり」を起点に侵害が拡大するケースが目立っていると指摘する。ゼロトラストモデルへの移行期にあった企業が、外部拠点のリモートアクセスを起点に侵入を許し、深刻なシステム障害を引き起こした事例が存在する。特定のツールを導入しただけで安心してしまう運用体制では、見えない脅威が内部へと入り込むことを防ぎ切れないのが現実だ。

 なぜゼロトラストという仕組みだけを導入してもシステムは破られ続けるのか。ネットワーク設計と運用に潜む「3つの死角」と、根本的なパラダイムシフトの必要性を、田中氏の講演を基に解説する。

システムに潜む「3つの死角」

 田中氏は、高度なサイバー攻撃が成功する背景には、天才的なハッカーの技術以上に、企業自身のネットワーク設計や運用に潜む「3つの死角」が関係していると説明する。

 1つ目は、「認証後の死角」だ。多要素認証などの導入によって入り口の対策は強化されたが、一定数の企業は「認証できた時点で安心」してしまい、ログイン後の行動を見過ごしている。一度侵入を許すと、攻撃者は正規の権限を利用して内部を自由に移動し、夜間の大量データアクセスなど、通常とは異なる不審な動きを取る。入り口だけではなく、内部での振る舞いを継続的に監視する仕組みが欠如しているのだ。

 2つ目は、「接続の複雑化による死角」だ。現場の業務部門が独自に契約したSaaSや、開発部門が構築したシステム間のAPI連携など、管理者が把握していない「シャドーIT」がまん延している。人だけではなくシステム同士が自動的に連携し合う状態は、管理画面に表示されない接続が新たな攻撃経路になり、被害を拡大させる要因となっている。

 3つ目は、「運用の例外による死角」だ。業務を止めないために「今回だけ特別に」と許可された一時的な例外処理が、積年の運用の中で放置され、蓄積していく。こうしたずさんな運用が定態化することで、当初設計されたゼロトラストの思想が根底から崩壊し、巨大な脆弱(ぜいじゃく)性へと変貌してしまう。

「防ぐ」から「制御する」へのパラダイムシフトと3つの手だて

 これらの死角を克服するためには、「100%防ぐことは不可能だ」という現実を受け入れる必要がある。セキュリティ戦略の変遷を整理すると、その違いは明確になる。旧来の境界防御は「内部は安全だ」という前提の下、外からの侵入を防ぐことを目的とし、強固な城壁を築くアプローチを採っていた。一方で「誤解されたゼロトラスト」は、「製品を入れれば安全だ」という考えに基づき、強力な認証で防ぎ切るために1回の厳格なゲートチェックに頼ってしまっている。これらに対し、「真のゼロトラスト」は「すでに侵入されている」という厳しい前提に立ち、侵入後の被害を最小限に制御することを目的として、継続的な監視と細分化された隔壁を設けるアプローチを採用する。

 田中氏はこのパラダイムシフトを実現するための具体的な戦略として、以下の3つの手だてを提示する。

  1. 絶え間ない検証をする
    • 一度の認証を過信せず、接続元端末の状態、アクセス場所、時間帯などの変化を常に疑い、継続的に確認し続ける仕組みを構築する。
  2. 影響範囲を最小限に制御する
    • 万が一侵入された場合でも、被害を局所化してビジネスへの影響を抑え込むセキュリティ設計が求められる。
  3. 常時監視して改善する
    • 潜在的なリスクを先回りして把握し、膨大なログの中から小さな違和感を迅速に検出して、防御の仕組みを継続的に最適化する。

 この3つの手だては独立した対策ではなく、ゼロトラストを機能させるための終わりのない継続的なプロセスだ。3つの取り組みがメビウスの輪のように連なり、相互に連携しながら循環することで、変化し続けるビジネス環境や脅威に適応できるようになる。

 各プロセスには、役割に応じたセキュリティ製品が割り当てられる。「絶え間ない検証」の領域には、認証を一元化するIDaaS(ID as a Service)や、端末の安全性を常に確認するZTNA(Zero Trust Network Access)が位置付けられる。「影響範囲を最小限に制御する」領域には、社内の横移動を防ぐマイクロセグメンテーションに加え、SWG(Secure Web Gateway)やCASB(Cloud Access Security Broker)、DLP(データ損失防止)など、外部へのデータ流出を水際で防ぐ仕組みや、不審なファイルを隔離するサンドボックスが含まれる。「常時監視して改善する」領域では、端末内の不審な挙動を検出するEDR(Endpoint Detection and Response)や、自社の攻撃表面を洗い出すASM(Attack Surface Management)などの監視ツールを用いて継続的にリスクを評価し、再び検証プロセスへとフィードバックする。

ゼロトラストの本質と今後の展望

 旧来の境界型防御やツール導入にとどまらず、ゼロトラストの本質は「継続的な運用のプロセス」を構築・循環させていくことにある。

 AI技術が悪用され、サイバー攻撃がかつてないスピードと規模で拡大する中、政府機関も対策パッケージ「Project YATA-Shield」を策定し、多層防御の実施やインシデント発生時の備えを事業者に強く求めている。

 企業がこれからのつながる時代を生き抜くためには、特定のツールに依存するのではなく、検証、制御、監視のサイクルを回し続ける運用体制を確立することが不可欠だ。万が一侵害されても、折れることのない回復力(レジリエンス)を組織全体に組み込むことこそが、将来に向けた真のセキュリティ戦略になる。

本稿は、アイティメディアが2026年5月25日〜6月1日に開催した「ITmedia Security Week 2026 春」における、5月26日のセッション「なぜゼロトラストで防げないのか つながる時代の手立てとは?」を基に作成しました。

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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

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