どれを選ぶ? パブリッククラウド比較【第2回】
代表的な4つのPaaSを比較、使いやすいものはどれだ?
企業利用の視点に立って代表的なPaaS(Amazon EC2、Google App Engine、Force.com、Windows Azure)の機能やサービスを比較した。
前回の「今さら聞けない! クラウドサービスの違い」では、SaaS(Software as a Service)、PaaS(Platform as a Service)、IaaS(Infrastructure as a Service)といった各種クラウドサービスの違いについて解説した。今回はPaaSの代表的なサービスを比較する。
PaaSは各種クラウドサービスの中でも話題性や注目度が非常に高い。サービス提供側にも盛り上がりが見られ、多数のサービスが展開されている。有名どころとしては、Amazon Web Services(AWS)のAmazon Elastic Compute Cloud(Amazon EC2)、GoogleのGoogle App Engine(GAE)、salesforce.comのForce.comプラットフォーム(Force.com)、MicrosoftのWindows Azure Platformが代表的だろうか。以下、それぞれの利用開始までの最低日数やサービス概要について紹介する。
極小規模から大規模まで。PaaSの中でも自由度が高いAmazon EC2
AWSはクラウド市場を開拓した企業であり、PaaSにおいてもパイオニア的存在だ。AWSが提供しているサービス内容は非常に幅広い(参考:同社Webページのサービス一覧)。当初は欧米を中心にデータセンターを展開していたため日本企業にとって導入のハードルが高かった。だが2011年3月に東京にデータセンターが設立されたこともあって、サポートやネットワーク遅延などへの不安が軽減され、利用しやすいサービスとなった。
クラウド ナビ
Amazon Elastic Compute Cloud(Amazon EC2)は基本的に、利用開始やリソース追加などに即時対応し、ユーザー自身がポータル画面で自由に設定・変更できる仕様だ。使いたいと思ったとき、変更の必要が生じたときにすぐさまオンラインで設定可能というわけだ。
リソースの構成が幾つも用意されていることも特徴だ。基本的な構成だけでなく、CPUリソースが非常に小さいインスタンス(仮想マシン)や、逆に最大20vCPUのハイCPUインスタンス、メモリ重視(最大68.4Gバイト)のインスタンス、クラスタコンピューティング向けのインスタンスもある。CPUやメモリの数値による構成だけでなく、I/Oの性能差や最近話題のGPGPU(GPUを演算に利用する)など、さまざまな選択肢から選ぶことができる。
ハイパーバイザーはXenをベースにしており、OSは自分で独自環境をアップロードして動作させることも可能だ。Red Hat Linuxなどの代表的なLinuxディストリビューションやWindows ServerといったさまざまなOSもあらかじめ用意されている。また、MySQLやOracle Database、Apache、Java EEアプリケーションサーバなどのミドルウェア、Ruby on RailsなどのWebアプリケーションフレームワークも多数用意されている(商用製品は別途有償)。後述のサービスと比べてIaaSの影響が強く、どちらかといえばIaaS寄りのPaaSである。自由度とのトレードオフで、使用にはそれなりのハードルの高さを持ち合わせている。
このサービスに限ったことではないが、基本的に「時間貸し」の仮想サービスである以上、利用しているサーバを停止させればデータは全て失われる。もちろん別途データ保存用のサービスも用意されているので、これを併用すれば大切なデータをうっかり消してしまう危険は避けられる。
あれもこれもと欲張ると相応のコストは掛かるものの、これまではかなわなかった大規模な環境および特殊な環境でのアプリケーション開発・実行が、一部の大企業に所属する開発者以外にも可能になった、その有用性は絶大だ。
制限はあるが開発のしやすさとインフラの信頼性が魅力のGoogle App Engine
Google App Engine(GAE)は後発組であり、いまだ開発中の発展途上のサービスともいえる。通常のGoogleアプリケーションに使われているスケーラブルなシステムをベースに、Google独自のWebアプリケーションを構築することに特化し、非常に開発しやすい環境を提供している。GAEも利用開始、リソース追加ともに即時可能だ(参考:同社Webページ「WebアプリケーションをGoogleのインフラストラクチャで実行してみよう」)。
GAEは現段階では、利用可能なプログラミング言語がPython、Java、Goに限定されており、Webアプリケーション開発においてはAmazon EC2ほどの自由度はない。そのため、ユーザー独自の環境をアップロードして利用したり、好きなソフトウェアをインストールするといった利用方法は想定されていない。また、BigTableと呼ばれるGoogleのデータベースを利用するデータストアAPIはリレーショナルなSQLではない。そのため、リレーショナルデータベースの利用を前提とする既存の大半のWebアプリケーションは、そのままではGAE上では動かない。ただし、現在はまだGoogle Labsの限定プレビュー段階だが、今後はリレーショナルデータベース機能を利用できる「Google Cloud SQL」を提供する予定である。これが提供されれば本サービスにおいてもSQLの機能が使えるようになる。
一方で、Google Appsが提供しているGmailやGoogle Docsなどのアプリケーションへ簡単に接続できたり、ソフトウェア開発キット(SDK)が用意されていたり、Javaでの開発用にEclipseのプラグインが用意されていたりと、GAEはアプリケーションの作成やシステムの運用自体が非常にしやすいことも特徴だ。また、前の段落でも触れたようにGoogleの分散ストレージシステムを支えるBigTableをデータベースとして使用しているため、Googleのインフラの信頼性やパフォーマンス、セキュリティをそのまま利用できる。アップロードしたアプリケーションはGoogleによってホストされ、スケーリングも自動的に行われるので、開発者はアプリケーションの開発のみに注力できる。無料アカウントで利用できるストレージの容量は500Mバイトまで、ページビューは月間500万までと制限付きだが、作成したアプリケーションを開発者個人でもGoogleを通して簡単にユーザーに提供できる。ある程度の英語力は必須だが、そんなハードルの低い環境を提供しているのがGAEだといえる。
Googleが提供する多くのサービス同様、GAEも基本的には無料で利用できるが、利用できるリソースには日単位および分単位で制限があり、制限以上のリソースを利用したい場合は有償となる。しかし、Googleインフラのスケールと安定性を生かした大規模なシステムを構築、運用できるというメリットは決して小さくないだろう。
上記Google Cloud SQLを含め、2010年5月に発表された「Google App Engine for Business」で予定されている機能は、通常のGoogle Apps Engineに全て追加される予定だ。恐らく今後も随時、追加機能として公開されていくと思われるので、動向に注目していきたい。
開発だけでなく運用も重視、商用向きのForce.comプラットフォーム
salesforce.comは統合CRMのSalesforce CRMで有名だ。システム受託開発の実績も多く、開発における生産性と信頼性は非常に高いといえる。そのsalesforce.comが企業向けにクラウドモデルの開発・運用プラットフォームとして提供しているのがForce.comプラットフォーム(Force.com)だ。先に挙げた同社のSalesforce CRMもこのプラットフォーム上に構築されたアプリケーションをSaaSで提供している(参考:同社Webページ「Force.com とは?」)。
Force.comでは、開発者はApex Codeと呼ばれるJavaに近い独自の開発言語で独自のシステムやアプリケーションを開発しWebサイトを構築する。このサービスも前述のGAE同様、文書管理やスケジューラなど、Salesfoece CRMの機能に簡単に接続できるという利点が挙げられる。既存アプリケーションとの連携やクラウド上での運用、アプリケーション配布などが容易である点は、特にエンタープライズなシステムを検討している開発者や企業は着目すべき点といえる。また、Amazon EC2やGAEなどとの連携もサポートしており、これらと併用することが可能だ。本サービスもまた利用開始、リソース追加ともに即時可能である。
コストは、開発環境を利用するユーザー数やアプリケーション作成数に応じて変わる。アプリケーション10本まで開発可能なEnterprise Editionで、1ユーザー当たり月額6000円である。
Force.comは、独自アプリケーションの開発だけでなく、そのアプリケーションの運用にも重きを置いている点が特徴で、既にエンタープライズのシステム構築から運用に少なからず用いられている実績からも分かるように、(あくまでも現時点では)GAEよりも商用の色が濃い、企業向けのサービスといえるだろう。
マイクロソフト製品で構成されたWindows Azure Platform
Microsoftが2010年1月に世界21カ国で正式にスタートしたWindows Azure Platform(Windows Azure)は、近年Microsoftが掲げているコンセプト「ソフトウェア+サービス」の中核を担うサービスである(参考:同社Webページ「Windows Azure Platformとは」)。
Windows Azureの特徴は、Microsoft自身のデータセンターだけではなく、富士通やDell、Hewlett-Packard(HP)といったMicrosoft以外のベンダーが自社のデータセンターでサービスを提供することを認めている(=Azure Platform Appliance自体を他社に提供する)点もあるが、それよりもOSやミドルウェア、開発ツールといったシステムの環境全体を自社製品でカバーしている点が大きい。
Windows AzureではWindows Server 2008 R2のAzure版が標準で用意されており、SQLやその他に必要と思われるミドルウェアもMicrosoft製ソフトウェアのWindows Azure版が多数用意されている。IaaSはもちろん自由度の高いサービスではOSやミドルウェアを自由に選択できるものの、原則的にはそれぞれ個々に自分で更新パッチを当てたりメンテナンスをする必要があり、実際のところかなり面倒で気を遣う。しかし、Windows Azureを利用することでこうした日々のさまざまなメンテナンスから解放される。そのメリットは非常に大きい。
開発ツールにはVisual Studioや.NETベースの開発機能が用意されており、これらに慣れている開発者にとってAzureは非常に使いやすい。これまでWindowsベースのアプリケーション開発に慣れ親しんできた開発者や、Windowsベースのアプリケーション資産を生かしたい企業にとっては非常に親和性が高いサービスといえる。
ただし問題点もある。Windows環境をベースにしているとはいっても、スタートしてまだ日が浅いこともあってか、現時点ではWindows Azureがサービスとして提供していない機能もある。そのため、現時点では従来のWindows Server 2008 R2で運用していた既存のアプリケーションをそのまま直ちにWindows Azureのクラウド環境へ移行できるとは限らず、再設計や修正が必要な場合もしばしばある。
また、先に述べたようにMicrosoftは他社がサービスを提供する形態を認めており、自身は情報が漏えいした場合の補償・責任は一切負わないというスタンスである点も要注意だ。そもそもデータを外部に置くというリスクの問題は、Microsoftも呼び掛けているように、前述の各社のサービスを含め全てにおいて同様である。Windows Azureの場合は複数の企業がサービスを提供する(ただし現時点でサービスを開始しているMicrosoft以外のベンダーは富士通のみ)ことから、今後はWindows Azureを運営しているデータセンターのセキュリティやポリシーにも気を配る必要が出てくるだろう。
開発したアプリケーションの商用利用(SaaSでの有償提供など)に関しては、MicrosoftのWindows Azure Marketplaceを利用する。そのサービスやアプリケーションを提供するWindows Azure Marketplace Applicationsの正式なリリースは、2011年7月のMicrosoft Worldwide Partner Conferenceにてアナウンスされている。
中山貴禎(なかやま たかよし)
ネットエージェント 取締役
主にコンシューマ市場を中心にさまざまな業界を渡り歩き、2008年ネットエージェント入社、2010年より現職。ジェネラリストとして各種企画および技術部門を統括。また、機密情報の外部流出対策製品のプロダクトマネジャーも兼務し、自ら知財も取得するなど活動範囲は広い。
執筆・講演活動では、広く一般の方々に向け、誰もがITや情報セキュリティなどの最も肝心な部分をきちんと理解でき、普段の生活に生かせるような解説方法を模索中。
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